鋳物師の家に残る石と土の蔵
森山家住宅土蔵(もりやまけじゅうたくどぞう)は、鹿児島県姶良市加治木町朝日町にある明治37年(1904年)建築の蔵で、平成14年(2002年)6月25日に国の登録有形文化財に登録された。薩摩藩の御用を務めた鋳物師・森山家の屋敷に建つ3棟の登録文化財のうち、最も早く登録された建物である。
規模は桁行約17メートル、梁間約5メートル。建築面積83平方メートルの2階建で、屋根は瓦葺。構造の記載には二つの語が要る。腰部が石造、その上が土蔵造である。石積みの上に半間ごとに柱を立て、土壁と漆喰で上部を仕上げる。
文化庁が特徴として挙げるのは、石造部分が通例より高くまで及ぶ点だ。この種の蔵は腰の低い位置までを石とし、それより上を土蔵とするのが普通で、石の灰色と漆喰の白の割合が、他所の蔵とはっきり違って見える。
内部は南北2室に分かれ、2階が設けられている。西面と南面に入口が3か所、壁の数か所に窓が開く。
大砲と黒糖鍋を鋳た家
姶良市の資料によれば、森山家は加治木で鍋・釜を扱った藩御用達の鋳物師だった。二つの仕事がこの家の位置を決めている。幕末には磯の集成館で大砲の鋳造に関わり、また薩摩藩の財政を支えた奄美・沖縄の黒糖製造用の鍋を製作・販売した。砂糖を煮詰める大鍋の需要は膨大で、藩の収入と直結していた。
集成館で大砲鋳造に携わった森山伊助の息子3人は、それぞれ鋳物業を営み、「山一」「山二」「山三」の屋号を名乗った。この屋敷は次男家のもので、土蔵の屋根には「山二」の屋号が記されている。
主屋も同じ明治37年の建築で、平成18年(2006年)8月3日に登録。旧作業場が平成19年(2007年)10月2日に続いた。平成25年(2013年)8月、3件の建物と土地が姶良市に寄付され、市が整備のうえ、森山家の歴史や明治維新に関わる展示スペースを設けている。
旧作業場には、確かめきれていない伝承がある。嘉永4年(1851年)に島津斉彬が興した第1期集成館の建物を移設して造られたというものだ。集成館の建物は文久3年(1863年)の薩英戦争で焼失し、磯の集成館跡に残るのは建て直した後のものである。旧作業場の古い柱材には「ちょうな」で加工した痕が見え、新旧の材が混じっている。姶良市はこれを可能性として提示し、事実であれば世界遺産に関わる建物が加治木にもあることになると記す。断定はしていない。
「再現することが容易でないもの」
登録有形文化財には3つの登録基準がある。多くは「造形の規範となっているもの」か「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で登録されるが、森山家住宅土蔵は三つ目の「再現することが容易でないもの」にあたる。理由は金物にある。
庇を支える「持ち送り」と呼ばれる部品について、姶良市は鋳物師の家だからこそできた優品であり、再現が困難であると評価されていると説明する。大砲と黒糖鍋を鋳た同じ工房が、自分の蔵の部材も鋳た。今これを作り直そうとすれば、形を写すのではなく技術そのものを立て直すことになる。この登録基準は、そうした対象を想定して設けられている。
加治木には石造の建物の系譜がある。近くの旧加治木郷土館には、地元産の加治木石(凝灰岩)を用いた石造倉庫が残る。ただし森山家住宅土蔵の石材の産地について、登録記録は特に記していない。
登録有形文化財は、国宝や重要文化財の指定とは別の制度である。平成8年(1996年)に始まり、指定制度では対応しきれない近代の建造物を広く保護するために設けられた。所有者は届出を前提に建物を修理し使い続けることができ、規制は指定より緩い。
見学の実際
外観はいつでも見学できる。内部は事前予約制で、平日午前9時から午後5時まで。見学希望日の2週間前までに姶良市教育委員会社会教育課文化財係(電話 0995-66-3752)へ連絡して予約する。予約状況によっては日時の調整を求められる場合がある。
予約する価値は大きい。当日は市職員または歴史ボランティアガイドが現地で解説する。土蔵の北蔵には森山家所蔵の品々と同家にまつわる歴史資料が展示され、旧作業場では集成館事業との関わりや加治木の商業史を解説するパネルのほか、敷地南側の発掘調査で出土した鋳型や鉄滓が並ぶ。
