西原村河原に残る旧家の屋敷

矢野家住宅は、熊本県阿蘇郡西原村大字河原にある明治3年(1870年)から昭和4年(1929年)にかけて建てられた旧家の屋敷で、本宅の7棟と新宅の主屋1棟の計8棟が平成11年(1999年)6月7日に登録有形文化財に登録された。

西原村は阿蘇外輪山の西の麓に広がる村で、熊本県庁からは東へ約20キロメートルの位置にある。矢野家住宅のある河原の地区は、村の西寄りの農村地帯にあたる。

文化庁の解説によれば、矢野家は武家の流れをくむ家で、明治時代には近隣の地主を務めた。本宅の門や主屋に武家屋敷を思わせる意匠が見られることは、この家の出自と重ねて説明されている。

新宅は、明治時代の末に本宅から分かれた家である。屋敷地は本宅の東隣にあり、新宅の主屋は河原村の村長を務めた矢野数馬が建てた。本家と分家の屋敷が隣り合ったまま残り、同じ日にそろって登録されている。

門から始まった屋敷づくり

矢野家住宅の8棟は、同時に建ったものではない。文化庁の登録データでもっとも早いのは明治3年(1870年)の表門・中門・裏門の三つの門で、その3年後、明治6年(1873年)に本宅の主屋が建った。主屋の座敷次の間には棟札が残っており、この年代はそれによって分かっている。

明治22年(1889年)には倉・味噌倉・納屋が建ち、同じ年に主屋の一部も増築された。門と住まいが先に整い、16年後に蔵と作業の建物が加わる。地主としての暮らしが軌道に乗っていく順序が、登録の年代欄にそのまま並んでいる。

新宅の主屋は昭和4年(1929年)の建築で、本宅の主屋から半世紀あまり後の住宅になる。明治初めの武家風の住まいと、昭和初めの床と書院を備えた住まいを、隣り合う敷地で見比べられるのが矢野家住宅の面白さである。

屋敷の配置

文化庁の解説を突き合わせると、矢野家住宅の本宅の建物の位置関係が組み立てられる。屋敷地の正面は西側の道路に面し、その道路沿いに北から納屋、味噌倉が並ぶ。味噌倉の南には、道路からわずかに引き込んだ位置に表門が開き、ここから主屋の玄関へ道筋が通じている。

主屋は味噌倉の東にあたる。主屋と表門のあいだは屋根付きの竹塀でつながれ、その途中に中門が開く。中門は屋敷地の南に広がる畑への出入口である。倉は主屋の南、屋敷地の境に建ち、北側の道路には、やはり少し引き込んで裏門が構えられている。

新宅の屋敷地は本宅の東に隣り合う。道路沿いの味噌倉と納屋は、板塀と高さをそろえた下見板で正面を仕上げ、通りからの眺めを整えていると文化庁は評価している。屋敷の外観をつかむなら、この西側の道路に立つのがもっとも分かりやすい。

見学の条件

矢野家住宅は個人の住宅で、一般公開は行われていない。西原村と文化庁の公表資料を確かめた範囲では、公開日や見学の受け付けについての案内は見当たらなかった(2026年9月時点)。建物の内部には入れず、門の内側は私有地である。

見学は、公道から外観を眺める範囲に限られる。本宅の納屋・味噌倉・表門は西側の道路に、裏門は北側の道路に面している。倉・中門・主屋は屋敷の奥にあたり、新宅の主屋も隣の敷地の内側に建つ。

撮影について公表された決まりはない。公道から外観を撮る範囲にとどめ、住まいの中や住人にカメラを向けないようにしたい。村内の文化財についての問い合わせは西原村役場(電話096-279-3111、平日午前8時30分から午後5時15分)が窓口になる。

行き方

西原村には鉄道が通っておらず、矢野家住宅へは車で向かうのが現実的である。阿蘇くまもと空港からは南東へ直線で約4キロメートルの距離にある。見学者向けの駐車場の案内は見当たらない。周辺の道は地域の生活道路なので、路上に車を止めて長居することは避けたい。

登録された8棟

矢野家住宅として登録されているのは次の8棟で、登録番号は43-0018から43-0025までの連番である。

  • 本宅 主屋:明治6年(1873年)、一部は明治22年(1889年)の増築、建築面積333平方メートル
  • 本宅 表門:明治3年(1870年)、薬医門、間口2.7メートル
  • 本宅 中門:明治3年(1870年)、薬医門、間口1.8メートル
  • 本宅 裏門:明治3年(1870年)、薬医門、間口2.1メートル
  • 本宅 倉:明治22年(1889年)、建築面積171平方メートル
  • 本宅 味噌倉:明治22年(1889年)、建築面積22平方メートル
  • 本宅 納屋:明治22年(1889年)、建築面積58平方メートル
  • 新宅 主屋:昭和4年(1929年)、建築面積241平方メートル

登録基準は棟によって異なる。本宅の主屋・表門と新宅の主屋は「造形の規範となっているもの」、倉は「再現することが容易でないもの」、味噌倉・納屋・中門・裏門は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」にあたる。

文化庁の登録データは、本宅の主屋・倉・味噌倉・納屋と新宅の主屋の構造を、いずれも「石造平屋建一部2階建」と記している。ところが同じデータベースの解説文は、倉を土蔵、納屋を真壁の建物として説明しており、構造欄の記載と食い違う。本サイトでは構造欄の記載をそのまま示し、実際の構法については判断を保留している。

名称と読み

読みは「やのけじゅうたく」。本宅は「ほんたく」、新宅は「しんたく」と読む。文化庁のデータベースでは「矢野家住宅(本宅)主屋」「矢野家住宅(新宅)主屋」のように、家と棟の名を連ねた名称で1棟ずつ登録されている。本宅は本家の屋敷、新宅はそこから分かれた家の屋敷を指す。高知県にも同じ名の矢野家住宅主屋があるが、別の家の建物である。

参考文献

国指定文化財等データベース 矢野家住宅(本宅)主屋(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00001150
国指定文化財等データベース 矢野家住宅(新宅)主屋(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00001157
文化遺産オンライン 熊本県阿蘇郡西原村の文化財
https://online.bunka.go.jp/heritages/region/43/43432
村内文化財一覧(西原村)
https://www.vill.nishihara.kumamoto.jp/kiji00346/index.html
西原村(熊本地震震災ミュージアム 記憶の廻廊)
https://kumamotojishin-museum.com/spots/detail/aa11cce2-e0e2-4d8e-bfd9-7d03c02bcbda

最終更新日: 2026.09.24

基本情報

名称矢野家住宅
所在地熊本県阿蘇郡西原村大字河原2524
指定登録有形文化財 8件
座標32.81463, 130.89099