建築面積16平方メートルの土蔵

荒木家住宅(旧林家住宅)土蔵は、京都市北区紫竹西南町にある江戸後期の土蔵造2階建で、平成19年(2007年)に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

主屋の背面、敷地の西寄りに、棟を東西方向にとって建つ。建築面積は16平方メートル。数字だけを見れば小さな部屋ひとつ分でしかないが、そこに2階分の床と本格的な瓦屋根が載る。

土蔵は家財を火から守るための建物である。京都は幾度も焼けた都市であり、余力のある家は木造の軸部に厚く土を塗り重ね、外側を漆喰で仕上げた箱を持った。衣類、文書、什器、季節の道具。母屋が焼けても蔵は残る、という前提のもとに造られている。

文化庁のデータベースは年代を「江戸後期」とし、西暦は1751年から1829年の範囲で示す。前に建つ主屋は文化4年(1807年)と特定されており、この範囲に収まる。両者が近接した時期の建築である可能性はあるが、記録からそれ以上の断定はできない。

置屋根と、梁を用いない小屋組

この小さな建物の技術的な見どころは、屋根の架け方にある。外から見ただけでは分かりにくいので、順を追って記しておきたい。

屋根は置屋根である。土蔵の軸部と一体に小屋を組むのではなく、塗り籠めた箱の上に、別に組んだ屋根を載せる。理由は実用的だ。土壁は濡らしてはならない。深く出た軒がこれを庇う。壁の上端と屋根裏との間に生じる空隙は熱を逃がす通路になり、絹や紙を納める蔵にとって意味を持つ。万一屋根が焼けても、下の箱は残り、葺き直せば済む。

その上に切妻造の屋根が架かり、桟瓦で葺かれる。主屋と同じ瓦種である。

そして、大工なら気づく一点。この小屋組は梁を用いない。通常の和小屋であれば、梁を渡し、その上に束を立てて母屋と棟木を受ける。ここではその中間層が省かれ、柱がそのまま立ち上がって母屋と棟木を直接受けている。桁行1間半、梁間2間、およそ2.7メートルに3.6メートルという規模では、梁は必要とされなかった。荷重が求めるものだけに切り詰めた架構である。

こうした徹底した合理は、規模の大きい格式ある建物には残りにくい。構造的な余裕と見せ方の要請が、どちらも架構を重くする方向に働くからだ。家の蔵を建てるとき、見る者はいなかった。大工は、必要なものだけを組んだ。

白漆喰の壁面と、南面のひとつの窓

外壁は白漆喰塗。土壁の芯を覆って風雨を防ぎ、日射を照り返す。黒く沈んだ瓦屋根との対比が、日本の蔵の見慣れた姿をつくっている。

開口は最小限に抑えられる。窓は2階の南面にひとつ。同じく南面の戸口には瓦葺の庇が架かり、入口を覆うとともに、雨水が枠まわりの漆喰を伝い落ちるのを防ぐ。蔵において開口部は、防火の面でも防湿の面でも弱点になる。数が少ないのはそのためである。

文化庁の解説文は、この建物を「小規模ながら端正な土蔵」と結ぶ。寸法と年代を淡々と並べるデータベースにあって、評価の言葉が添えられるのは珍しい。

登録番号は26-0255、第55回登録。登録年月日は平成19年7月31日、官報告示は同年8月13日。主屋は同日に26-0254として登録された。適用された登録基準は第一の「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で、この蔵の価値が、単体としての稀少性よりも、残された紫竹の屋敷構えを構成する一要素である点に置かれていることを示す。

見学の可否と注意点

荒木家住宅は現に居住されている個人住宅であり、土蔵も一般公開されていない。拝観時間・拝観料の設定はなく、内部に立ち入ることはできない。加えて、この蔵は主屋の背後、敷地西寄りに位置するため、主屋以上に公道からの視認が難しい。よく見える場所を探して敷地内に立ち入るようなことは避けたい。

所在地は京都市北区紫竹西南町17-1。地下鉄烏丸線北大路駅から北へ徒歩20分から25分ほど、北大路通や大宮通の市バスを使えばより近い。公道からの撮影に制限はないが、閑静な住宅地であることは踏まえておきたい。京都の蔵を間近に観察したいのであれば、市内で公開されている京町家のうち蔵を伴うものを訪ねる方が確実である。南へ歩けば大徳寺の塔頭群があり、同じ行程に組み込みやすい。

Q&A

Q荒木家住宅(旧林家住宅)土蔵は見学できますか。
Aできません。現に居住されている個人住宅に属し、一般公開されていません。拝観時間や拝観料の設定はなく、内部にも入れません。主屋の背後に建つため、公道から見ることも容易ではありません。
Q荒木家住宅(旧林家住宅)土蔵はいつ建てられたものですか。
A文化庁の国指定文化財等データベースは年代を江戸後期とし、西暦1751年から1829年という範囲で示します。単一の年は特定されていません。同じ敷地の主屋は文化4年(1807年)でこの範囲に収まります。
Q荒木家住宅(旧林家住宅)土蔵の小屋組はどこが特徴的ですか。
A梁を用いない点です。通常は梁の上に束を立てて母屋と棟木を受けますが、この蔵では柱がそのまま母屋と棟木を受けています。桁行1間半、梁間2間という小規模だからこそ成立する架構です。屋根は置屋根で、土蔵の軸部とは別に組んで載せています。
Q荒木家住宅(旧林家住宅)土蔵の規模はどれくらいですか。
A建築面積16平方メートル、土蔵造2階建です。平面は桁行1間半、梁間2間、およそ2.7メートル×3.6メートルにあたり、棟は東西方向にとります。
Q荒木家住宅(旧林家住宅)土蔵のような土蔵は何のための建物ですか。
A家財を火災や盗難から守る収蔵施設です。木造の軸部に土を厚く塗り、外側を白漆喰で仕上げることで防火性を高め、衣類・文書・什器・季節の道具などを納めました。火災の多かった京都では切実な備えでした。
Q荒木家住宅(旧林家住宅)土蔵の登録はいつですか。主屋とは別ですか。
A平成19年(2007年)7月31日登録、同年8月13日告示、登録番号26-0255、第55回登録です。主屋は同じ日に26-0254として登録されており、二棟は一体の屋敷構えとして同時に登録されました。

基本情報

名称荒木家住宅(旧林家住宅)土蔵(あらきけじゅうたく(きゅうはやしけじゅうたく)どぞう)
所在地京都府京都市北区紫竹西南町17-1
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 26-0255
指定年平成19年(2007年)7月31日登録、同年8月13日告示(第55回登録)
員数1棟
寸法土蔵造2階建、瓦葺、建築面積16平方メートル。桁行1間半、梁間2間
所有者個人(文化庁データベースに所有者名の記載なし)
公開状況非公開。主屋背面に位置し公道からの視認も困難

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース 荒木家住宅(旧林家住宅)土蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006547
文化遺産オンライン 荒木家住宅(旧林家住宅)土蔵
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/191270
文化庁 国指定文化財等データベース 荒木家住宅(旧林家住宅)主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006546
文化庁 登録有形文化財(建造物)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/toroku_yukei.html
文化庁 国指定文化財等データベース 登録有形文化財(建造物)分類一覧
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/categorylist?register_id=101

最終更新日: 2026.08.06