1面の鏡 ― 1954年に国宝

線刻釈迦三尊等鏡像は、奈良県奈良市登大路町50にある平安時代の工芸品で、1953年(昭和28年)11月14日に重要文化財となり、1954年(昭和29年)3月20日に国宝に指定された。員数は1面、所有は公益財団法人泉屋博古館である。

径15.1センチメートル、縁厚1.2センチメートルの白銅製八稜鏡である。手のひらに載る大きさで、八角形の縁をもつ。

所在地の奈良市登大路町50は、奈良国立博物館の住所である。所有は京都の泉屋博古館で、所有と保管が分かれている。

重要文化財から国宝までわずか4か月

指定の間隔が際立って短い。

重要文化財が1953年11月14日、国宝が1954年3月20日である。あいだは4か月ほどしかない。

ここまで扱った物件では、木造五智如来坐像が109年で最長だった。武蔵埼玉稲荷山古墳出土品が2年、奈良県藤ノ木古墳出土品が16年である。4か月はこれらのどれよりも短い。

玳玻天目茶碗は22年、曜変天目茶碗は43年、当麻曼荼羅縁起は47年だった。年単位ですらない間隔は、これが初めてになる。

文化庁は理由を記していない。記録から分かるのは、二つの日付が4か月しか離れていないという事実だけである。

表と裏で、主題がまったく違う

この鏡は、面によって刻まれているものが違う。

鏡面には仏像が並ぶ。文化庁は、鏡面中央上部に釈迦像を表し、その左右に普賢、文珠を、さらに釈迦像の左右に菩薩を、下方にやや大きく左に不動と二童子を、右に毘沙門天を配する、と記す。

諸像は毛彫り、とある。毛彫りは細い線で彫る技法をいう。

鏡背は違う。鏡背は、圏線で内外に分け、内区は花文座鈕を中心に旋転する瑞花と鴛鴦を交互に配し、外区は胡蝶と小鳥を置き、その間を唐草文でつなぐ、とある。

表は仏の世界、裏は花と鳥である。玳玻天目茶碗では、内と外で文様の出し方が反対だった。本件は出し方ではなく、主題そのものが違う。

九体の像が一体ずつ記録されている

文化庁の記述は、像を一つずつ追う。

釈迦像は連弁、敷茄子、華盤、反花をそなえた台座の上に坐し、光背は二重円光に宝相華文を刻み火焔をつける、とある。

普賢像は合掌して白象の上の蓮華座に坐す。文珠像は獅子の上の蓮華座に坐し、右手に剣、左手に梵篋を安ずる蓮華を持つものと見られる、とされる。

不動明王は忿怒面で牙を出し、右手に剣、左手に羂索を握り、遍身火焔光を背にして岩座に立つ。毘沙門天は身に甲冑をまとい、左手に塔、右手に三叉戟を握り岩座に立つ、とある。

評価はこう結ばれる。大小九体の仏像を巧みに配し、精緻かつ流麗な線刻で表現している。鏡背の文様も鋳上がりよく、鏡像の中でも稀に見る優品である。

径15.1センチメートルの円のなかに、九体が収まっている。文珠像については「持つものと見られる」と推量で書かれており、細部の判読に限界があることも示されている。

鑑賞

所在は奈良県奈良市登大路町50、所有は公益財団法人泉屋博古館である。館が保管する鏡であり、常設で公開される性格のものではない。

関連作品には、線刻十二尊鏡像(瑞花双鳥八稜鏡)、線刻千手観音等鏡像といった名が並ぶ。同じ形式の鏡像が複数記録されている。

1面であるから、出陳されれば全体を見ることができる。ただし表と裏を同時に見ることはできない。

展示の予定は変わることがあるため、訪問前に確認したい。

Q&A

Q線刻釈迦三尊等鏡像はいつ指定されましたか。
A1953年(昭和28年)11月14日に重要文化財、1954年(昭和29年)3月20日に国宝へ指定されました。あいだは4か月ほどで、ここまで扱った物件のなかで最も短い間隔です。
Qどのくらいの大きさですか。
A径15.1センチメートル、縁厚1.2センチメートルの白銅製八稜鏡です。手のひらに載る大きさで、八角形の縁をもちます。
Q表と裏には何が刻まれていますか。
A鏡面には釈迦、普賢、文珠、菩薩、不動と二童子、毘沙門天など九体の仏像が毛彫りで表されます。鏡背は圏線で内外に分け、内区に瑞花と鴛鴦、外区に胡蝶と小鳥を配し唐草文でつなぎます。表は仏の世界、裏は花と鳥です。
Q何が評価されているのですか。
A文化庁は「大小九体の仏像を巧みに配し、精緻かつ流麗な線刻で表現している。鏡背の文様も鋳上がりよく、鏡像の中でも稀に見る優品である」と記します。
Q同じような鏡像は他にもありますか。
A関連作品に線刻十二尊鏡像(瑞花双鳥八稜鏡)、線刻千手観音等鏡像といった名が並び、同じ形式の鏡像が複数記録されています。

基本情報

名称線刻釈迦三尊等鏡像(せんこくしゃかさんぞんとうきょうぞう)
所在地奈良県奈良市登大路町50
指定区分国宝(工芸品)
指定年1953年(昭和28年)11月14日 重要文化財/1954年(昭和29年)3月20日 国宝
員数1面
寸法径15.1センチメートル、縁厚1.2センチメートル。白銅製の八稜鏡で、鏡面に9体の仏像を毛彫りし、鏡背には瑞花・鴛鴦・胡蝶・小鳥を唐草文でつなぐ。時代は平安
所有者公益財団法人泉屋博古館
公開状況館が保管する鏡で、常設の公開ではない。表と裏を同時に見ることはできない

参考文献

文化遺産オンライン 線刻釈迦三尊等鏡像
https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/148528
泉屋博古館
https://sen-oku.or.jp/kyoto/
文化庁 国指定文化財等データベース
https://kunishitei.bunka.go.jp/
文化庁 文化財の紹介 美術工芸品
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/bijutsu_kogei/

最終更新日: 2026.09.05