文化十一年の大火と、翌年の再建

文化十一年(一八一四)、天草西海岸の高浜村を大火が襲い、庄屋を務めた上田家の屋敷も焼失した。現在の主屋は翌文化十二年(一八一五)の再建で、上田家住宅を訪れて最初に対面するのが、この大ぶりで飾り気の少ない一棟である。

桁行十間、梁間八間の規模をもつ木造平屋建で、東西棟の入母屋造、瓦葺とし、南に面して建つ。外壁は漆喰塗、腰を下見板張とし、北西隅に炊事場および物置、東側背面に浴室などを張り出す。国指定文化財等データベースはその規模と意匠を「堂々たるつくり」と記す。人を迎える座敷を備えた庄屋宅として、住まいと接客の双方を引き受けた建物である。

上田家は江戸中期以降、代々高浜村の庄屋を勤めたと伝わる。なかでも七代当主・上田源太夫宜珍(よしうず)はこの主屋再建期の当主にあたり、高浜焼の事業を広げ、伊能忠敬に測量を学んだ人物として知られる。屋敷内の資料館には、宜珍を含む歴代の遺した古文書が数多く残る。

登録の理由

主屋は平成十八年(二〇〇六)に登録有形文化財(建造物)となった。登録番号は43-0081、登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。登録有形文化財は、重要文化財のように少数を厳選して指定するものではなく、保存と活用が望まれる建造物を幅広く登録する制度で、記念物として凍結せず用いられ続けてきた庄屋宅の性格によく合う。

ここで評価されるのは、ある種の完全さである。江戸後期の在郷庄屋宅が、これほどの規模と、飾らない確かな木割を保って残る例は多くない。漆喰の壁、下見板の腰、張り出した水回りの各棟は、いずれも九州の庄屋住宅の語彙に属し、文化十二年という年紀は、記録に残る火災と、記録に残る当主とに建物を結びつける。敷地に残る他の四棟の登録建造物とあわせて読むとき、主屋は江戸から明治にかけての地方支配層の暮らしと接客のありようを示す屋敷構えの中心に位置する。

上田家は、自家の由緒を、大坂の陣ののちに天草へ落ち延びた武家の流れに求める。この種の家伝は検証が難しく、家が自らを語る言葉として読むのが穏当だろう。確かな史料が示すのは、村を治め、窯を営み、二世紀を超えて丹念に記録を残し続けた一族の姿である。

見どころ

老朽化のため屋内には上がれず、建物は外から眺める。その制約が見方を変える。正面からはまず屋根が目に入る。入母屋の長い瓦の斜面が両端で妻を見せ、続いて漆喰壁と、その下の黒い下見板の腰が横に走るリズムを刻む。主屋は約千坪の敷地の中央に置かれ、屋敷を囲む庭は背後の山の斜面を生かして構成されるため、この一棟は、より大きな作庭の一要素として捉えるとよい。

住宅の隣には上田資料館と寿芳窯があり、窯では今も地元の天草陶石を用いた高浜焼が焼かれている。資料館には古文書と古高浜焼が並び、窯元の売店には天草陶石から挽き出された白い器が並ぶ。屋敷と窯を続けて見ると両者のつながりが明瞭になる。この屋敷を建て、また建て直した資金の多くは、周囲の山の土から得られたものだからである。

高浜へは相応の計画がいる。天草の中心・本渡から下田温泉方面のバスに乗り、高浜のバス停で乗り換えると、そこから屋敷は徒歩数分である。西海岸は東シナ海に面し、夕陽で知られる一帯で、陶磁器の里が山裾の海辺に点在する。

Q&A

Q主屋の中に入れますか。
A屋内は老朽化のため非公開で、建物は敷地内から外観を見学します。隣接する上田資料館は公開されており、通常は窯元の売店で入館料を払い、鍵を開けてもらう形です。
Q建物はいつのものですか。
A主屋は文化十二年(一八一五)の再建です。前年の文化十一年に高浜の大火で旧屋敷が焼失し、翌年に建て直されました。敷地内の他の登録建造物は、のちの明治期に建てられています。
Q上田家とはどのような家ですか。
A代々高浜村の庄屋を勤め、宝暦十二年(一七六二)に高浜焼の窯を開いた旧家です。七代・上田宜珍は伊能忠敬に測量を学んだ地域の知識人として知られます。
Q屋敷と高浜焼はつながっていますか。
Aはい。住宅の隣に寿芳窯があり、今も天草陶石で高浜焼を焼いています。上田家は十八世紀からこの窯を営み、その商いが屋敷の造営を支えました。
Q行き方を教えてください。
A本渡から下田温泉方面のバスに乗り、高浜のバス停で乗り換えて徒歩数分です。天草西海岸に位置し、東シナ海の夕陽で知られる一帯にあります。

基本データ

名称上田家住宅主屋(うえだけじゅうたくしゅおく)
所在地熊本県天草市天草町高浜南七二三
指定区分登録有形文化財(建造物)/平成十八年登録/登録番号 43-0081
年代文化十二年(一八一五)、江戸後期
構造・規模木造平屋建、瓦葺/建築面積約四六七平方メートル/桁行十間・梁間八間
交通本渡から下田温泉方面バス、高浜バス停乗換、徒歩数分
備考屋内非公開、外観見学。上田資料館・寿芳窯を併設

参考文献

国指定文化財等データベース — 上田家住宅主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005516
天草市 — 上田家住宅
https://www.city.amakusa.kumamoto.jp/kiji0031397/index.html
熊本県観光サイト — 上田家住宅 上田資料館
https://kumamoto.guide/spots/detail/11315
高浜焼 寿芳窯 — 公式サイト
https://takahamayaki.jp/

最終更新日: 2026.07.04