奈半利川左岸に残る明治三十二年の土蔵

藤村製絲株式会社西蔵は、高知県安芸郡奈半利町乙2630に建つ明治32年(1899年)建築の土蔵造二階建で、平成12年(2000年)10月18日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。桁行約16メートル、梁間約10メートル、建築面積190平方メートル。奈半利川の河口左岸、かつて製糸工場の敷地であった一画の西北隅を占める。

形式は東西棟の切妻造、桟瓦葺、平入。妻面には水切瓦を五段に付ける。土蔵造の厚い土壁と漆喰仕上げは、防火とともに庫内の温湿度変動を抑える働きを持ち、繭にも生糸にも都合がよい。産業用の蔵として建てられた建物ではないが、結果として製糸業の要求に応える性能を備えていた。

水切瓦は土佐地方に集中して見られる技法である。壁面から瓦を段状に突出させ、伝い落ちる雨水を壁から切り離す。台風の常襲地で漆喰壁を保つための工夫で、奈半利の町並みでは五段から六段のものが軒を連ねる。西蔵の五段は、この地方における標準的な段数の上限に近い。

創業者の藤村米太郎は嘉永5年(1852年)に奈半利に生まれ、樟脳・製材・海運を手がけたのち、明治41年(1908年)にノルウェー式捕鯨へ進出した。大正5年(1916年)に捕鯨部門を藤村捕鯨として分離し、翌大正6年(1917年)に藤村製絲を設立する。群馬県から教婦三名を招き、約八十名で操業を開始した。建物の年代は会社の設立に十八年先行しており、記念館の説明によれば、製絲創業以前は酒蔵として使われていたという。

登録の位置づけと、四件のうち二件

登録有形文化財は、平成8年(1996年)の文化財保護法改正によって創設された制度に基づく。国宝や重要文化財が国による「指定」を受け、現状変更に許可を要するのに対し、登録文化財は「登録」であり、外観を大きく変える工事に届出を求めるにとどまる。近代以降の建造物で、なお使用が続いているものを幅広く保護の網にかけるための仕組みである。西蔵はこの登録制度による保護を受けている。

登録番号は39-0008、第26回登録。登録年月日は平成12年10月18日、告示は同年11月6日である。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。種別は産業2次・建築物、員数は1棟。所有者は藤村製絲株式会社。

同じ日付で登録されたのは西蔵・東蔵・倉庫・石塀の四件であった。現在、文化庁の国指定文化財等データベースで詳細を参照できるのは西蔵と石塀の二件である。地元の記録では、国内操業停止後に工場建屋の解体が進み、敷地の大半は太陽光発電に転用されたと伝わる。同社の会社概要も現在の事業として太陽光発電事業を掲げており、産業施設としての機能が失われたのちに敷地の用途が変わった経緯が読み取れる。

解説文が西蔵を「繭蔵」とするのに対し、記念館側は製造した生糸を湿度と温度を一定に保って保存した蔵と説明している。土蔵の性能はいずれの用途にも適合するため、操業期間の長さを考えれば、時期によって役割が変わった可能性が高い。ここでは文化庁の記載を基準としつつ、両説を併記しておく。

見学のために

登録文化財の多くが個人所有の非公開物件であるのに対し、西蔵の建つ敷地は藤村製絲記念館として公開されている。公式サイトの表示では開館は平日8時30分から16時30分、最終入館16時、土曜・日曜・祝日は休館。電話は0887-38-4711。小規模な私設館であり開館体制は変わりうるので、訪問前の電話確認をすすめる。

館内には繰糸機や生糸の実物、操業当時の工場写真、各社の商標、創業者一族に関する資料などが並ぶ。平成19年(2007年)には高知県の近代化産業遺産に選定された。同社の沿革によれば、昭和32年(1957年)に県下で初めてオートメーション設備を導入し、昭和58年(1983年)には全国最高級品質の評価を得ている。四千社を超えた大正期の製糸会社が数えるほどに減じるなかで、平成17年(2005年)まで国内操業を続けた記録は、この建物の残り方そのものと重なる。

