清閑亭:侯爵が愛した小田原の海辺の別邸

小田原城三の丸外郭土塁の南向き斜面に佇む清閑亭は、明治時代に活躍した政治家・黒田長成侯爵の別邸として明治39年(1906年)頃に建てられた国登録有形文化財です。数寄屋風の趣ある建物からは、相模湾に浮かぶ真鶴半島や大島、そして箱根の山々を一望でき、明治の政治家たちが好んだ小田原の別荘文化を今に伝える貴重な邸園です。2024年3月からは「小田原別邸料理 清閑亭」として生まれ変わり、歴史ある空間の中で食事を楽しめる場となっています。

歴史的背景

清閑亭が立地する土地には、戦国時代に北条氏が築いた小田原城三の丸外郭土塁が残されています。特に南側の竹林付近には堀や土塁、かきあげが良好な状態で保存されており、平成18年(2006年)に国の史跡に指定されました。

明治39年(1906年)、豊臣秀吉に仕えた天才軍師・黒田官兵衛の流れを汲む黒田家の十三代当主であり、貴族院議員として活躍した黒田長成侯爵がこの地を購入し、別邸を構えました。「天神山」と呼ばれるこの高台一帯は、閑院宮載仁親王、山下亀三郎(山下汽船創業者)、益田孝、山縣有朋、清浦奎吾、大倉喜八郎、そして詩人の北原白秋など、多くの要人が別荘を構えた小田原を代表する邸園地帯でした。

その後、昭和16年に浅野侯爵家へ売却され、蔵や炊事場が増築されました。昭和38年には第一生命保険相互会社が取得し保養施設として活用。平成17年(2005年)に建物が国の登録有形文化財に登録され、平成20年(2008年)に小田原市が土地を取得、建物の寄贈を受けました。平成22年(2010年)からは「小田原邸園交流館 清閑亭」として一般公開され、令和6年(2024年)3月には公民連携により日本料理店「小田原別邸料理 清閑亭」として新たなスタートを切りました。

文化財指定の理由

清閑亭は平成17年(2005年)7月12日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。その主な理由は、建築的・歴史的価値にあります。主屋は木造平屋建、入母屋造、桟瓦葺で、これに木造2階建の東棟が接続し、全体として東西に広がる雁行状の平面を形成しています。南面全体に銅板葺の庇を廻らすことで外観に連続性を持たせ、内部は数寄屋風の丁寧な造りとなっています。

平屋部分は造営当初のものとされ、大正12年(1923年)の関東大震災を乗り越えた貴重な建築です。建築面積は約276平方メートル。400年前の戦国時代の城郭遺構の上に明治の邸宅文化が重なるという、稀有な歴史的景観としても高く評価されています。

建築の見どころ

清閑亭の建築は、格式ばらない数寄屋風の造りが特徴です。板絵襖、波や千鳥をデザインした精緻な透かし彫りの欄間、網代組天井など、随所に見られる意匠の素晴らしさはNHKの番組『美の壺』でも取り上げられました。掛け込み天井や床の間の墨跡窓なども、黒田侯爵のこだわりが感じられる贅沢な造りです。

2階からの眺望は清閑亭最大の魅力の一つです。晴れた日には、真鶴半島や伊豆大島が浮かぶ相模湾の絶景を一望できます。庭園は松を主体とする芝庭で、周囲の松林と海・山を借景として巧みに取り込んだ設計となっています。庭に出る巨大な沓脱石は、その白い石質から近くを流れる早川上流のものと考えられています。

2024年の料理店開業に際しては、「ふすま絵プロジェクト」として全国から集まった5名の画家が42枚の襖に松や梅、白鷹などの絵を描き上げ、歴史ある空間に新たな彩りが加わりました。

お食事について

2024年3月より「小田原別邸料理 清閑亭」として、二十四節気・七十二候を基本にした和洋折衷のコース料理を提供しています。小田原漁港で水揚げされた新鮮な地魚や地元の野菜、季節の花を取り入れた料理は、小田原漆器や寄木細工といった伝統工芸品の器で提供され、食と歴史文化を同時に堪能できます。

