煉瓦の箱にのった奇妙な屋根
熊本市水道記念館(旧八景水谷貯水池ポンプ場)は、熊本市北区八景水谷の湧水地に建つ大正13年(1924年)竣工の煉瓦造建築で、平成9年(1997年)5月に国の登録有形文化財に登録された。
平面は正方形。煉瓦造の平屋建で、建築面積は99平方メートル。ここまでの説明で屋根の姿を想像できる人はいない。
建物は寄棟屋根に覆われる。その四面それぞれから、反曲線を組み合わせた小さな屋根が外へ張り出す。和風でもなく、ふつうの洋風でもない形になる。壁は下部が煉瓦、上部がモルタルで、水平方向に2つの素材と2つの色に分かれる。窓のまわりには縁取りが立ち上がる。
文化庁のデータベースはこれを表現派の装いと記す。的確な言い方だと思う。建築における表現派は1920年前後のドイツで展開した流れで、幾何形を歪め、構造が内側から圧力を受けているように見せることを好んだ。九州の一地方都市の市営ポンプ場でそれに出会うとは考えにくい。その食い違いが、この建物の面白さの大半を占める。
地下水だけを飲む都市
熊本市の上水道は大正13年11月27日に給水を開始した。この建物が建った年である。以来今日まで、市の水道水は100パーセントが地下水でまかなわれている。50万人を超える人口の水道水をすべて地下水に頼る都市は、国内でほかに例がない。
その出発点が八景水谷だった。江戸期には肥後藩主細川綱利がここに茶屋を設けたと伝わるほど湧水が豊かで、地名は谷水の出る場所を指す「はけ」と、藩主が茶屋から詠んだという八つの景色を重ねたものと説明される。現在は公園の地下の帯水層から4本の井戸で取水している。
水は自力で丘を登らない。熊本市の系統は八景水谷から立田山の配水池へ水を押し上げ、そこから先は高低差にまかせて市街地へ流す。その中間にある、高価で不可欠な一段が送水である。この建物はポンプを収めていた。
地元の資料は、この建物を八景水谷水源地の第二送水ポンプ室とし、大正13年の創設から昭和42年(1967年)3月まで43年間使われたとする。文化庁の登録名称は旧八景水谷貯水池ポンプ場。ふたつの名は、同じ建物と同じ役割を少し違う角度から呼んだものである。
登録番号は43-0004、第2回の登録にあたる。ここは立ち止まる価値がある。登録制度が発足したのは平成8年(1996年)。この建物は熊本県内でもっとも早い時期に登録された物件のひとつで、平成9年5月7日に登録、5月29日に告示された。適用基準は国土の歴史的景観に寄与しているものである。
内部の様子と、たどり着き方
地元の資料によれば、内部は白い漆喰の壁で、天井は外観から予想するより高い。おかげで99平方メートルの一室が実際より広く感じられるという。室内のほぼ中央に送水ポンプとモーターが据えられ、スイスのズルザーブラザーズ社製で創設時のまま残るものとされる。その周囲に、熊本の水道の草創期を伝える写真や解説が並ぶ。
問題はその内部に入れるかどうかである。公開はイベント時などに限られる。加えて、熊本市上下水道サービス公社が団体や学校向けに実施している水道施設見学の案内先にも含まれている。予約なしの飛び込み見学はできず、常設の開館時間もない。団体であれば同公社に相談する道があり、個人の場合は公開行事に日程を合わせるほうが確実である。
外観を見るだけなら、料金も許可も要らない。建物は八景水谷公園の中にある。ソメイヨシノがおよそ200本、小川が流れ、加藤清正の銅像が立つ。この像は大正14年の熊本市三大事業記念国産共進会、すなわち上水道通水・市電開通・連隊移転を記念した催しののちに移設されたものである。最寄りは熊本電気鉄道菊池線の八景水谷駅で、無人駅から歩いてすぐ。
八景水谷1丁目11-1の熊本市水の科学館と組み合わせるとよい。数分先に建つ別施設で、こちらはずっと新しい。入館無料、開館は9時から17時、月曜休館。令和8年7月28日の地震で臨時休館し、8月1日に再開している。
その地震はマグニチュード7.1で、震源はここよりかなり南だった。この登録建造物についての被害報告は確認されていない。熊本市北部で観測された揺れは強かったが最大階級ではなかった。県内では施設の予定がなお見直され続けているため、出発前の確認をおすすめする。
Q&A
- 熊本市水道記念館の内部は見学できますか。
- 限定的な公開です。イベント時などに開かれるほか、熊本市上下水道サービス公社が団体向けに行う水道施設見学の案内先に含まれています。個人が随時入館できる常設の開館時間はありません。外観であれば八景水谷公園からいつでも見られます。
- 熊本市水道記念館の中には何が置かれていますか。
- 白い漆喰壁の天井の高い一室で、中央付近に送水ポンプとモーターが据えられています。地元の資料はこれをスイスのズルザーブラザーズ社製とし、大正13年の創設時から動かされていないものとしています。周囲には熊本の水道草創期の写真や解説が展示されています。
- 熊本市水道記念館へのアクセスと最寄り駅を教えてください。
- 所在地は熊本市北区八景水谷1-7-3です。最寄りは熊本電気鉄道菊池線の八景水谷駅で、無人駅から八景水谷公園まで徒歩すぐ。同線はJRと接続する上熊本駅から出ています。
- 熊本市水道記念館と熊本市水の科学館は同じ施設ですか。
- 別の施設です。水道記念館は八景水谷1-7-3にある大正13年築の登録有形文化財で、公開は限定的です。水の科学館は1-11-1にある新しい体験学習施設で、入館無料、9時から17時、月曜休館となっています。
- 熊本市水道記念館はいつ登録有形文化財になりましたか。
- 平成9年(1997年)5月7日に登録され、5月29日に告示されました。登録番号は43-0004、第2回の登録です。適用された基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で、熊本県内では最も早い時期の登録物件のひとつにあたります。
基本情報
| 名称 | 熊本市水道記念館(旧八景水谷貯水池ポンプ場) |
|---|---|
| 所在地 | 熊本県熊本市北区八景水谷1-7-3 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号43-0004 |
| 指定年 | 平成9年(1997年)5月7日登録/同年5月29日告示 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 煉瓦造平屋建、建築面積99平方メートル。正方形平面、寄棟屋根 |
| 所有者 | 熊本市 |
| 公開状況 | 内部はイベント時等の限定公開および団体の施設見学。外観は八景水谷公園から見学可能 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース — 熊本市水道記念館(旧八景水谷貯水池ポンプ場)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000177
- 文化遺産オンライン — 熊本市水道記念館(旧八景水谷貯水池ポンプ場)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/113257
- 熊本市 — 登録有形文化財 熊本市水道記念館(旧八景水谷貯水池ポンプ場)
- https://www.city.kumamoto.jp/kiji00363785/index.html
- 熊本市上下水道局 — 施設見学について
- https://www.kumamoto-waterworks.jp/waterworks_article/10152/
- 熊本市水の科学館 公式サイト
- https://www.mizunokagakukan.jp/
- 熊本電気鉄道 — 八景水谷駅
- https://www.kumamotodentetsu.co.jp/train/station/10.html
最終更新日: 2026.08.08