水が立ち止まる場所

横浜市水道局青山水源事務所旧青山沈殿池は、神奈川県相模原市緑区青山にある明治30年(1897年)のコンクリート造沈殿池で、平成10年(1998年)10月9日に国の登録有形文化財(建造物)となった。道志川右岸、旧青山取水口と同じ敷地内にある。

沈殿池の役割は単純である。河川から取り入れた水を一定時間静置し、重力によって懸濁物質を底に落とす。薬品も動力も使わない。必要なのは時間と水面の広さだけで、上澄みを取り出せば入ってきた水より確実に清い水が得られる。

青山の場合、その水面は一辺34.2メートルの正方形として与えられた。コンクリート造で2池に分けられ、内側の法面には川原の玉石が貼られている。

横浜の水道は明治20年(1887年)、相模川と道志川の合流点にあたる三井の取入所から給水を開始した。英国人技師ヘンリー・スペンサー・パーマーの指導のもとで築かれた、日本初の近代水道である。しかし明治23年(1890年)に事業が横浜市へ移管された時点で市の人口は12万人を超え、当初の給水人口計画7万人を大きく上回っていた。明治30年、取水地点は約4キロメートル上流の青山へ移される。揚水を要さず自然流下で導水できる高さを得るためだった。この沈殿池は、その移設に続く事業のなかで整えられている。

第1回拡張工事と、二手に分かれた水

横浜水道の第1回拡張工事は明治31年(1898年)に着工し、明治34年(1901年)に完了して川井浄水場(現・横浜市旭区)を生んだ。文化庁は沈殿池をこの拡張の遺構と記載し、完工を明治34年としながら、年代の欄には明治30年を記録している。相模原市も着工を明治31年とする。数年にわたって段階的に築かれた土木構造物では、こうした年次のずれは珍しくない。

稼働後の役割ははっきりしている。青山で沈殿させた水は二方向へ送られた。新設の川井浄水場と、明治20年の創設以来稼働してきた野毛山浄水場である。ひとつの池から、新旧ふたつの系統が水を引いていた。

川井浄水場はその後も残った。創設時の処理能力は1日あたり約1,000立方メートル。横浜市で現在稼働する浄水場のうち最も古く、平成21年(2009年)にPFI方式での再整備が決まり、平成26年(2014年)4月にセラミック膜ろ過方式へ生まれ変わって1日172,800立方メートルを処理する。膜ろ過が選ばれた理由のひとつは、道志川と敷地の高低差による位置エネルギーを利用できる点にあった。青山への移設を決めた明治30年の判断が、そのまま生きている。

沈殿池自体は、第2回拡張工事(西谷浄水場は大正4年〈1915年〉完成)の際に規模がおよそ半分に縮小された。文化庁の解説が「約30メートル角」と述べる一方で構造の記載が34.2メートル四方となっているのは、この経緯によるものと考えられる。

「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という登録基準

登録有形文化財は平成8年(1996年)に始まった制度で、指定文化財とは別に、現役で使われている近代の建造物を届出制のもとで保護する。旧青山沈殿池は登録番号14-0024、登録年月日は平成10年10月9日、告示は同月26日。

注目したいのは、隣接する旧青山取水口と登録基準が異なる点である。取水口が「再現することが容易でないもの」であるのに対し、沈殿池は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」として登録された。

希少性や技術的独創ではなく、風景としての寄与が理由に挙げられている。山あいの河谷に据えられた幾何学的な水面、その法面を覆う川原石。自然の地形とも近代の工場設備とも異なる、この場所にしかない見え方が評価の対象になった。