敷地内には浅野家時代の蔵を改装した「蔵カフェ」も併設。看板メニューの「市松寄せ鮨」は、カマス、キンメダイ、サバ、アオリイカなど地元の海の幸をカラフルに盛り付けた逸品です。黒田長成侯爵がケンブリッジ大学留学時代に親しんだ紅茶にちなんだ「清閑亭プリン」も人気を集めています。

見学・利用案内

清閑亭はJR・小田急小田原駅から徒歩約15分の場所にあります。営業時間は昼の部が11時~15時(L.O.14時)、夜の部が17時~21時(L.O.20時)、蔵カフェのみの利用は11時~17時です。不定休のため、事前の確認をおすすめします。施設保全協力金として550円をお願いしています。2階および庭園はどなたでも見学可能ですが、安全管理のためスタッフへのお声がけが必要です。高台に位置するため、足腰に不安のある方向けに御駕籠をイメージした電気自動車の送迎サービスも用意されています。

周辺の見どころ

清閑亭の周辺には、小田原の歴史と文化を楽しめるスポットが数多くあります。小田原城址公園は天守閣をはじめ、美しい庭園や歴史博物館を擁する小田原観光の中心地です。すぐ近くの報徳二宮神社は、江戸時代の偉人・二宮尊徳を祀っています。同じ丘陵地帯には山縣有朋の別邸「古稀庵」や、松永記念館の茶室「老欅荘」など、明治の邸園文化を伝える建物が点在しています。電車で約20分の箱根湯本温泉も日帰りで楽しめ、小田原の文化探訪と合わせて充実した一日を過ごすことができます。

Q&A

Q清閑亭は誰がいつ建てたのですか?
A明治39年(1906年)頃、黒田長成侯爵の別邸として建てられました。黒田侯爵は、戦国時代の天才軍師・黒田官兵衛の流れを汲む黒田家の十三代当主で、貴族院議員として明治の政治に貢献した人物です。
Q食事をしなくても見学できますか?
A2階と庭園はどなたでも見学可能です。スタッフにお声がけいただければご案内いたします。蔵カフェでは軽食やコーヒー、デザートなども楽しめますので、お気軽にお立ち寄りください。施設保全協力金550円のご協力をお願いしています。
Q建築のどのような点が評価されていますか?
A数寄屋風の丁寧な造りで、板絵襖や透かし彫りの欄間、網代組天井など意匠が優れています。木造平屋建の主屋に2階建の東棟が接続する雁行状の平面構成や、南面に連続する銅板葺の庇も特徴的です。平屋部分は関東大震災を乗り越えた貴重な建築とされています。
Q小田原駅からのアクセスは?
AJR・小田急小田原駅から徒歩約15分です。小田原城址公園方面へ進み、報徳二宮神社付近の高台に位置しています。高台のため坂道がありますが、電気自動車による送迎サービスもご利用いただけます。
Qこの場所自体にはどのような歴史的価値がありますか?
A清閑亭の敷地は、戦国時代に北条氏が築いた小田原城三の丸外郭土塁の一部で、国の史跡に指定されています。南側には堀や土塁が良好な状態で残っており、約400年前の城郭遺構の上に明治の別邸文化が重なるという、全国的にも稀有な歴史的景観です。

基本情報

名称 清閑亭(せいかんてい)
文化財指定 国登録有形文化財(建造物)(平成17年7月12日登録)、敷地は国史跡(小田原城跡の一部、平成18年指定)
建築年 明治39年(1906年)頃、一部大正期
構造 木造平屋一部2階建、瓦葺、建築面積約276㎡
建築様式 数寄屋風書院造
旧所有者 黒田長成侯爵
現所有者 小田原市
所在地 〒250-0013 神奈川県小田原市南町1-5-73
現在の利用 小田原別邸料理 清閑亭(日本料理店・蔵カフェ、2024年3月開業)
営業時間 昼の部:11:00~15:00(L.O.14:00)、夜の部:17:00~21:00(L.O.20:00)、蔵カフェ:11:00~17:00
アクセス JR・小田急小田原駅より徒歩約15分
公式サイト https://www.seikantei.jp

参考文献

最終更新日: 2026.04.10