岩本楼ローマ風呂:江の島に息づく登録有形文化財の洋風浴場

神奈川県藤沢市の江の島に佇む老舗旅館「岩本楼本館」。その館内に、昭和5年(1930年)頃に建造された西洋風浴室「岩本楼ローマ風呂」があります。平成13年(2001年)に国の登録有形文化財に登録されたこの浴場は、古代ローマの公衆浴場(テルマエ)を範とした馬蹄型の浴槽、聖堂を思わせるガラスドーム天井、そしてイタリア製のステンドグラスが織りなす、まさに唯一無二の空間です。岩本楼自体は鎌倉時代から850年以上の歴史を持ち、かつては江島神社の別当寺「岩本院」として将軍や大名の宿坊を務めた由緒ある宿です。

歴史的背景

岩本楼の起源は、鎌倉時代にまで遡ります。源頼朝の時代、「岩本坊」は江の島岩屋および江島神社奥津宮の管理を担う別当寺として創建されました。やがて「院」号を賜り、「岩本院」として江の島一山の総別当の地位を確立します。当時は「江の島弁財天信仰」が盛んで、将軍や諸国大名が参詣の折に休憩所・宿泊所として岩本院を利用していました。

明治時代に入ると、神仏分離令と明治6年の廃仏毀釈により寺院としての機能は終焉を迎えます。明治7年(1874年)、宿坊の伝統を活かして旅館「岩本楼」として開業しました。その後、昭和5年(1930年)頃、古代ローマの浴場建築に着想を得た画期的な洋風浴室「ローマ風呂」が竣工。当時の国内窯業界の第一人者・小森忍氏によるタイルとテラコッタの装飾、別府七郎氏によるステンドグラスなど、一流の職人技が結集した浴場は全国的に話題を呼び、岩本楼の名物となりました。

文化財指定の理由と価値

岩本楼ローマ風呂は、平成13年(2001年)11月20日、「再現が難しい建造物」として国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。分類上は「近代その他/昭和以降」に該当し、木造平屋建、ガラス屋根、建築面積約43平方メートルの建物です。

文化財としての価値は多岐にわたります。浴室は方三間(約5.4メートル四方)の規模で、天井にはガラスドームを架け、壁面には壁泉やヴェネツィア窓風の装飾がタイルやテラコッタで施されています。脱衣室との境には孔雀模様の大型ステンドグラスがはめ込まれ、その色彩は90年以上を経た現在も鮮やかに輝いています。イタリア製のこのステンドグラスは一枚30センチ角で約15万円とも伝えられ、現在では製造されていない代替不可能な逸品です。こうした意匠の総体が、昭和初期における日本の近代建築と西洋文化の融合を今に伝える貴重な遺構として評価されています。

魅力・見どころ

ローマ風呂の最大の見どころは、浴室に足を踏み入れた瞬間に広がる異国情緒あふれる空間です。馬蹄型の浴槽を中心に、壁面を彩るテラコッタの装飾、天井から降り注ぐガラスドーム越しの光が、まるで古代ローマの宮殿にいるかのような感覚を与えてくれます。脱衣室と浴室を隔てるステンドグラスの扉には孔雀が描かれ、背後からの光を受けて赤や青、緑の色彩が幻想的に浮かび上がります。

もう一つの名物風呂である「弁天洞窟風呂」も見逃せません。かつて弁財天を祀っていた洞窟を利用した浴場で、薄暗い洞窟の中に湯船が広がる神秘的な雰囲気は、探検に出かけたようなわくわく感を味わえます。ローマ風呂と弁天洞窟風呂は時間帯によって男女入替制となっており、宿泊すれば両方を体験できます。

1階にある「岩本楼資料館」には、岩本院時代の弁財天襖絵、「宮内省御用旅館」の看板、古い絵葉書やパンフレットなど約85点の貴重な資料が展示されています。客室からは湘南の海と富士山の絶景が楽しめ、夕食には相模湾の新鮮な地魚を使った会席料理が供されます。

