原料と帳面を収めた、四棟でいちばん小さな建物

山吉醤油原料蔵及び帳場は、香川県小豆郡小豆島町苗羽字今坂にある明治41年(1908年)建設の醤油醸造施設で、平成17年(2005年)2月9日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

屋敷地を横断する水路を挟んで、諸味蔵の北側に南北棟で建つ。平面はほぼ正方形に近く、桁行8.2メートル、梁間7.7メートル。切妻造、桟瓦葺の木造2階建で、東面に下屋庇を添わせる。建築面積は74平方メートル。山吉醤油の登録4件のうち最も小さく、2階建はこの一棟だけである。

その小さな平面に、性質の異なる二つの機能が同居する。ひとつは原料、すなわち大豆と小麦の保管。もうひとつが帳場、注文を書き留め、荷を記録し、勘定を合わせる場所だ。家業として営まれた醸造所では、生産と経理が一つ屋根の下にあるのが普通だった。山吉醤油の商いは、この建物で回っていた。

大豆を船で運んでいた島

小豆島は四百年にわたって醤油を造り続けてきたが、その原料の大半を島内では作っていない。塩はあった。中世以前から製塩が営まれ、元禄期の生産量は赤穂に次いで第2位だったとされる。気候も雨が少なく日照が長く、麹づくりに向いていた。足りなかったのは大豆と小麦を育てる耕地で、これらは海路で運び込むほかなかった。

だから原料蔵がいる。船で着いた穀物は、使うときまで乾いた状態で虫を寄せずに置いておかねばならない。2階建にすれば、地面からの湿気を避け、通風も確保しやすい。この建物が建った明治41年は、諸味蔵や圧搾場から二十年後にあたり、同じ敷地の釜屋と同年である。明治後期は島全体が設備投資に向かった時期で、徒歩圏にあるマルキン醤油記念館の建物(もとの醸造工場)も明治41年から42年の建設とされる。

背景となる商いの規模も小さくない。小豆島醤油協同組合によれば、明治11年(1878年)から19年(1886年)にかけて島の醸造家は約400戸を数え、仕込石数は35,000石に達した。販路は京都・大阪・神戸にとどまらず、広島、高知、愛媛、九州にまで及んだという。この時代の醸造所は、発酵の工房であると同時に、海運と信用取引の会社でもあった。帳場に置かれた帳面は、その全体をつなぎとめる道具だったことになる。

壁を揃えるという判断

登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。登録番号は37-0260で、平成17年2月28日、第45回登録として告示された。

文化庁の解説文がわざわざ書き留めているのは、外部の仕上げが水路の向こうの諸味蔵と同じである点だ。腰は焼杉の縦板張り、その上は白漆喰塗。建てられた年も高さも用途も違う二棟を、同じ仕上げで揃えている。路地から見たとき、ひとつの屋敷として読めるようにという判断だろう。醤の郷の蔵は何十年もかけて建て継がれてきたが、黒と白の壁が繰り返されることで、雑多な小屋の集合ではなく、まとまりのある景観になっている。

東面の下屋庇は、壁沿いの作業帯を覆う実用の設えであると同時に、こちらが出入りの側であることを示している。この規模の2階建では、庇の水平線が入ることで、のっぺりと高い壁面が視覚的に分節される効果もある。

山吉醤油は平成14年(2002年)に廃業した。古くから親交の厚かった近所の同業者、正金醤油が蔵を引き継いで製造を再開し、同社ではこの一角を「山吉蔵」と呼んでいる。建物は私有地にあり日々使われていて、見学者用の入口も一般公開もない。正金醤油は平日・事前予約で蔵見学に応じてきた実績があるため、内部を希望する場合は事前に連絡してほしい。外観は公道から見え、道路上からの撮影に制限はないが、作業場には立ち入らない配慮がいる。

予約なしで訪ねられる施設としては、同じ苗羽地区のマルキン醤油記念館がある。開館は9時から16時、入館は有料。明治期に実際に使われた醸造道具や江戸から昭和初期の帳面などが展示され、稼働中の天然醸造蔵を見下ろすギャラリーも設けられている。坂手港から車で約3分、草壁港から約10分、土庄港から約30分。オリーブバス坂手線「丸金前」下車すぐである。

Q&A

Q山吉醤油原料蔵及び帳場の「帳場」とは何をする場所ですか。
A帳場は醸造所の事務を扱う場所で、注文や荷の受け渡し、勘定を帳面に記録しました。原料蔵と同じ建物にあるのは、家業として営まれた醸造所では珍しくない配置で、荷が着く場所のすぐそばに事務の机が置かれていたことを示します。
Q山吉醤油原料蔵及び帳場はいつの建物で、どのくらいの大きさですか。
A明治41年(1908年)の建設です。桁行8.2メートル、梁間7.7メートルとほぼ正方形に近い平面で、切妻造・桟瓦葺の木造2階建、建築面積は74平方メートル。山吉醤油の登録4件のうち最小で、2階建はこの一棟だけです。
Q山吉醤油原料蔵及び帳場の外観が諸味蔵と似ているのはなぜですか。
A腰を焼杉の縦板張り、上部を白漆喰塗とする仕上げが両者で共通しているためです。文化庁の解説文もこの点に触れており、建設年が二十年離れた二棟が、同じ壁の仕上げによってひとつの景観を作り出しています。
Q山吉醤油原料蔵及び帳場は見学できますか。
A一般公開はしていません。正金醤油が使用する稼働中の醸造所の建物で、見学設備はありません。同社は平日・事前予約で蔵見学に応じてきた実績があるので、内部を希望する場合は事前に連絡してください。外観は公道から見られます。
Qなぜ山吉醤油には専用の原料蔵が必要だったのですか。
A小豆島は製塩が盛んだった一方、大豆や小麦を作る耕地に乏しく、原料は船で運び込んでいました。まとまった量が一度に届くため、使うまで乾いた状態で虫を寄せずに保管する必要があり、平屋の小屋ではなく2階建の蔵が用意されました。

基本データ

名称山吉醤油原料蔵及び帳場(やまよししょうゆげんりょうぐらおよびちょうば)
所在地香川県小豆郡小豆島町苗羽字今坂甲709-2
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 37-0260
指定年平成17年(2005年)2月9日登録/同年2月28日告示(第45回登録)
員数1棟
寸法桁行8.2メートル、梁間7.7メートル/建築面積74平方メートル/木造2階建、切妻造、桟瓦葺、東面に下屋庇
所有者文化庁データベースに所有者名の記載なし。現在は正金醤油株式会社が使用
公開状況稼働中の醸造所のため一般公開なし。外観は公道から見学可。蔵見学は平日・事前予約で受け付けられてきた実績あり

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース — 山吉醤油原料蔵及び帳場
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004668
文化庁 国指定文化財等データベース — 山吉醤油諸味蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004666
小豆島醤油協同組合 — 小豆島醤油の歩み
https://shima-shoyu.com/history/
正金醤油株式会社 — 正金醤油のご案内
https://shokinshoyu.jp/company/
小豆島町 — 醤の郷の近代化産業遺産群
https://www.town.shodoshima.lg.jp/gyousei/kakuka/shogaigakushuka/2/1/3151.html
盛田株式会社 — マルキン醤油記念館
https://marukin.moritakk.com/kinenkan/

最終更新日: 2026.08.09