主屋にも目を向けたい。姶良市の解説によれば、縁側や欄間に屋久杉材をふんだんに用い、欄間は既製品ではなく住宅の寸法に合わせた特注品である。次の間の釘隠には、森山家自身が鋳造したものが使われている。
所在地は国道10号の加治木朝日町交差点そば。敷地南側に駐車スペースがあり、マイクロバスも進入できる。市は進入経路の案内図を公開している。最寄り駅はJR日豊本線の加治木駅、鹿児島空港からも車で30分圏内である。市は今後、観光拠点としてフルオープンに向けた準備を進めるとしており、公開方法は将来変わる可能性がある。
Q&A
- 森山家住宅土蔵はどこにありますか。行き方は。
- 鹿児島県姶良市加治木町朝日町172、国道10号の加治木朝日町交差点のそばです。敷地南側に駐車スペースがあり、マイクロバスも進入できます。最寄り駅はJR日豊本線の加治木駅で、鹿児島空港からも車で30分圏内です。
- 森山家住宅土蔵の内部は見学できますか。予約は必要ですか。
- 外観はいつでも見学できます。内部は平日午前9時から午後5時までの事前予約制で、2週間前までに姶良市教育委員会社会教育課文化財係(0995-66-3752)へ連絡が必要です。予約すると市職員または歴史ボランティアガイドが解説します。
- 森山家住宅土蔵はなぜ登録有形文化財になったのですか。
- 平成14年に「再現することが容易でないもの」という登録基準で登録されました。庇を支える持ち送りが鋳物師の家ならではの優品と評価されており、石造部分が通例より高くまで及ぶ構造も特徴として挙げられています。
- 森山家とはどのような家で、森山家住宅土蔵とどう関わるのですか。
- 加治木で鍋・釜を扱った薩摩藩御用達の鋳物師の家です。磯の集成館での大砲鋳造に関わり、奄美・沖縄の黒糖製造用の鍋も製作・販売しました。この屋敷は次男家のもので、土蔵の屋根に屋号「山二」が記されています。
- 森山家住宅土蔵のほかに敷地内で見られる建物はありますか。
- 明治37年建築の主屋(平成18年登録)と旧作業場(平成19年登録)があります。旧作業場は第1期集成館の建物を移設したという言い伝えがありますが、確定はしていません。3棟と土地は平成25年に姶良市へ寄付されました。
基本情報
| 名称 | 森山家住宅土蔵(もりやまけじゅうたくどぞう) |
|---|---|
| 所在地 | 鹿児島県姶良市加治木町朝日町172 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号 46-0011 |
| 指定年 | 平成14年(2002年)6月25日登録(告示同年7月16日) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 石造及び土蔵造2階建、瓦葺、桁行約17メートル×梁間約5メートル、建築面積83平方メートル |
| 所有者 | 姶良市 |
| 公開状況 | 外観は常時見学可。内部は平日9時から17時の事前予約制(2週間前までに0995-66-3752へ) |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース 森山家住宅土蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00002870
- 姶良市 森山家住宅
- https://www.city.aira.lg.jp/bunkazai/shisetsu/kyoiku/kunitoroku/007.html
- 姶良市 国登録文化財
- https://www.city.aira.lg.jp/bunkazai/kanko/bunka/bunkazai/kunitoroku.html
- 文化遺産オンライン 森山家住宅主屋
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/118767
- かごしま文化財事典プラス 森山家住宅土蔵
- https://k-bunkazai.com/cultural/f-q-60010/
最終更新日: 2026.08.11