旧市川医院:高知県安田町に残る大正ロマンの洋風医院建築

高知県東部、安芸郡安田町の旧商店街に佇む旧市川医院は、大正初期に建てられた木造平屋建ての洋風医院建築です。下見板張りの外観が醸し出すレトロモダンな趣は、西洋文化への憧れが地方の町並みにまで浸透した大正時代の息吹を今に伝えています。平成24年(2012年)に国登録有形文化財(建造物)に登録されたこの建物は、現在「安田まちなみ交流館・和(なごみ)」の一部として一般公開され、安田町の歴史と文化を発信する拠点となっています。

市川家の歴史:土佐藩御殿医の系譜

市川家は、慶長6年(1601年)に山内一豊が掛川城から土佐国へ移封された際に随行した家臣の一族です。代々土佐藩の御殿医を務め、医の道を通じて地域に貢献してきました。安田町に残るこの医院建築は、大正2年(1913年)頃に建てられたもので、西洋医学の普及とともに洋風の外観を取り入れた地方医院の貴重な事例です。長く地域医療の拠点として親しまれてきましたが、やがて空き家となり、約20年間無人の状態が続きました。

なぜ文化財に登録されたのか

旧市川医院は、平成24年(2012年)2月に国登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」です。木造平屋建て・下見板張りの洋館である旧市川医院は、大正初期の地方医院建築の一事例として大変貴重な建物と評価されています。また、隣接する旧柏原家住宅(主屋・離れ、表門、東土塀・西土塀)も同時に登録され、洋風医院建築と土佐東部の伝統的和風建築が一体となった、県内でも他に類を見ない和洋折衷の景観が高く評価されました。

見どころと魅力

旧市川医院の最大の魅力は、大正ロマンを感じさせる洋風の外観です。横羽目板(下見板)張りのファサードは、当時の地方の医師たちが近代性と信頼感を表現するために採用した意匠で、100年以上の歳月を経た今なお、往時の雰囲気を色濃く残しています。

特筆すべきは、隣接する旧柏原邸との一体的な景観です。旧市川医院と旧柏原邸は土間を介してつながっており、洋風建築と和風建築が見事に調和しています。旧柏原邸は魚梁瀬の天然木材をふんだんに使い、土佐漆喰の外壁や精緻な欄間彫刻など、土佐東部の伝統的な大工技術の粋を集めた建物です。これらの匠の技には既に継承が途絶えたものも含まれており、一度損なわれれば修復不可能という、きわめて貴重な文化遺産です。

館内では、安田町ゆかりの幕末・明治維新の偉人たちに関する常設展示を見ることができます。坂本龍馬の義兄である高松順蔵や、海援隊で龍馬とともに活動した石田英吉など、この地が輩出した志士たちの足跡をたどることができます。また、旧柏原邸の書院造りの座敷からは、枯山水の庭園を鑑賞することもできます。

安田町の歴史ある町並みを歩く

旧市川医院が位置する安田町は、かつて上流の魚梁瀬地域から切り出された良材の集散地として栄えた商人の町です。安田川を筏で下ってきた木材がこの地に集まり、多くの商人が行き交いました。その繁栄の名残は、町の随所に残る伝統的な町屋建築や古い商家の佇まいに今も見て取ることができます。

安田町にはほかにも多彩な観光資源があります。ダムのない清流として知られる安田川は、鮎釣りの名所として全国的に有名です。高知を代表する銘酒「土佐鶴」の醸造元である土佐鶴酒造の本社もこの町にあります。四国八十八箇所霊場第27番札所の神峯寺は、標高の高い山上に位置し、美しい自然の中で参拝を楽しめます。また、昔ながらの映写設備を保存活用している大心劇場は、映画ファンにとって見逃せないスポットです。

ご利用案内

旧市川医院を含む安田まちなみ交流館・和は、入館無料で一般公開されています。館内には地場産品の販売コーナー、休憩スペース、広域観光案内板、Wi-Fiスポットが設けられており、無料のレンタサイクルも利用可能です。外国語パンフレットも用意されており、海外からの旅行者にも安心してお越しいただけます。年間を通じて企画展やイベントが開催されていますので、訪問前に公式サイトで最新情報をご確認ください。

アクセス

安田町へは土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線をご利用ください。安田駅から交流館まで徒歩約11~15分です。バスの場合は、高知東部交通バス「安田役場通り」停留所から徒歩約3分です。お車の場合は、高知自動車道南国ICから国道55号線を東へ約1時間、土佐湾沿いの美しい海岸線を楽しみながらお越しいただけます。

Q&A

Q旧市川医院の入館料はかかりますか?
Aいいえ、安田まちなみ交流館・和(旧市川医院・旧柏原邸)は入館無料です。
Q外国語での案内はありますか?
A多言語パンフレットが用意されています。館内の案内表示は主に日本語ですが、建築の美しさは言語を問わずお楽しみいただけます。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A建物と展示は通年でお楽しみいただけます。春(3月~4月)は周辺の桜が美しく、秋(10月~11月)は穏やかな気候と紅葉が楽しめます。安田町では「土佐町屋雛祭り」などの季節のイベントも開催されます。
Q四国遍路と組み合わせて訪問できますか?
Aはい。安田町内には四国霊場第27番札所の神峯寺があり、お遍路さんの休憩スポットとしても交流館をご利用いただけます。

基本情報

名称 旧市川医院
文化財区分 国登録有形文化財(建造物)/平成24年(2012年)2月登録
建築年代 大正2年(1913年)頃
構造 木造平屋建、下見板張の洋館
所在地 〒781-6421 高知県安芸郡安田町安田字東新町1672-1
現在の用途 安田まちなみ交流館・和(なごみ)
所有者 安田町
電話番号 0887-38-3047
入館料 無料
アクセス 土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線 安田駅から徒歩約11~15分/高知東部交通バス「安田役場通り」下車徒歩約3分

参考文献

安田町まちなみ交流館・和 公式サイト
https://yasuda-nagomi.com/
安田町まちなみ交流館・和 概要(公式)
https://yasuda-nagomi.com/about.html
安田町役場 – 安田まちなみ交流館・和
https://www.town.yasuda.kochi.jp/life/dtl.php?hdnKey=1262
こうち旅ネット – 安田まちなみ交流館・和
https://kochi-tabi.jp/search_spot_infocenter.html?id=7727
とさぶし – 土佐の名建築【旧病院】~欧風文化に憧れた大正時代へ回帰~
https://tosabushi.com/2019/12/9733/
おにわさん – 安田まちなみ交流館・和
https://oniwa.garden/yasuda-town-visitor-center-nagomi/
国指定文化財等データベース – 旧柏原家住宅表門
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00009225

最終更新日: 2026.03.24