通りに向けた商家の顔

松賀屋玄関棟は、香川県三豊市仁尾町にある明治後期(1898年から1912年ごろ)建築の木造平屋建で、令和4年(2022年)10月31日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。塩と海運で栄えた塩田忠左衛門家の屋敷、松賀屋の敷地東端に建ち、道路に正面を向ける。

商家の建物には表と奥がある。客を迎え、商いの気配を見せる棟は通りに面して身なりを整え、家族の暮らしはその後ろに退く。玄関棟は前者にあたる。登録基準が「国土の歴史的景観に寄与しているもの」であるのも、この棟が町並みのなかで果たしてきた役割を示している。奥に建つ主屋は「造形の規範となっているもの」という別の基準で登録された。

建築面積は約82平方メートル。規模は大きくない。仕事をしているのは、あくまで敷地と道路の境目である。

表構えを読む

屋根は入母屋造の瓦葺で、平入とする。妻側ではなく、軒の長い側に入口を開く形式である。通りに対して横に広い、落ち着いた構えになる。

正面の下屋の下、戸口の北側には出格子が張り出す。内から外の様子はうかがえるが、外から内はよく見えない。商家では品物を通行人に見せる役目も担った。

その上に、つし二階が横につながる。台帳の構造欄が平屋建と記すのは、つしが天井の低い屋根裏空間で、正規の階として数えないためである。壁は鼠漆喰で塗られ、虫籠窓が開く。太い漆喰の縦格子を並べた小窓で、虫籠に似た姿から名がついた。

灰色の漆喰、黒い格子、重い瓦。色数は少ない。そして、いずれも安い仕上げではない。

玄関脇の軒先も見ておきたい。ここの雨どいは恵比寿の形につくられている。漁と商売の福神を海で財を成した家が据えたことになる。

二本の動線

この棟には、性格の異なる通り道が二本ある。

南側の土間は中庭に抜け、中庭からさらに主屋の土間へつながる。荷や水が動き、奉公人が行き来した実務の線である。

もう一方は床上の線。訪問者は取次に上がって出迎えを受け、和室を経て主屋へ導かれた。そして取次の北には茶室が設けられている。

茶室の位置は、この家の客あしらいの考え方をよく表している。奥まった私的な区画ではなく玄関のすぐそばに置くことで、家の内側まで通さずに一服を差し出せる。商談と作法が敷居のあたりで交わる構成である。

文化庁の解説は、この棟の価値を「商家の表構えを整える」と短く記す。屋敷が屋敷として通りから読み取れるようにしているのが、玄関棟の役割だった。

町並みのなかで見る

仁尾は塩の町になる前から港町だった。中世には都とつながりの深い大きな社寺の荘園に組み込まれ、近世には千石船が寄港して商家が軒を連ねた。旧市街には今も江戸期から昭和期の建物が点在しており、玄関棟だけを見て引き返すのはもったいない。

この棟は通りから外観を眺められる。ここは押さえておきたい点で、敷地自体は私有地であり、内部を見られるかどうかは日程しだいだからである。管理運営は屋敷と同じ名を冠した一般社団法人松賀屋があたり、不定期の無料公開日をウェブサイトとSNSで告知している。3時間5,000円(税別)などで行われてきた有料のレンタル利用は、令和8年(2026年)2月からメンテナンスのため休止中である。

玄関棟の南には、同じく登録有形文化財の土蔵が続く。人を迎えるための構えと、物を納めるための構えが、同じ通りに並んでいる。二棟をひと続きに眺めると、商家の表がどう組み立てられていたかが見えてくる。

車なら高松自動車道さぬき豊中インターチェンジから約15分、無料駐車場が5台分。公共交通ではJR予讃線詫間駅から三豊市コミュニティバス仁尾線を使う。月曜から土曜(祝日を除く)の運行で運賃は1回100円だが、便数は少ない。詫間駅からタクシーなら12分から15分ほどである。

Q&A

Q松賀屋玄関棟は外から見られますか。
A見られます。敷地東側で道路に面しているため、出格子や鼠漆喰のつし二階、虫籠窓といった表構えは通りからいつでも眺められます。内部の見学は管理法人が設ける公開日やイベントの機会に限られます。
Q松賀屋玄関棟はいつの建築ですか。主屋とどちらが古いのですか。
A明治後期、1898年から1912年ごろの建築とされます。大正5年(1916年)建築の主屋より古く、敷地内では先に建った棟です。登録有形文化財となったのは令和4年10月31日、登録番号は37-0467です。
Q松賀屋玄関棟に茶室があるというのは本当ですか。
A本当です。床上に上がってすぐの取次、その北側に茶室が設けられています。奥へ通さずに客をもてなせる配置で、文化庁の国指定文化財等データベースの解説にも記載があります。
Q松賀屋玄関棟は主屋とは別の文化財として扱われるのですか。
A別件です。同じ敷地の三棟が同日に個別登録されました。玄関棟が37-0467、主屋が37-0466、土蔵が37-0468です。主屋のみ「造形の規範となっているもの」、玄関棟と土蔵は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」が登録基準です。
Q松賀屋玄関棟へ公共交通で行くにはどうすればよいですか。
AJR予讃線詫間駅から三豊市コミュニティバス仁尾線で仁尾の中心部へ向かいます。月曜から土曜(祝日を除く)運行、運賃は1回100円ですが便数が少ないため時刻表の確認が必要です。詫間駅からタクシーを使えば12分から15分ほどで着きます。

基本情報

名称松賀屋玄関棟(まつがやげんかんとう)
所在地香川県三豊市仁尾町仁尾字北丁980
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号37-0467 基準:国土の歴史的景観に寄与しているもの
指定年令和4年(2022年)10月31日登録
員数1棟
寸法木造平屋建(つし二階付)、瓦葺、建築面積82平方メートル
所有者一般社団法人松賀屋
公開状況外観は通りから見学可。内部は管理法人が設ける不定期の無料公開日に限られる

参考文献

国指定文化財等データベース — 松賀屋玄関棟
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00014416
国指定文化財等データベース — 松賀屋主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00014415
一般社団法人松賀屋 — 松賀屋と仁尾
https://www.nio-matsugaya.com/blank-1
一般社団法人松賀屋 — お問合せ・アクセス
https://www.nio-matsugaya.com/blank-4
三豊市 — 歴史を感じる市内の家屋が国の登録有形文化財に
https://www.city.mitoyo.lg.jp/hotnews_old/reiwa4/202207hot/9908.html
三豊市 — コミュニティバス 時刻表・路線図
https://www.city.mitoyo.lg.jp/kakuka/seisaku/koutsuu/1_1/11655.html

最終更新日: 2026.08.09