五十嵐商店第二号倉庫―裏庭に入ったキングポストトラス

秦野市本町、五十嵐商店の敷地の後方に、よく似た倉庫が二棟並ぶ。どちらも木造二階建、建築面積27平方メートル、桁行三間、梁間二間の切妻造、平入。登録された日も同じである。ところが屋根の架け方だけが違う。

第二号倉庫は、店舗兼主屋と第一号倉庫のあいだに南面して建ち、第一号倉庫に連結する。天井の上に組まれているのはキングポストトラスだ。梁間いっぱいに水平材を渡し、その中央から棟に向けて真束を立て、真束と水平材のあいだに斜材を入れて三角形を固める。国指定文化財等データベースはこの点を明記し、「新たな技法を取り入れた倉庫」と記す。

数メートル隣の第一号倉庫は、同じ家が同じころに建てながら、登梁形式で屋根を受けている。ほぼ同じ大きさの屋根が、片方は洋式のトラスで、片方は在来の架構で支えられている。

トラスであること、登録されたこと

キングポストトラスは、明治期に招かれた外国人技術者と官営の建築事業を通じて日本に入った。学校、工場、機関車庫、公会堂といった大きな建物で先に広まり、地方の商家の裏庭にまで届くのは、ずっと後のことになる。

構造の考え方が在来の和小屋とは異なる。和小屋は梁と束を積み上げ、材の太さと重さで圧縮を受け止めていく。トラスは三角形を組んで陸梁に引張力を負担させ、少ない材でより長く飛ばす。

もっとも、秦野の荒物商に長いスパンは必要ない。桁行三間、梁間二間の建物である。それでもトラスを選んだところに、震災後のこの町で誰が建てていたのか、大工が何をすでに手にしていたのかが表れている。

外壁にも同種の判断が見える。第一号倉庫と同じくモルタル仕上げだが、石造風の目地は壁面全体ではなく腰までで止まる。扉口はモルタル仕上げの両開戸、二階南面には引分戸の窓が穿たれる。

登録は平成29年(2017年)10月27日、第88回登録、登録番号14-246。登録有形文化財の制度は1996年(平成8年)の文化財保護法改正で生まれた。築50年以上の建造物を対象に、外観の大きな変更を許可制ではなく届出制とし、税制優遇と修理の技術支援を組み合わせる、指定より軽い枠組みである。この倉庫の登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。年代は昭和初期、西暦は1926年から1934年の幅で示されている。

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秦野は葉たばこの町だった。丹沢山塊の南麓に開けた平地で、江戸末期から昭和初期まで栽培が続いた。本町四ツ角はその商業の中心で、大正12年(1923年)の関東大震災による火災でほぼ焼けている。復興では道路が拡幅され、商人たちは二度と燃えない材料で建て直す姿を町に見せたがった。モルタルを塗った木造に、古典様式やアールデコの衣装を着せる。それが本町の流儀になった。

五十嵐商店は荒物・雑貨・乾物を扱い、倉を持ち続けた。店の背後には5棟が残り、2017年に店舗兼主屋とあわせて4件として登録されている。

倉庫の内部は非公開である。敷地は個人の住まいで、通り抜けて見学できる場所ではない。奥へ番号順に連なる倉庫の配置は、見るというより推し量るものになる。

ただし店舗兼主屋の一階は喫茶店として使われてきた。土間と上がり座敷、荒物商時代の品が残る棚。そこに座ることは、この敷地の物語の前半分の内側にいることでもある。二階・三階は貸しスペースとして活用され、機会が合えば見学できると報じられている。小さな店であり、営業日も条件も変わりうるので、出かける前に確かめておきたい。

店先に立って裏を思い描くと、この配置は働く経済としてよく理解できる。通りに店、上に住まい、後ろに蔵、そして番号順。第二号倉庫は帳場にいちばん近い蔵である。よく手に取る品がそこにあったと考えるのが自然だろう。

Q&A

Qキングポストトラスとはどのような小屋組ですか。
A水平の陸梁を渡し、その中央から棟へ真束を立て、斜材で三角形を固める洋式の架構です。明治期に西洋の技術とともに日本へ入りました。地方の小さな倉庫でこれを用いた点を、国のデータベースは「新たな技法を取り入れた」として書き留めています。
Q隣の第一号倉庫とはどこが違うのですか。
A平面も規模もほぼ同じです。第一号倉庫は在来の登梁形式で屋根を受け、外壁の目地を壁面全体に刻んで石造風とします。第二号倉庫はトラスを用い、目地は腰までで止めています。位置も店寄りで、第一号倉庫に連結しています。
Q見学はできますか。
A倉庫は非公開です。敷地は個人所有で立ち入りはできません。敷地正面の店舗兼主屋一階で営業してきた喫茶店が、この物件で実際に立ち寄れる部分になります。
Q正確な建築年はわかっていますか。
A単年では記録されていません。国のデータベースは時代を昭和前、年代を昭和初期とし、西暦を1926年から1934年の幅で示します。秦野市も「昭和初期竣工」と記すにとどめています。
Qあわせて訪ねられる場所はありますか。
A本町地区には震災復興期の登録有形文化財が集まっており、旧商店や蔵が徒歩圏に点在します。小田急小田原線の秦野駅までは徒歩5分ほど。丹沢へのハイキングの起点としても知られる町です。

基本データ

名称五十嵐商店第二号倉庫(いがらししょうてんだいにごうそうこ)
区分登録有形文化財(建造物)
登録年月日2017年(平成29年)10月27日/第88回登録/登録番号 14-246
登録基準国土の歴史的景観に寄与しているもの
員数1棟
構造及び形式木造2階建、建築面積27平方メートル。桁行三間、梁間二間、切妻造、平入。外壁モルタル仕上げ、腰まで目地を刻む。扉口はモルタル仕上げの両開戸。小屋組はキングポストトラス
時代・年代昭和前/昭和初期(1926年〜1934年)
種別産業3次/建築物
所在地神奈川県秦野市本町二丁目2687
所有者個人
公開状況内部非公開。敷地は私有地。正面の店舗兼主屋一階は喫茶店として営業してきたが、営業日等は事前確認が必要
アクセス小田急小田原線 秦野駅から北東へ徒歩約5分

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)/五十嵐商店第二号倉庫
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00011907
文化遺産オンライン/五十嵐商店第二号倉庫
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/275392
秦野市公式ホームページ/五十嵐商店
https://www.city.hadano.kanagawa.jp/soshiki/4/1019/8/5/3/2/1891.html
文化遺産オンライン/五十嵐商店第一号倉庫
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/247351

最終更新日: 2026.07.16