敷地西辺を限る延長三十五メートルの丸石練塀

藤村製絲株式会社石塀は、高知県安芸郡奈半利町乙2630にある明治32年(1899年)頃の石造の塀で、平成12年(2000年)10月18日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。製糸工場であった敷地の西辺を限り、延長35メートル、高さ2.2メートル、厚さ50センチメートルを測る。

構法は丸石練塀。奈半利川が山地から急勾配で運び下ろし、角を落とした浜石を、赤土などを練り合わせた材で固めながら積み上げる。空積みではないため面が動かず、頂部には桟瓦葺の小屋根を載せて、雨水が目地の土を洗い流すのを防いでいる。土佐地方でこの種の塀は「いしぐろ」と呼ばれ、奈半利の旧道沿いでは主屋の白壁と対をなす景観要素になっている。

南北で表情が変わる点にこの塀の面白さがある。南側は玉石をそのまま積み、川がつくった卵形の面が並ぶ。北側は同じ石を半割にして割面を外へ向けるため、平滑で目地の通った壁面になる。町内の他家の塀は丸石か半割かのいずれかで統一されることが多く、一つの境界線上で二つの手法が続く例は目を引く。

石の選別も見どころのひとつである。高さ2.2メートルを積み通すには、下部に大ぶりの石を、上部に小ぶりの石を配して重心を落とす必要がある。塀の足元から目線の高さへ視線を移すと、石の径がゆるやかに小さくなっていく。

「再現することが容易でないもの」という登録基準

登録有形文化財は、平成8年(1996年)の文化財保護法改正で創設された制度による。国宝や重要文化財が国の「指定」を受け現状変更に許可を要するのに対し、登録文化財は届出制を基本とし、近代以降のなお使用中の建造物を幅広く保護の対象とする。石塀の登録番号は39-0011、第26回登録、登録年月日は平成12年10月18日、告示は同年11月6日である。種別は産業2次・その他工作物、員数は1棟、所有者は藤村製絲株式会社。

注目したいのは登録基準である。同じ敷地の西蔵が「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で登録されたのに対し、石塀に適用されたのは「再現することが容易でないもの」であった。景観への寄与ではなく、技術そのものの再現困難性が評価されている。浜石を径で選り分け、割面を揃え、練り土の配合を誤らずに2.2メートルの高さを35メートルにわたって垂直に保つ作業は、図面ではなく手の記憶に属する。

文化庁の解説文は、この塀が伝統的な「いしぐろ」の系統を引きながら、近代の手法を取り込んでいることも指摘する。基礎は間知積風、すなわち護岸などに用いられる楔形の間知石を積む工法に似た納まりとし、隅角部は切石積とする。いずれも在来の丸石練塀の語彙にはない。捕鯨と製材で資本を得た事業家が、明治三十年代に入手しうる最良の工法を境界に投じた結果と読める。

登録時、この敷地からは西蔵・東蔵・倉庫・石塀の四件が同日に登録された。現在、文化庁の国指定文化財等データベースで詳細を参照できるのは西蔵と石塀の二件である。国内操業停止後に工場建屋の解体が進み、敷地の大半は太陽光発電に転用されたと地元では伝わる。境界を画す構築物が、囲われていた工場より長く残ったことになる。

歩いて見る

石塀は道路に面しており、時間の制約も費用もなく外から見学できる。私有地に立ち入る必要はない。斜光の入る早朝か夕刻に訪れると、丸石の凹凸と半割面の平滑さの差が影となって現れ、南北の切り替わりが分かりやすい。

塀の内側は藤村製絲記念館として公開されている。公式サイトの表示では開館は平日8時30分から16時30分、最終入館16時、土曜・日曜・祝日は休館。電話は0887-38-4711。小規模な私設館のため、事前の電話確認をすすめる。館内には繰糸機や操業当時の工場写真、各社の商標などが並び、平成17年(2005年)まで続いた国内操業の実際を知ることができる。敷地には普通車20台分の無料駐車場がある。

交通は土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線の終点、奈半利駅から徒歩12分から15分ほど。高知市からは鉄道でおよそ90分、自動車では芸西西インターチェンジから約40分である。

町歩きに二時間を充てたい。旧道沿いには十数件の登録有形文化財が点在し、それぞれの前に説明板が立つ。石塀を見比べていくと、笠木の瓦の重さ、目地の色、基礎の納まりが家ごとに違うことに気づく。平成11年(1999年)から活動する「なはり浦の会」がガイドを行っており、徒歩で主要な物件を巡る行程を案内している。

Q&A

Q藤村製絲株式会社石塀はどこにありますか。自由に見学できますか?
A高知県安芸郡奈半利町乙2630、旧製糸工場敷地の西辺にあります。道路に面しているため、時間の制限も費用もなく外から見学・撮影できます。私有地に立ち入る必要はありません。
Q藤村製絲株式会社石塀の規模はどれくらいですか?
A延長35メートル、高さ2.2メートル、厚さ50センチメートルの石造で、頂部に桟瓦葺の小屋根を載せます。文化庁の登録は1棟、年代は明治32年(1899年)頃とされています。
Q藤村製絲株式会社石塀の南側と北側で見た目が違うのはなぜですか?
A南側は玉石をそのまま積み、北側は同じ石を半割にして割面を外に向けているためです。町内の石塀は丸石か半割かで統一される例が多く、一つの境界に両方の手法が並ぶのは珍しい構成です。
Q藤村製絲株式会社石塀は国宝や重要文化財ですか?
Aいずれでもありません。登録有形文化財(建造物)で、登録番号39-0011、登録年月日は平成12年10月18日です。登録基準は「再現することが容易でないもの」が適用されており、同じ敷地の西蔵とは異なる基準で登録されています。
Q藤村製絲株式会社石塀にみられる「いしぐろ」とは何ですか?
A土佐地方で浜石や川石を赤土などで練り固めて積む塀の呼称です。この石塀もその系統に属しますが、基礎を間知積風とし、隅角部を切石積とするなど、明治期の近代的な工法が加えられている点に特徴があります。
Q藤村製絲株式会社石塀の周辺に他の見どころはありますか?
A同じ敷地に明治32年建築の西蔵が別件で登録されており、敷地は藤村製絲記念館として平日に公開されています。旧道沿いには十数件の登録有形文化財があり、「なはり浦の会」による約二時間のガイド町歩きも利用できます。

基本情報

名称藤村製絲株式会社石塀(ふじむらせいしかぶしきがいしゃいしべい)
所在地高知県安芸郡奈半利町乙2630
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号39-0011
指定年登録 平成12年(2000年)10月18日/告示 同年11月6日
員数1棟
寸法石造、延長35メートル、高さ2.2メートル、厚さ50センチメートル
所有者藤村製絲株式会社
公開状況道路から常時見学可・無料。敷地内は藤村製絲記念館として平日8時30分から16時30分に公開(土日祝休館、電話0887-38-4711)

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「藤村製絲株式会社石塀」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00001961
文化遺産オンライン「藤村製絲株式会社石塀」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/139231
高知県教育委員会文化財課「国登録有形文化財 藤村製絲株式会社」
https://www.kochinet.ed.jp/bunkazai/details/800/800-008-011.htm
ゴトゴトweb(ごめん・なはり線沿線案内)「古民家 藤村製絲記念館」
https://gomen-nahari.com/sight_seeing.php?place=nahari&p=fujimuraseishi
道の駅田野駅屋「奈半利町 観光・宿泊情報」
https://www.tanoekiya.com/chugei/nahari.html

最終更新日: 2026.08.09