昭和41年の調査で見つかった農家
細川家住宅は、香川県さぬき市多和額東にある江戸時代後期の茅葺農家で、昭和46年(1971年)6月22日に国の重要文化財に指定された。
文化庁の台帳には、いまも「細川家住宅(香川県大川郡長尾町)」の名で登録されている。長尾町は平成14年(2002年)にさぬき市へ合併しており、括弧内は指定当時の所在地を残したものである。全国には同姓の指定物件が複数あるため、この括弧は区別の役割も果たしている。現在の住所で探すならさぬき市になる。
公になったのは比較的遅い。さぬき市によれば、昭和41年(1966年)5月の民俗調査でこの家が記録され、昭和44年の古民家調査を経て、昭和46年6月に国の重要文化財となった。それまでは、代々この地で農業を営んできた一家の住まいにすぎなかった。徳島県との県境に近い矢筈山の西山麓、標高およそ400メートルの谷間の集落に建つ。
文化庁データベースは主屋を桁行12.7メートル、梁間5.8メートル、寄棟造、茅葺とし、年代を18世紀中期頃とする。さぬき市の文化財案内は軸部を桁行六間半、梁行三間と記しており、両者はおおむね一致する。主屋のほかに納屋、便所、木納屋が並ぶ屋敷構えである。
指定の理由は「土座」にある
文化庁の解説文は短い。香川県東部山地の典型的な農家であること、平面形式が二室並列型であること、柱や梁の扱いなど内部構造に地方色の強い工法が見られること。この三点である。中身をほどくと、意味がはっきりしてくる。
内部は横に三つ、土間・土座・座敷と並ぶ。土間は「ニワ」と呼ばれる作業と炊事の場で、かまど、大かまど、唐臼が置かれている。その隣、一段上がったところが土座である。ここが要点になる。
土座は、いわゆる床ではない。土間の土を突き固め、藁や籾殻を敷き、その上にむしろを広げて生活の場とする。座り、食べ、眠る場所がそれで足りていた。この方式は室町時代の古い様式で、18世紀にはすでに多くの農家が板床へ移っている。細川家では残った。中央には囲炉裏が切られ、そこから立ちのぼる煙が小屋組の材をいぶし、防腐と防虫の役を果たしてきた。当初材が多く残る理由の一つでもある。
その奥の座敷は、床に竹を並べたスノコ床で、竹座と呼ばれる。外まわりは柱を塗り込めた大壁造りで、開口部が少ない。庭に向かって開く家ではなく、寒い山腹で熱を逃がさないための造りである。
屋根にも地域の事情が出ている。茅葺は軒先近くまで低く葺きおろされており、この納まりを土地では「ツクダレ」と呼ぶ。積もった雪を滑り落としやすくする工夫で、雪をほとんど見ない沿岸平野とは条件が違うことがわかる。
見学の実際
公開されており、観覧料は無料である。さぬき市の案内では開館時間は9時から16時、休館日は月曜日と12月29日から1月3日まで。問い合わせ先はさぬき市生涯学習課(0879-26-9974)。常駐の職員がいる施設ではないので、遠方から車で向かうなら事前に確認しておくと安心である。
屋内は空にせず、道具を置いたまま公開している。かまど、石臼、農具、生活用品がそれぞれ使われていた位置に据えられ、隣の納屋には代々の農機具が並ぶ。展示ケースに収めた資料館というより、住人が少し外に出ているだけの家に近い。
立地も見どころのうちである。細川家住宅は、前山おへんろ交流サロンと四国八十八箇所霊場第88番札所・大窪寺のちょうど中間にあたる。かつて志度から阿波へ塩を運んだ道沿いで、多和地区は江戸前期の寛永年間まで額邑(がくむら)と呼ばれていた。結願を目指して歩く遍路道からは少し外れ、細い坂道を分け入った先にある。
手前に駐車場があり、そこから徒歩でわずかに登る。道幅は狭く舗装も簡素なので、歩きやすい靴で訪れたい。暖かい季節は足元に注意を払っておくとよい。外観の撮影は問題なく、屋内については現地の掲示に従うこと。
大窪寺と組み合わせれば、東讃の山間で半日をゆっくり過ごせる。瀬戸内海沿いの観光ルートとはまったく別の香川がここにある。
Q&A
- 細川家住宅は内部を見学できますか。料金はかかりますか。
- 内部まで見学でき、観覧料は無料です。さぬき市の案内による開館時間は9時から16時、休館日は月曜日と12月29日から1月3日までです。問い合わせは0879-26-9974(さぬき市生涯学習課)。
- 細川家住宅はなぜ「香川県大川郡長尾町」と登録されているのですか。
- 指定を受けた昭和46年(1971年)当時、この地が大川郡長尾町だったためです。長尾町は平成14年(2002年)の合併でさぬき市の一部になりました。台帳の括弧書きは同姓の他物件と区別する役割も持ちますが、現在の所在地はさぬき市多和額東46番地です。
- 細川家住宅の「土座」とはどういうものですか。
- 土間の土を突き固め、藁や籾殻を敷き、その上にむしろを広げて居室としたものです。中央には囲炉裏があります。室町時代からの古い様式で、この家が建てられた18世紀には多くの農家が板床に移っていました。それが残っている点が指定の大きな理由です。
- 細川家住宅はいつ頃建てられたのですか。
- 文化庁データベースは主屋の年代を18世紀中期頃、時代区分としては江戸後期としています。18世紀初頭とする説もありますが、一次資料である文化庁の記載を基準とするのが妥当です。
- 細川家住宅はお遍路道のどのあたりにありますか。
- 前山おへんろ交流サロンと第88番札所・大窪寺の中間にあたり、志度と阿波を結んだ旧道沿いに位置します。歩き遍路の主要ルートからは横道に入るため、立ち寄るには少し寄り道が必要です。
基本データ
| 名称 | 細川家住宅(ほそかわけじゅうたく)/台帳登録名「細川家住宅(香川県大川郡長尾町)」 |
|---|---|
| 所在地 | 香川県さぬき市多和額東46番地 |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物)/指定番号 01813 |
| 指定年 | 昭和46年(1971年)6月22日 |
| 員数 | 1棟(主屋) |
| 寸法 | 桁行12.7メートル、梁間5.8メートル、寄棟造、茅葺 |
| 所有者 | 文化庁データベースに所有者名の記載なし。さぬき市が公開施設として管理 |
| 公開状況 | 9時〜16時、無料。休館日は月曜日および12月29日〜1月3日(問い合わせ 0879-26-9974) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) — 細川家住宅(香川県大川郡長尾町)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/3296
- 文化遺産オンライン — 細川家住宅(香川県大川郡長尾町)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/191133
- さぬき市 — 重要文化財細川家住宅
- https://www.city.sanuki.kagawa.jp/institution/culture/culture_13
- さぬき歴史文化探訪ナビ — 細川家住宅
- https://rekinabi-sanuki.net/ja/building/003.html
最終更新日: 2026.08.09