寺の日常を担う建物
正眼寺庫裏は、神奈川県足柄下郡箱根町湯本にある臨済宗大徳寺派正眼寺の庫裏で、昭和6年(1931年)の建立、木造平屋建・建築面積147平方メートルの一棟として、平成14年(2002年)2月14日に国の登録有形文化財となった。
庫裏は台所と住職の住まいを兼ね、檀家の応対や法事の受けを担う建物である。どの寺にも必ずあるが、文化財として登録される例は多くない。
年紀に注意したい。庫裏の建立は昭和6年。隣に並ぶ本堂は今村繁三の別荘を移築したもので、こちらが境内に組み上がるのは翌昭和7年である。生活の側の建物が先に整い、堂宇はあとから、それも他人の別荘として建てられて三十年近くを経た建物が運び込まれた。
正眼寺の草創は、養和元年(1181年)創建と伝わる地蔵堂に遡るとされる。箱根越えの安全を願う地蔵信仰を母体とし、寛永3年(1626年)に早雲寺十七世菊径宗存を開山として再興された。慶応4年(1868年)の兵火で堂宇の大半を焼失しており、いま敷地西端に建つこの庫裏は、昭和初期の再建の一環にあたる。
登録の理由
登録有形文化財は平成8年(1996年)に始まった制度で、許可制の指定文化財とは系統が異なる。現状変更は届出により、建物を使いながら残すことを前提とする。日々煮炊きが行われ、人が住む庫裏という建物種別は、この制度と相性がよい。
登録番号は14-0067、第32回登録。官報告示は平成14年3月12日。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」が適用された。
文化庁の解説は、本堂と並列し境内の景観に欠かせない存在である、という趣旨で結ばれている。ここが要点である。庫裏単独で登録を導いたのではなく、本堂との対をなす構えが評価された。下の坂道から見上げると、石垣の上に入母屋屋根が二つ横に並ぶ。片方は明治の別荘、片方は昭和の住居でありながら、正面景としてはひと続きに見える。
見どころ
東西に長い敷地の西側に位置する。屋根は入母屋造、平入とし、前面に縁を廻す。壁は真壁造で、柱を見せる。
屋根の葺材については記録が一致しない。国指定文化財等データベースの「構造及び形式等」欄は亜鉛鉄板葺と記し、同じページの解説文は銅板瓦棒葺と記す。途中で葺き替えがあったと考えれば説明はつくが、今回参照した資料では確定できなかった。軒先を見上げれば判断の手がかりは得られるだろう。
内部の構成に、この建物の時代が出ている。本堂へ通じる渡廊下が屋内の廊下とそのまま接続し、全体としてほぼ中廊下式の平面を構成する。中廊下式は、廊下を背骨として左右に室を配し、各室に独立した出入口を与える平面型で、大正から昭和初期の都市住宅で急速に普及した。座敷を通り抜けて次の間へ進む従来の続き間形式に対する、生活動線の合理化であった。昭和6年の寺院住宅にこれが採られている点は、建物の年代を素直に示している。
北東隅の八畳間には付書院が設けられる。低い窓を伴う造付けの机で、座敷の格式を決める要素である。台所と居室からなる庫裏には本来必要のない設えであり、この一室が来客を迎える格の高い座敷として計画されたことを示す。庫裏という建物種別のなかに、書院の作法が一室だけ持ち込まれている。
訪ねる際に
庫裏は住まいであり、内部は公開されていない。公開に関する案内も出ていない。登録の銘板を掲げた個人宅として接するのが妥当である。外観は境内から近い距離で見ることができ、屋根、縁、渡廊下の取り付きまでは十分に観察できる。
境内そのものは無料で開放されている。箱根ナビの案内では開門は午前8時から午後4時、無休。ただし同サイトの別ページには午前9時とあり、記載が分かれる。電話は0460-85-5638。箱根湯本駅からは南西へ約850メートル、徒歩15分ほどの上り。箱根登山バスK路線「曽我堂上」下車なら約4分で門前に着く。
境内からの外観撮影を禁じる掲示は見当たらないが、生活の場である以上、窓越しに向けるような撮り方は避けたい。当日の寺の案内に従うこと。
年に二度の公開のほうが、開門時間より訪問計画に効いてくる。春秋の彼岸には本堂の金箔彩色襖絵(平成12年12月8日町指定)が公開され、裏山の曽我堂も開かれる。曽我堂の木造地蔵菩薩立像二軀は、建久4年(1193年)の曽我兄弟の仇討ちに結び付けられ、一軀は昭和38年に神奈川県指定を受けている。境内には足湯があり、4月上旬には枝垂れ桜が咲く。
Q&A
- 正眼寺庫裏の内部は見学できますか。
- できません。庫裏は住職の住まいであり、内部公開は行われていません。外観は境内から間近に見学でき、境内は無料開放されています。開門は午前8時から午後4時、無休と案内されますが、別の掲載では午前9時とされており記述が分かれます。0460-85-5638へ事前確認をおすすめします。
- 正眼寺庫裏はいつ建てられ、いつ登録されましたか。
- 昭和6年(1931年)の建立です。登録有形文化財としての登録年月日は平成14年(2002年)2月14日、官報告示は同年3月12日で、登録番号は14-0067、第32回登録にあたります。隣接する本堂(旧今村繁三別荘)も同日付で登録されました。
- 正眼寺庫裏と本堂はどう違うのですか。
- 庫裏は台所と住職の居住空間、檀家の応対の場を兼ねる生活の建物で、本堂は法要を営む堂宇です。正眼寺では両者が並んで建ち、渡廊下で結ばれています。庫裏は昭和6年の新築、本堂は明治37年頃の別荘を昭和7年に移築したもので、成り立ちが異なります。
- 正眼寺庫裏の外観で注目すべき点はどこですか。
- 入母屋造・平入の屋根、前面に廻された縁、柱を見せる真壁の壁面、そして本堂へ延びる渡廊下の取り付きです。少し離れて本堂と二棟を並べて見る角度が、登録理由となった景観にあたります。軒先は葺材の確認にも適します。
- 正眼寺庫裏へは箱根湯本駅からどう行きますか。
- 徒歩なら南西へ約850メートル、15分ほどで、終盤は上り坂です。箱根登山バスK路線で「曽我堂上」下車なら約4分、下車してすぐ門前です。車では西湘バイパス箱根口インターチェンジから約10分になります。
基本情報
| 名称 | 正眼寺庫裏 |
|---|---|
| 所在地 | 神奈川県足柄下郡箱根町湯本562 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号14-0067 第32回登録 |
| 指定年 | 平成14年(2002年)2月14日登録/同年3月12日告示 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、建築面積147平方メートル。葺材は構造欄が亜鉛鉄板葺、解説文が銅板瓦棒葺と記す |
| 所有者 | 宗教法人正眼寺 |
| 公開状況 | 内部非公開(住職の居住建物)。外観は無料開放の境内から見学可、開門8時から16時、無休(別記載に9時開門あり)。電話0460-85-5638 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)正眼寺庫裏
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00002623
- 文化遺産オンライン(文化庁)正眼寺庫裏
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/182533
- 箱根町「箱根の文化財一覧」
- https://www.town.hakone.kanagawa.jp/www/contents/1100000001775/index.html
- 箱根町「文化財指定・登録状況」(PDF)
- https://www.town.hakone.kanagawa.jp/www/contents/1748314597192/simple/20250527_1317.pdf
- 箱根ナビ「正眼寺」
- https://www.hakonenavi.jp/spot/1149
最終更新日: 2026.08.13