五台山の上に建つ室町後期の仏堂
竹林寺本堂は、高知県高知市五台山にある真言宗智山派寺院・竹林寺の仏堂で、室町後期の建築として明治37年(1904年)8月29日に国の重要文化財に指定された。
ただし境内でこの建物を「本堂」と呼ぶ人は少ない。堂内中央に智慧の菩薩である文殊菩薩を祀ることから、地元では「文殊堂」の名で通っている。竹林寺は四国八十八箇所霊場の第31番札所であり、八十八の札所のうち文殊菩薩を本尊とするのはこの寺だけである。受験期には合格祈願の参拝者が石段を埋める。
山の名も借り物だ。標高145メートルの五台山は、中国山西省にあって文殊信仰の中心地として栄えた五台山にちなむ。寺伝では、聖武天皇が唐の五台山で文殊菩薩を拝する夢を見て、行基に似た山容の地を探すよう命じ、行基が浦戸湾を望むこの丘を選んで神亀元年(724年)に栴檀の木で文殊像を刻み、堂を建てて安置したと伝わる。大同年間には空海が滞在して修法したとも伝わるが、いずれも確かな記録に乏しく、創建の実年代は明らかでない。
現存する建物の年代も、別の意味で確定していない。文化庁の国指定文化財等データベースは室町後期、西暦1467年から1572年の間に位置づける。一方、寺側の説明では土佐二代藩主・山内忠義が寛永21年(1644年)に造営したとする。両者の食い違いは公表資料の上では埋まっていない。訪れる際は、十五・十六世紀の構造をもつ堂が、十七世紀に山内家の手で大きく整えられた寺の中に立っている、という二重の像で捉えておくのが実際に近い。
広島の竹林寺本堂とは別の建物
先に注意を一つ。同じ「竹林寺本堂」の名で国の重要文化財に指定された建物が、広島県東広島市河内町入野にもう一棟ある。こちらは永正8年(1511年)の三間堂で寄棟造、昭和57年(1982年)の指定である。検索結果でも書籍でも両者は頻繁に取り違えられる。高知の本堂は桁行五間・梁間五間と規模が大きく、屋根は入母屋造で、指定年は広島の堂より78年早い。
その明治37年という指定年には意味がある。根拠となったのは明治30年(1897年)制定の古社寺保存法であり、文殊堂は高知県内でも早い時期に国の保護を受けた建造物の一つとなった。しかも当時の竹林寺は苦境にあった。明治初年の廃仏毀釈で寺は荒れ、明治32年(1899年)の台風で三重塔が倒壊するなど被害も重なっていた。明治30年に住職となった船岡芳信は諸国を回って浄財を集め、上京を重ねて補助を引き出し、境内を建て直した。本堂も、仁王門の正面にあった位置から現在の上段へ移されたとされる。
真言の堂にまとわれた禅宗様の細部
文殊堂は桁行五間、梁間五間、一重、入母屋造で、屋根は板を薄く割ってふき重ねるこけら葺(杮葺)。南正面に一間の向拝が張り出す。この向拝は一間としては柱間が広くとられ、下に階段が付き、堂の四周には廻縁がめぐる。
軒を見上げると、そこに使われている語彙は禅宗様のものになる。垂木は隅から扇形に広がる扇垂木。組物は二手先で、柱の上だけでなく軒下を詰めて並べる詰組。正面中央三間の扉は框に板をはめた桟唐戸で、その両端の間は連子窓とする。真言密教の寺院の堂としては意外な取り合わせで、この借用は、室町期の日本に禅宗系の建築技術が教義とは無関係に大工の手で広く行き渡っていたことを示している。
内部はゆっくり見るだけの価値がある。内陣は方三間、その周囲に庇がめぐるが、正面の一間通りだけは柱間を一間半分に広げてある。広げた分を虹梁が渡り、その上に大瓶束が立つ。天井の扱いは歩くにつれて変わる。内陣前半通りは平らな鏡天井、残る三方は垂木を見せたままの化粧屋根裏。内々陣に入ると天井は組入天井となり、中央の一間四方だけが折り上げられ、鏡天井に天人舞楽の図が描かれている。
内外陣の境は、幅の中で三種類の建具を使い分ける。中央三間の上方には菱組の欄間、その下は跳ね上げて吊る揚蔀戸、両端の間は舞良戸の引き違いとする。内々陣と後陣の境三間は板壁で、中央に本尊を納めた厨子を据え、その両脇に幣軸をめぐらして仏画を掛けられるようにしてある。高知市の文化財解説は、この背面の構えを土佐特有の礼仏方式と説明する。一般の建築史の本には出てこない地方色で、知らずに通り過ぎてしまう種類の細部である。
参拝と見どころ
境内の立ち入りと本堂での参拝は無料で、参拝時間は8時から17時まで。この点は押さえておきたい。竹林寺の見どころのうち宝物館(大人400円)と名勝庭園(大人500円)は拝観券が要り、共通券は800円、いずれも8時30分から17時までの受付となる。中学生以下は半額、未就学児は無料。時間も予算も限られている人でも、文殊堂の前に立つことはできる。
