揚水をやめるための取水口
横浜市水道局青山水源事務所旧青山取水口は、神奈川県相模原市緑区青山にある明治30年(1897年)の取水施設で、平成10年(1998年)10月9日に国の登録有形文化財(建造物)となった。道志川右岸、国道412号と413号が交わる青山交差点から川へ下った位置にある。
横浜の水道は、安政6年(1859年)の開港後に急増した人口を支えるために計画された。埋立地の井戸水は塩分を含み飲用に適さず、神奈川県知事は英国人技師ヘンリー・スペンサー・パーマーを顧問に迎える。明治18年(1885年)着工、明治20年(1887年)10月給水開始。日本初の近代水道である。
創設時の水源は、相模川と道志川の合流点にあたる三井(現・相模原市緑区三井)に置かれ、そこから野毛山までおよそ44キロメートルの導水路が敷かれた。
問題は高低差にあった。三井の取入所は相模川左岸の低い位置にあり、導水を始めるには水を機械で持ち上げる必要がある。明治23年(1890年)に事業が神奈川県から横浜市へ移管された時点で、市の人口は12万人に達していた。当初計画の給水人口7万人を大きく超えている。揚水に要する費用は、水量が増えるほど重くのしかかった。
解決策は水源を遡ることだった。明治30年、取水地点はおよそ4キロメートル上流の道志川右岸、青山へ移される。自然流入で導水できる高さが確保できる地点である。そのときに築かれた施設が、この旧青山取水口にあたる。
登録基準にある「再現することが容易でない」の意味
登録有形文化財は、重要文化財などの指定制度とは別の枠組みである。平成8年(1996年)に発足し、届出制を基本とする緩やかな保護によって、使われ続けている近代の建造物や土木構造物を対象とする。旧青山取水口は登録番号14-0023、登録年月日は平成10年10月9日、官報告示は同月26日。
文化庁が挙げた登録基準はひとつ、「再現することが容易でないもの」である。
この一文は、構造の希少性を的確に言い当てている。鉄柵の枠に川原の玉石を人力で詰め、輸入鉄管を立てて直接取水するという構成は、現在の土木設計では選ばれない。仮に同じ図面を引いたとしても、明治30年時点の材料と施工の条件を再現することはできない。
登録に先立つ昭和60年(1985年)、青山の諸施設は日本水道新聞社が選定した近代水道百選に入っている。土木の分野では早くから評価が定まっていた対象に、文化財としての位置づけが後から与えられた形になる。
玉石詰鉄柵造という構造
員数は1基。文化庁の記載では、三つの部材から成る。
ひとつは玉石詰鉄柵造の取入堤で、高さ4.6メートル、長さ8.2メートル。上流側を向いた鉄柵が流木を止め、その内側に詰められた玉石が堤体に重量を与える。山地河川である道志川は、出水のたびに相当量の流木を運ぶ。柵はそれを受ける前面装置として働く。
ふたつめは高さ2.4メートルの流水水門。取り込む水量を調節する。
三つめが、この施設の性格を決めている導水鉄管2条である。英国グラスゴーのレイドロー・アンド・サンズ社製。明治30年の日本には、必要な径と品質の鉄管を国内で量産する体制がなかった。スコットランドの鋳鉄管は当時、世界各地の水道事業に供給されている。青山へ届いた2本も、海路と陸路を経て神奈川の谷にたどり着いた。
設計思想は単純である。取水口には沈殿槽もろ過装置もなく、水門のほかに可動部を持たない。水は鉄管に入り、そのまま下流へ向かう。処理はすべて別の場所で行われる。ここに求められたのは、河川水を受け入れることと、河川が運ぶそれ以外のものを拒むことの二点だけだった。
訪問できるか、どこから見えるか
青山水源事務所は現在も横浜市へ原水を送る稼働中の水道施設で、敷地は施錠された柵に囲まれている。予約なしで訪れても門から先へは進めない。
正規の手段は施設見学である。横浜市水道局は3施設で見学を受け入れており、青山水源事務所はそのひとつ。実施は祝祭日と年末年始を除く月曜から金曜、午前の部は9時30分、午後の部は13時30分の開始で、所要はおよそ2時間、受入は40人まで。申込先は水道局お客さまサービスセンター(電話045-847-6262、ファクス045-848-4281)で、電話受付の翌営業日から起算して5営業日後以降の日程が対象となる。
ただし見学の主目的は小学生の環境教育と市民向け広報であり、行程は浄水処理の工程に沿って組まれる。登録有形文化財である取水口を間近で見られると確約されているわけではない。撮影も案内職員の指示に従うことが条件となっている。
