天守ではなく、櫓と塀が重要文化財である

熊本城は、熊本市中央区本丸および二ノ丸にある近世城郭で、現存する江戸時代の建造物13棟が昭和8年(1933年)1月23日に国の重要文化財に指定されている。指定番号は00915、所有者は国(文部科学省)、管理団体は熊本市である。

多くの来訪者が思い浮かべるのは、黒い下見板をまとった大小天守だろう。あれは昭和35年(1960年)に鉄骨鉄筋コンクリートで外観復元されたもので、文化財の指定は受けていない。指定を受けているのは、東側の石垣上に連なる低い櫓群、鬼門に据えられた門、坪井川沿いに延びる長い塀、そして本丸北西の隅に立つ巨大な櫓である。

築城は加藤清正による。慶長6年(1601年)に起工し、同12年(1607年)に竣工した。清正は土木に長けた武将として知られ、なかでも石垣の評価が高い。裾では緩やかに始まり、上端に近づくほど反り返って垂直に迫る勾配は、地元で武者返しと呼ばれてきた。

慶長と幕末、二つの世代

13棟は年代の上で二つの群に分かれる。両者の間には二百五十年ほどの隔たりがあり、この違いを頭に入れて城内図を見ると、櫓の並びの読み方が変わってくる。

慶長6年から12年、清正の築城時にさかのぼるのは5棟。宇土櫓が最大で、源之進櫓は曲輪の隅にあわせて折れ曲がった平面をもつ。東十八間櫓、北十八間櫓、五間櫓は本丸の北東縁に立ち、うち北十八間櫓も折曲りの形式である。坪井川に面する長塀も同じ時期に属する。

残る棟は幕末に旧来の櫓台の上へ建て直されたものである。十四間櫓が天保15年(1844年)、七間櫓が安政4年(1857年)、平櫓と監物櫓(新堀櫓)が安政7年(1860年)、田子櫓が慶応元年(1865年)、四間櫓と不開門が慶応2年(1866年)。城として使い続けるための普請が幕末まで続いていたことが、この年代の並びから読み取れる。

不開門は城内に唯一残る櫓門で、名前は「開けない門」に由来する。鬼門にあたる北東に位置し、平時は常に閉ざされ、葬送など限られた通行にのみ用いられた。左端が入母屋造、右端が切妻造という左右で異なる屋根形式をとる。

屋根の葺き方も二つの群を見分ける手がかりになる。櫓と門は本瓦葺で、平瓦と丸瓦を交互に並べる格式の高い工法。これに対し長塀は桟瓦葺である。長塀の長さは文化庁のデータベースが252.7メートル、熊本市の復旧関係資料が242.44メートルとしており、流通する数値には幅がある。

宇土櫓という「第三の天守」

宇土櫓は平左衛門丸の北西隅に立つ。三重五階、地下一階付、南側に一重(一部二階)の続櫓を伴う。これは天守の規模である。熊本では大小天守に次ぐものとして第三の天守と呼ばれ、築城当初から近代まで残った多重櫓は城内でこれ一棟だった。

小西行長の宇土城にあった三層五重の天守を移築したもの、という説明が文化庁の解説にも引かれている。ただし移築そのものについては専門家の間で長く議論があり、現時点で確実に言えるのは、桃山時代初期の天守の形式を示す建物であり、宇土からの移築と伝えられている、という範囲までである。

平成28年(2016年)の熊本地震で続櫓が倒壊し、以後は解体を伴う修理が続いている。五階櫓部分の解体保存は2025年に完了し、その下の穴蔵部分の発掘調査が行われた。最も深いところで約1.5メートル掘り下げると堆積が三層に分かれ、瓦を多く含む層からは慶長4年(1599年)にあたる年号を記した瓦が見つかっている。細川氏の時代に石垣の修理が行われた痕跡と考えられている。復旧設計は2020年代後半にかけて進み、組み立て工事は2028年度着手、完了は2032年度が予定されている。それまでの間、櫓は素屋根に覆われている。

火災、そして二度の地震

熊本城が中心部を失ったのは明治10年(1877年)である。西南戦争の開戦直前に出火し、大小天守と本丸御殿一帯が焼失した。その後、谷干城率いる鎮台は五十数日にわたって籠城を続ける。この火災を免れた建物が、おおむね昭和8年の指定を受けた13棟にあたる。東竹の丸に櫓が集中して残るのはこのためである。

平成28年(2016年)4月の熊本地震では13棟すべてが被災した。北十八間櫓と東十八間櫓が倒壊し、その一部は隣接する熊本大神宮の建物の屋根を突き破った。宇土櫓の続櫓が倒れ、不開門も周囲の石垣とともに一部倒壊、長塀は東側約80メートルが倒れた。復旧は建物ごとに進められ、長塀は令和3年(2021年)に、監物櫓は令和5年(2023年)に完了している。