周辺情報

岩本楼は江島神社の参道沿いに位置しており、江の島観光の拠点として最適です。江島神社は辺津宮・中津宮・奥津宮の三社からなり、日本三大弁財天の一つに数えられるパワースポットです。境内には龍宮城を模した瑞心門、八臂弁財天を安置する奉安殿など、見どころが豊富です。

島の頂上部にそびえる江の島シーキャンドル(展望灯台)からは360度のパノラマが広がり、隣接するサムエル・コッキング苑では南国の植物を楽しめます。島の西南端にある江の島岩屋は古来より信仰の対象とされてきた海食洞窟で、稚児ヶ淵の荒々しい岩場からは「かながわの景勝50選」にも選ばれた絶景の夕日を望めます。

弁財天仲見世通りには海鮮料理店や土産物店が軒を連ね、名物のしらす丼やたこせんべいなど食べ歩きグルメも充実。江の島アイランドスパでは地下1,500メートルから湧き出る天然温泉を楽しむこともできます。新江ノ島水族館は江の島大橋の手前に位置し、相模湾の海洋生物を間近に観察できる人気スポットです。

Q&A

Q宿泊しなくてもローマ風呂に入れますか?
Aローマ風呂は基本的に宿泊者専用の施設です。ローマ風呂と弁天洞窟風呂の両方を楽しむには、岩本楼本館への宿泊をおすすめします。お風呂は時間帯によって男女入替制となっており、日によってスケジュールが異なりますので、到着時にフロントでご確認ください。
Qローマ風呂はいつ建てられ、いつ文化財に登録されましたか?
Aローマ風呂は昭和5年(1930年)頃に建造されました。平成13年(2001年)11月20日に、再現が困難な建造物として国の登録有形文化財に登録されています。
Q岩本楼本館へのアクセス方法は?
A小田急線片瀬江ノ島駅から徒歩約12分、江ノ電江ノ島駅または湘南モノレール湘南江の島駅から徒歩約20分です。旅館は江島神社の参道沿いにあり車の乗り入れはできませんので、近隣の有料駐車場をご利用ください。
Qローマ風呂の建築的な特徴は何ですか?
A古代ローマのテルマエに範をとった馬蹄型の浴槽、ガラスドーム天井、小森忍氏制作のタイル・テラコッタ装飾、別府七郎氏による孔雀模様のステンドグラスが特徴です。イタリア製のステンドグラスは現在では製造されておらず、代替不可能な貴重品です。
Qローマ風呂のお湯は温泉ですか?
Aローマ風呂および弁天洞窟風呂は温泉ではなく沸かし湯です。天然温泉をお楽しみになりたい場合は、近隣の江の島アイランドスパをおすすめします。島の地下1,500メートルから湧出する天然温泉に入浴できます。

基本情報

名称 岩本楼ローマ風呂(いわもとろうローマぶろ)
文化財種別 登録有形文化財(建造物)
登録年月日 平成13年(2001年)11月20日
建造年代 昭和5年(1930年)頃
構造・規模 木造平屋建、ガラス屋根、建築面積約43㎡
所在地 神奈川県藤沢市江の島2-2-7
所有者 有限会社岩本楼本館
施設 岩本楼本館(旅館)
アクセス 小田急線片瀬江ノ島駅から徒歩約12分/江ノ電江ノ島駅・湘南モノレール湘南江の島駅から徒歩約20分
公式サイト https://www.iwamotoro.co.jp/

参考文献

岩本楼ローマ風呂 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/178746
岩本楼ローマ風呂 - 国指定文化財等データベース(文化庁)
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/178746
【公式】岩本楼の歴史 - 岩本楼
https://www.iwamotoro.co.jp/history/
【公式】弁天洞窟風呂|岩本楼ローマ風呂 - 岩本楼
https://www.iwamotoro.co.jp/bath/
天然温泉に洞窟風呂!江の島で絶景お風呂に浸かろう - タイムズクラブ
https://www.timesclub.jp/sp/tanomachi_ex/kanagawa/fujisawa/004.html
岩本楼 - 江の島・鎌倉ナビ
https://enokama.jp/spot/10505/

最終更新日: 2026.04.11