撮影については受付で確認したい。外観は制約がない。妻面の五段の水切瓦は入口側から見上げる位置にあり、敷地西辺を限る石塀は道路から常時視認できる。

交通は土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線の終点、奈半利駅から徒歩12分から15分ほど。高知市からは鉄道でおよそ90分。自動車の場合は高知東部自動車道の芸西西インターチェンジから約40分で、敷地に普通車20台分の無料駐車場がある。

町内には十数件の登録有形文化財が点在し、それぞれの前に説明板が立つ。旧道沿いには土佐漆喰の白壁と水切瓦、浜石を積んだ石塀、赤煉瓦の蔵が入り混じる。平成11年(1999年)から活動する「なはり浦の会」がガイドを行っており、徒歩で二時間ほどの行程で主要な建物を巡ることができる。

Q&A

Q藤村製絲株式会社西蔵はどこにありますか。アクセス方法は?
A高知県安芸郡奈半利町乙2630、奈半利川河口の左岸にあります。土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線の終点・奈半利駅から徒歩12分から15分程度。自動車の場合は普通車20台分の無料駐車場が敷地内にあり、芸西西インターチェンジから約40分です。
Q藤村製絲株式会社西蔵は見学できますか。開館時間と休館日は?
A敷地は藤村製絲記念館として公開されています。公式サイトの表示では平日8時30分から16時30分(最終入館16時)、土曜・日曜・祝日は休館です。開館体制は変更されることがあるため、0887-38-4711へ事前に確認してください。
Q藤村製絲株式会社西蔵の妻面にある五段の瓦は何ですか?
A水切瓦です。壁面から瓦を段状に張り出し、雨水を壁から切り離して漆喰の劣化を防ぎます。土佐地方に特徴的な技法で、奈半利の町並みでは五段から六段のものが見られます。西蔵は五段です。
Q藤村製絲株式会社西蔵は国宝や重要文化財ですか?
Aいずれでもありません。登録有形文化財(建造物)で、登録番号は39-0008、登録年月日は平成12年10月18日です。登録制度は指定制度より緩やかな規制のもとで近代建造物を保護する仕組みで、国宝・重要文化財の指定とは別の枠組みです。
Q藤村製絲株式会社西蔵の周辺に他の見どころはありますか?
A同じ敷地の西辺を限る石塀が別件で登録されており、道路から見学できます。町内には十数件の登録有形文化財があり、赤煉瓦のアーチ出入口を持つ住宅や煉瓦造の蔵などが旧道沿いに残ります。「なはり浦の会」のガイドで約二時間の町歩きが可能です。
Q藤村製絲株式会社西蔵は何を保管していた蔵ですか?
A文化庁の解説文は藤村米太郎が興した製糸工場の繭蔵と記します。一方、記念館は製造した生糸を温湿度を一定に保って保存した蔵と説明しており、創業以前は酒蔵であったとしています。土蔵の性能は双方の用途に適合します。

基本情報

名称藤村製絲株式会社西蔵(ふじむらせいしかぶしきがいしゃにしぐら)
所在地高知県安芸郡奈半利町乙2630
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号39-0008
指定年登録 平成12年(2000年)10月18日/告示 同年11月6日
員数1棟
寸法桁行約16メートル、梁間約10メートル、建築面積190平方メートル、二階建
所有者藤村製絲株式会社
公開状況藤村製絲記念館として公開。平日8時30分から16時30分(最終入館16時)、土日祝休館。電話0887-38-4711

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「藤村製絲株式会社西蔵」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00001958
文化遺産オンライン「藤村製絲株式会社西蔵」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/137728
高知県教育委員会文化財課「国登録有形文化財 藤村製絲株式会社」
https://www.kochinet.ed.jp/bunkazai/details/800/800-008-011.htm
こうち旅ネット「藤村製絲記念館」
https://kochi-tabi.jp/search_spot.html?id=7525
ひがしこうち旅「藤村製絲 西蔵」
https://higashi-kochi.jp/spot/detail.php?id=259

最終更新日: 2026.08.09