本尊の文殊菩薩は50年に一度開帳される秘仏で、普段は厨子に納められ、参拝者が拝するのは前仏である。直近の定期開帳は霊場開創1200年にあたる平成26年(2014年)、開創1300年と弘法大師生誕1250年を記念した特別開帳が令和5年(2023年)春に行われた。次の定期開帳は2064年とされる。本尊そのものを見たいなら、長生きするか特別開帳の報せを待つことになる。
屋根も一度は見上げておきたい。こけら葺の板の寿命は数十年で、文殊堂の屋根は平成27年(2015年)に27年ぶりの葺き替えを終えている。板の小口はまだ角が立ち、古い板屋根特有の銀灰色にはなりきっていない。
交通は車がなくても不自由しない。JR高知駅前の「こうち旅広場」から周遊バス「MY遊バス」が出ており、「竹林寺」下車で山門まで徒歩2〜3分。車なら高知インターチェンジからもJR高知駅からも約20分、駐車場は約100台分が無料で使える。五台山の道路は一部が一方通行のため、入口を通り過ぎると回り直しになる。
外観や境内の撮影は概ね自由だが、堂内や宝物館では制限が掲示されている場合があり、現地の表示に従いたい。あと1時間あるなら、隣接する高知県立牧野植物園と、昭和55年(1980年)再建の五重塔を加えるとよい。塔は高さ31.2メートル、総檜造で、明治32年の台風で倒れた三重塔に代わるものである。11月下旬には石畳の参道沿いのカエデとイチョウが色づき、同じ時期の土日に秋まつりが開かれる。
Q&A
- 竹林寺本堂はどこにあり、高知駅からどう行けばよいですか?
- 高知市五台山3577の竹林寺、その上段の境内に建っています。JR高知駅前「こうち旅広場」発の周遊バス「MY遊バス」で「竹林寺」下車、山門まで徒歩2〜3分です。車では高知インターチェンジから約20分、無料駐車場が約100台分あります。
- 竹林寺本堂は拝観できますか。拝観料と時間は?
- 境内と本堂の参拝は8時から17時まで無料です。別途、宝物館(大人400円)と名勝庭園(大人500円)は有料で、受付は8時30分から17時まで。両方を見る共通券は大人800円です。
- 竹林寺本堂はいつ建てられ、いつ重要文化財に指定されましたか?
- 文化庁のデータベースは室町後期(1467年から1572年の間)とし、寺側は土佐二代藩主・山内忠義による寛永21年(1644年)の造営とします。重要文化財の指定は明治37年(1904年)8月29日です。
- 竹林寺本堂の本尊・文殊菩薩は拝観できますか?
- 本尊は50年に一度開帳される秘仏のため、通常は拝観できず、参拝者が拝するのは前仏です。直近の定期開帳は2014年、次回は2064年とされます。2023年春には開創1300年を記念した特別開帳が行われました。
- 竹林寺本堂の建築で、まず注目すべき点はどこですか?
- 軒回りです。扇垂木、二手先の詰組、桟唐戸といった禅宗様の手法が、真言宗の堂に用いられています。堂内では、内々陣の中央一間四方を折り上げた鏡天井に天人舞楽の図が描かれている点が見どころです。
基本データ
| 名称 | 竹林寺本堂(ちくりんじほんどう)/通称 文殊堂 |
|---|---|
| 所在地 | 高知県高知市五台山(〒781-8125 高知市五台山3577) |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物)/指定番号 00336 |
| 指定年 | 明治37年(1904年)8月29日 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 桁行五間、梁間五間、一重、入母屋造、向拝一間、こけら葺 |
| 所有者 | 竹林寺(真言宗智山派) |
| 公開状況 | 参拝8時から17時まで、無料。宝物館・名勝庭園は8時30分から17時まで、別途有料 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) — 竹林寺本堂
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/3418
- 高知市 — 文化財情報 重要文化財 建造物 竹林寺本堂
- https://www.city.kochi.kochi.jp/soshiki/90/cas-state-1100100.html
- 四国八十八ヶ所霊場会 — 第31番札所 五台山 金色院 竹林寺
- https://88shikokuhenro.jp/31chikurinji/
- こうち旅ネット(高知県観光情報) — 第31番札所 竹林寺
- https://kochi-tabi.jp/search_spot_sightseeing.html?id=872
- 高知市観光情報サイト — 竹林寺 第31番札所
- https://www.city.kochi.kochi.jp/site/kanko/chikurinji.html
最終更新日: 2026.08.09