そして令和8年(2026年)7月28日、ふたたび地震が起きた。宇城市と氷川町で震度7を観測した地震で、熊本市中央区でも強い揺れとなった。熊本市は石垣で約40カ所、建造物で8カ所の被害を確認しており、重要文化財では監物櫓が被災した。復元天守でも内装材の一部が破損している。10年前の被災箇所が今回の揺れで崩落したとみられる場所もある。城は地震当日から休園に入り、令和34年度(2052年度)としていた完全復旧の工程は見直しの対象となっている。

訪問を計画するときに

熊本城は2026年8月現在、7月の地震を受けた安全確認のため臨時休園中である。周辺では復興城主受付窓口や二の丸お休み処、桜の馬場城彩苑の飲食・物販施設が再開する一方、熊本城ミュージアムわくわく座は休館が続く。状況は週ごとに変わっているため、熊本を訪れる予定がある場合は熊本城公式サイトで最新の開園情報を確認していただきたい。

通常時の開園は9時から17時(最終入園16時)、休園日は12月29日のみ。入園料は高校生以上800円、小中学生300円である。令和3年(2021年)以降の見学は、地上約6メートルの高さに設けられた特別見学通路を歩く形になる。復旧工事の現場をまたぎ、上から見下ろせるように設計された通路で、エレベーターも備わる。撮影の制限はない。

指定建造物は基本的に外観から見ることになる。宇土櫓は素屋根に包まれているが、二の丸広場からでもその規模は伝わる。素屋根の壁面には地震前の櫓の姿が投影されている。東竹の丸の櫓群は見学通路から望める。監物櫓は本丸から離れた二の丸地区の北端にあり、長塀は坪井川沿いの遊歩道から、入園しなくても常時眺めることができる。

最寄りは熊本市電の熊本城・市役所前電停で、熊本駅から15分ほど。そこから徒歩で城域に入る。

Q&A

Q熊本城は今、見学できますか。通常の開園時間と入園料は。
A令和8年(2026年)7月28日の地震以降、安全確認のため臨時休園が続いています。通常は9時から17時(最終入園16時)、休園日は12月29日のみ、入園料は高校生以上800円・小中学生300円です。訪問前に公式サイトでご確認ください。
Q熊本城のどの建物が重要文化財に指定されているのですか。
A宇土櫓、源之進櫓、四間櫓、十四間櫓、七間櫓、田子櫓、東十八間櫓、北十八間櫓、五間櫓、平櫓、監物櫓(新堀櫓)の11棟の櫓と、不開門、長塀を合わせた13棟です。昭和8年(1933年)1月23日に一括して指定されました。
Q熊本城の天守閣は当時の建物が残っているのですか。
A残っていません。大小天守は明治10年(1877年)の西南戦争開戦直前の火災で焼失し、現在の天守は昭和35年(1960年)に鉄骨鉄筋コンクリートで外観復元されたものです。2021年には制振装置を備えて復旧しました。文化財の指定はありません。
Q熊本城の宇土櫓は今、見ることができますか。
A建物としての姿は見られません。2022年から本格的な解体修理に入り、五階櫓部分の解体保存は2025年に完了しました。組み立て工事は2028年度着手、完了は2032年度の予定で、それまでは素屋根に覆われています。
Q令和8年熊本地震で熊本城はどの程度の被害を受けたのですか。
A熊本市の発表では、石垣で約40カ所、建造物で8カ所の被害が確認されています。重要文化財では監物櫓が被災し、復元天守でも内装材の一部が破損しました。調査は継続中で、復旧工程の見直しが進められています。

基本情報

名称熊本城(くまもとじょう)
所在地熊本県熊本市中央区本丸および二ノ丸
指定区分重要文化財(建造物)/指定番号 00915。城跡全体は特別史跡
指定年昭和8年(1933年)1月23日
員数13棟(櫓11棟、櫓門1棟、塀1棟)
寸法宇土櫓=三重五階櫓、地下一階付、続櫓一重(一部二階)、総本瓦葺。長塀=長さ252.7メートル、桟瓦葺(熊本市資料では242.44メートル)
所有者国(文部科学省)/管理団体 熊本市
公開状況2026年8月現在、臨時休園中。通常は9時〜17時(最終入園16時)、高校生以上800円・小中学生300円

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) — 熊本城 長塀
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/3558
文化遺産オンライン — 熊本城 宇土櫓
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/191383
【公式】熊本城 — 熊本城紹介
https://castle.kumamoto-guide.jp/about/
【公式】熊本城 — 復旧状況
https://castle.kumamoto-guide.jp/map/
【公式】熊本城 — 令和8年熊本地震に伴う開園情報
https://castle.kumamoto-guide.jp/news/detail/1459
熊本市 — 熊本城復旧基本計画
https://www.city.kumamoto.jp/kiji00348172/index.html
熊本県観光サイト — 熊本城の最新・復旧状況
https://kumamoto.guide/look/detail/607

最終更新日: 2026.08.08

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