敷地外からであれば、道志川対岸を通る道路から水面越しに一部を望むことができる。草木が枯れる冬季のほうが見通しはよい。交通は、JR橋本駅から神奈中バス「三ヶ木」行きで終点下車徒歩約30分、または新小倉橋経由の便で「青山」バス停下車徒歩約10分。水道局は公共交通機関での来場を求めている。
より広い文脈をたどるなら、明治20年の創設導水路跡が緑道・遊歩道として相模原市・大和市・町田市・横浜市に整備されている。近代水道創設120周年にあたる平成19年(2007年)、当時の導水線路上26か所に解説看板が設置された。
Q&A
- 横浜市水道局青山水源事務所旧青山取水口は見学できますか。料金はかかりますか。
- 稼働中の水道施設内にあるため自由な立ち入りはできません。青山水源事務所の施設見学は事前予約制で無料、平日の午前9時30分または午後1時30分開始、所要約2時間、40人までです。申込は水道局お客さまサービスセンターへ電話またはファクスで行います。
- 旧青山取水口は「登録」有形文化財ですが、重要文化財の「指定」と何が違うのですか。
- 登録は平成8年に始まった別制度で、現役で使われている近代の建造物を主対象とします。大きな改変の前に届け出る義務はありますが、指定文化財のような強い規制は課されません。産業遺産や土木構造物の保存を想定して設けられた枠組みです。
- 旧青山取水口はどのような構造ですか。寸法は分かっていますか。
- 玉石詰鉄柵造の取入堤(高さ4.6メートル、長さ8.2メートル)、流水水門(高さ2.4メートル)、導水鉄管2条から成ります。鉄管は英国グラスゴーのレイドロー・アンド・サンズ社製で、これを立てて直接取水する方式でした。
- 旧青山取水口は今も横浜市へ送水しているのですか。
- 明治30年築の本体は役目を終えており、名称に「旧」が付くのはそのためです。青山水源事務所自体は後継施設によって道志川からの取水を続けており、横浜市の水源のひとつであり続けています。
- 旧青山取水口へは公共交通機関でどう行きますか。
- JR橋本駅から神奈川中央交通の「三ヶ木」行きバスに乗り、終点から徒歩約30分です。新小倉橋経由の便であれば「青山」バス停下車、徒歩約10分。駐車場はなく、水道局は公共交通機関の利用を案内しています。
基本情報
| 名称 | 横浜市水道局青山水源事務所旧青山取水口 |
|---|---|
| 所在地 | 神奈川県相模原市緑区青山3482 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号 14-0023 |
| 指定年 | 平成10年(1998年)10月9日登録、同年10月26日告示 |
| 員数 | 1基 |
| 寸法 | 玉石詰鉄柵造取入堤 高さ4.6メートル・長さ8.2メートル、流水水門 高さ2.4メートル、導水鉄管2条 |
| 所有者 | 横浜市水道事業管理者 |
| 公開状況 | 稼働中の水道施設内につき非公開。青山水源事務所の施設見学(事前予約制・平日)による |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース 横浜市水道局青山水源事務所旧青山取水口
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000821
- 文化遺産オンライン 横浜市水道局青山水源事務所旧青山取水口
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/138091
- 相模原市 国登録文化財 横浜市水道局青山水源事務所旧青山取水口
- https://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/kankou/bunka/1022295/bunkazai/list/kuni_toroku/1010115.html
- 横浜市 横浜水道のあゆみ(概要)
- https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/sumai-kurashi/suido-gesui/suido/rekishi/ayumi.html
- 横浜市水道局 浄水場等の見学
- https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/sumai-kurashi/suido-gesui/suido/torikumi/PR/kengaku.html
最終更新日: 2026.08.13