紫竹の街路に前庭をひらく平屋
荒木家住宅(旧林家住宅)主屋は、京都市北区紫竹西南町にある文化4年(1807年)建築の木造平屋建住宅で、平成19年(2007年)に国の登録有形文化財(建造物)となった。
敷地は大徳寺の北を東西に走る今宮通の、さらに北側にある。洛中の町並みが途切れ、区画が広がりはじめるあたりだ。紫竹はかつて都に野菜を供給した近郊の農村地帯にあたり、この住宅もまた、町家と農家のどちらとも言い切れない性格を帯びている。
その性格が最もはっきり出ているのが敷地の使い方である。建物は街路に直接接していない。道との間に前庭をとり、そこを隔てて南面して建つ。地価の高い中心部の町家であれば、建物は敷地境界いっぱいまで寄せられ、緑は奥の坪庭に押し込められる。ここにはその必要がなかった。庭は、訪れる者が最初に目にする位置に置かれている。
規模は間口5間半、奥行6間半。1間を約1.82メートルとすれば間口はおよそ10メートルになる。文化庁の登録データが記す建築面積は143平方メートルである。
登録の理由と、指定制度との違い
登録有形文化財の制度は、平成8年(1996年)の文化財保護法改正で導入された。国宝や重要文化財を選び出す従来の指定制度が、少数の傑出した建造物に対して許可制の強い規制と手厚い保護を及ぼすのに対し、登録制度は届出制と指導・助言を基本とする緩やかな保護にとどまる。かわりに対象は大幅に広い。近代化や生活様式の変化のなかで、評価される機会もないまま失われていく建造物を、幅広く後世に引き継ぐことが目的である。使いながら残す、という発想がここにはある。
荒木家住宅主屋の登録基準は、三つある基準のうちの第一、「国土の歴史的景観に寄与しているもの」にあたる。この基準の選択は的確といえる。個々の部材や意匠に日本建築史上の唯一性があるわけではない。周囲の宅地が次々と建て替わってきたなかで、この一軒が旧紫竹の町並みの構成要素としてなお読み取れる状態にあること、そこに価値が置かれている。
登録番号は26-0254、第55回登録。登録年月日は平成19年7月31日、官報告示は同年8月13日である。同じ日に、主屋背後の土蔵が26-0255として登録された。二棟は一体の屋敷構えとして評価されたことになる。
名称の「(旧林家住宅)」という括弧書きは、所有の変遷を示す。文化庁のデータベースは、以前の家名で知られてきた建物についてこの表記を用いる。
越屋根と通り土間が語る内部
外観でまず目を引くのは屋根である。切妻造、桟瓦葺。桟瓦は江戸中期に考案された断面S字形の瓦で、寺社や城郭に限られていた瓦葺を庶民の住宅にまで広げた技術である。そして主屋の屋根面には、より小ぶりな第二の屋根が突き出している。越屋根だ。
越屋根は装飾ではない。その真下には土間があり、そこに竈が据えられていた。煙は抜ける先を必要とし、光は入る口を必要とする。越屋根はその両方を担う。京都の住宅でこれを見かけたとき、かつてそこに火が焚かれていたと考えてよい。表側には瓦葺の庇が架かる。
平面は長手方向に二分される。東側は通り土間で、表の入口から建物の奥まで一直線に貫く。西側が床を張った居室部で、前庭に面して8畳の座敷を配す。
この座敷の位置は考えてみる価値がある。密集した町家では、表側は店舗に充てられるため、座敷は奥へ退いて坪庭に向く。ここでは座敷が南面の一等地を占めている。この家は、通りに向かって商いをしていなかった。
見学の可否と行き方
荒木家住宅は現に人が住む個人住宅である。一般公開はなく、拝観時間も拝観料も設定されていない。ここまで述べた内部の構成は、文化庁の登録データベースに記録された情報であって、訪問者が実見できるものではない。
できるのは、公道からの外観の観察である。前面の意匠、切妻の妻面、越屋根、そして前庭は、紫竹西南町の街路から確認できる。道路上からの撮影に制限はないが、住宅地であることは踏まえておきたい。
交通は地下鉄烏丸線北大路駅が最寄りで、そこから北へ徒歩20分から25分ほど。北大路通や大宮通を走る市バスを使えば距離は縮まる。南へ歩けば大徳寺の塔頭群があり、その北隣には今宮神社が鎮座する。北区のこのあたりを歩く行程に、無理なく組み込める位置にある。
Q&A
- 荒木家住宅(旧林家住宅)主屋は見学できますか。拝観時間や拝観料はありますか。
- 見学できません。現に居住されている個人住宅で、一般公開はなく、拝観時間・拝観料の設定もありません。紫竹西南町の公道から外観を眺めることのみ可能です。
- 荒木家住宅(旧林家住宅)主屋はいつ建てられ、いつ登録されましたか。
- 文化庁の国指定文化財等データベースは建築年代を文化4年(1807年)としています。登録有形文化財としての登録年月日は平成19年(2007年)7月31日、官報告示は同年8月13日、登録番号は26-0254です。
- 荒木家住宅(旧林家住宅)主屋への行き方を教えてください。
- 所在地は京都市北区紫竹西南町17-1です。地下鉄烏丸線北大路駅から北へ徒歩20分から25分ほど、北大路通・大宮通の市バス各系統を利用すればさらに近づけます。南側には大徳寺、その北隣に今宮神社があります。
- 荒木家住宅(旧林家住宅)主屋の屋根の上にある小さな屋根は何ですか。
- 越屋根です。土間の上に設けられ、竈の煙を抜き、採光を確保する役割を担いました。装飾ではなく機能のための構造で、その下に火が焚かれていたことを示します。
- 荒木家住宅(旧林家住宅)主屋は国宝や重要文化財ですか。
- いずれでもありません。平成8年(1996年)に導入された登録有形文化財(建造物)です。指定制度より緩やかな届出制の保護のもとで、使い続けながら残すことを想定した制度で、本件は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」として登録されました。
- 荒木家住宅(旧林家住宅)主屋の名称に「旧林家住宅」とあるのはなぜですか。
- 所有が林家から荒木家へ移った経緯を示す表記です。文化庁のデータベースでは、以前の家名で知られてきた建物についてこのように括弧書きを併記します。
基本情報
| 名称 | 荒木家住宅(旧林家住宅)主屋(あらきけじゅうたく(きゅうはやしけじゅうたく)しゅおく) |
|---|---|
| 所在地 | 京都府京都市北区紫竹西南町17-1 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 26-0254 |
| 指定年 | 平成19年(2007年)7月31日登録、同年8月13日告示(第55回登録) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、瓦葺、建築面積143平方メートル。間口5間半、奥行6間半 |
| 所有者 | 個人(文化庁データベースに所有者名の記載なし) |
| 公開状況 | 非公開。外観のみ公道から観察可能 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース 荒木家住宅(旧林家住宅)主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006546
- 文化遺産オンライン 荒木家住宅(旧林家住宅)主屋
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/197539
- 文化庁 国指定文化財等データベース 荒木家住宅(旧林家住宅)土蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006547
- 文化庁 登録有形文化財(建造物)
- https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/toroku_yukei.html
- 文化庁 登録有形文化財登録基準
- https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/toroku_yukei_kijun.html
最終更新日: 2026.08.06