実際に外から眺めた記録によれば、樹木と地形に遮られて全体を一望することは難しく、冬の落葉期でも俯瞰は容易でないという。撮影の場として使われたこともある。

昭和60年(1985年)には、青山の諸施設が日本水道新聞社選定の近代水道百選に入っている。文化財登録はその13年後にあたる。

見学の手続きと、外から見える範囲

青山水源事務所は稼働中の水道施設であり、敷地は忍び返しを備えた柵に囲まれている。予約なしの立ち入りはできない。

見学は事前申込制で可能である。横浜市水道局が見学を受け入れているのは3施設で、青山水源事務所はそのひとつ。祝祭日と年末年始を除く平日、午前の部9時30分・午後の部13時30分の開始、所要約2時間、受入40人まで。申込は水道局お客さまサービスセンター(電話045-847-6262、ファクス045-848-4281)へ。電話受付の翌営業日から起算して5営業日後以降が対象となり、令和8年度の受付は令和8年2月1日に開始された。

ただし見学の主目的は小学生の環境教育と市民広報であり、水道局は企業・団体の視察や研修目的での利用を控えるよう案内している。登録有形文化財である沈殿池を見学できるとは明示されていない。撮影も案内職員の指示に従うことが条件である。

敷地外からであれば、道志川対岸の道路から水面越しに一部を望むことができる。交通はJR橋本駅から神奈川中央交通「三ヶ木」行きバスで終点下車徒歩約30分、または新小倉橋経由の便で「青山」バス停下車徒歩約10分。駐車場はなく、公共交通機関での来場が求められている。

Q&A

Q横浜市水道局青山水源事務所旧青山沈殿池は見学できますか。費用はかかりますか。
A稼働中の水道施設内にあり、柵で囲まれているため自由な見学はできません。青山水源事務所の施設見学は事前申込制で無料、平日の9時30分または13時30分開始、所要約2時間、40人までです。申込は水道局お客さまサービスセンターへ電話またはファクスで行います。
Q旧青山沈殿池の大きさはどのくらいですか。
A文化庁の記載ではコンクリート造で長さ34.2メートル、幅34.2メートル。2池に分けられ、法面は玉石貼りとされています。解説文では創設時の規模を約30メートル角とし、第2回拡張工事の際に約半分へ縮小されたと記されています。
Q旧青山沈殿池はなぜ重要文化財の指定ではなく登録有形文化財なのですか。
A登録は平成8年に設けられた別制度で、現役の近代建造物を届出制で保護します。旧青山沈殿池の登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で、隣接する旧青山取水口の「再現することが容易でないもの」とは異なる理由が挙げられています。
Q旧青山沈殿池の水はどこへ送られていたのですか。
A第1回拡張工事で新設された川井浄水場と、明治20年の創設以来稼働していた野毛山浄水場の二か所です。川井浄水場は明治34年完成で横浜市最古の浄水場にあたり、平成26年からセラミック膜ろ過方式に更新されて現在も稼働しています。
Q旧青山沈殿池と旧青山取水口はどう違うのですか。
A同じ敷地にある別々の登録有形文化財です。どちらも明治30年築で、平成10年10月9日に同時に登録されました。取水口は玉石詰鉄柵と英国製鉄管で道志川から水を取り入れる施設、沈殿池はその水を静置して懸濁物質を沈降させる施設という役割の違いがあります。

基本情報

名称横浜市水道局青山水源事務所旧青山沈殿池
所在地神奈川県相模原市緑区青山3482
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 14-0024
指定年平成10年(1998年)10月9日登録、同年10月26日告示
員数1基
寸法コンクリート造、長さ34.2メートル・幅34.2メートル、2池に分割、法面玉石貼り
所有者横浜市水道事業管理者
公開状況稼働中の水道施設内につき非公開。青山水源事務所の施設見学(事前申込制・平日)による

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース 横浜市水道局青山水源事務所旧青山沈殿池
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000822
文化遺産オンライン 横浜市水道局青山水源事務所旧青山沈殿池
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/166132
相模原市 国登録文化財 横浜市水道局青山水源事務所旧青山沈殿池
https://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/kankou/bunka/1022295/bunkazai/list/kuni_toroku/1010116.html
横浜市水道局 川井浄水場 施設概要
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/sumai-kurashi/suido-gesui/suido/suishitsu/josuijo/kawai/gaiyou.html
横浜市水道局 浄水場等の見学
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/sumai-kurashi/suido-gesui/suido/torikumi/PR/kengaku.html

最終更新日: 2026.08.13