五重塔の傍らに立つ鎮守社、醍醐寺清滝宮本殿

下醍醐、五重塔の西にほど近く、檜皮葺の屋根を深く反らせた小ぶりの社殿が建つ。醍醐寺清滝宮本殿、寺全体の鎮守社の本殿である。上醍醐の名高い諸堂とは異なり、この社は登山を要さない。下醍醐伽藍の平地に据えられ、五重塔や金堂から歩いてすぐの場所にある。

社が祀るのは、醍醐寺の総鎮守・清瀧権現である。伝えによれば、この神は唐の都・長安の青龍寺から日本へもたらされ、密教を守護する善なる龍神に擬せられる。ここは、土地に宿る神という神道の観念と、寺という仏教の枠組みとが、ひとつの信仰対象のうちに重なる場である。神仏が近代に制度上分けられるまで、こうした習合は千年以上にわたって日本の宗教施設を形づくってきた。

下醍醐の鎮守社は永長二年(一〇九七)に創建された。上醍醐の本来の社から分身を移し祀ったことに始まる。この本殿の前では、古くから桜の春の法要、清瀧会が営まれてきた。

三間社流造にみる室町の社殿

清滝宮本殿は昭和二十九年(一九五四)に重要文化財へ指定された。下醍醐の社は、醍醐寺の多くを焼いた十五世紀後半の兵火に失われ、現在の社殿は永正十四年(一五一七)、室町後期に再建されたものである。指定には附として、内部の厨子二基と中門一棟が含まれる。

形式は三間社流造。前方の屋根が長く下方へ伸びて礼拝の空間を覆う流造は、その独特の非対称の輪郭を特徴とする。屋根は檜皮葺とする。流造は日本の神社建築のなかで最も広く用いられた形式であり、十六世紀初頭の三間社の遺構が、五重塔の傍らという当初の場に良好に保たれて立つことは、指定が守ろうとする対象そのものである。

ここで名称を整理しておきたい。醍醐寺には鎮守社の建物が二つあり、混同されやすいためである。この建物は下醍醐の本殿で、永正十四年(一五一七)の重要文化財である。一方、山上には別の建物、清瀧宮拝殿があり、こちらは永享六年(一四三四)再建の懸造で、国宝に指定されている。両者は祭神も名も共有するが、山内の異なる場所に建つ別の建物であり、指定の格も異なる。

近くて見過ごされやすい社

下醍醐の主要な建造物のただ中に建つため、清滝宮本殿は醍醐寺の指定建築のなかでも訪れやすく、同時に最も見過ごされやすい一棟でもある。多くの参拝者の目当ては、十世紀の国宝であり京都最古の建築でもある五重塔か、豊臣秀吉が慶長三年(一五九八)に名高い花見を催した春の桜である。鎮守社は、その傍らにひっそりと控えている。

足を止める価値はある。社前で営まれる春の法要は、いまも四月の初めの三週間、清瀧権現桜会として続けられ、この建物を醍醐寺が最も知られる季節へと結びつける。反った屋根の稜線は、桜を背にしてとりわけ映える。麓のこの地に立つと、寺のすべては聖宝が霊泉を見いだした山上に始まったこと、この下の社は、平地に広がる伽藍を守るために下ろされた分身であることが思い返される。

下醍醐は通常の拝観時間で、主要伽藍は一つの拝観料で巡れる。この建物を見るのに、別途の登山や入山料は要らない。

Q&A

Q国宝の清瀧宮と同じものですか。
Aいいえ。この建物は下醍醐の清滝宮本殿で、永正十四年(一五一七)再建の重要文化財です。国宝は山上の清瀧宮拝殿で、永享六年(一四三四)再建の別の建物です。祭神も名も同じですが、建物としては別物です。
Q祭神は何ですか。
A醍醐寺の総鎮守・清瀧権現です。唐の長安・青龍寺からもたらされたと伝わり、密教を守護する善なる龍神に擬せられます。この社は寺の中心的な鎮守社です。
Q見るのに登山は必要ですか。
A不要です。下醍醐の平地、五重塔の西に建ち、下醍醐伽藍の通常拝観で巡れます。登山が要るのは上醍醐の山上の堂だけです。
Q「三間社流造」とは何ですか。
A流造は日本で最も一般的な神社形式で、前方の屋根が礼拝空間の上へ長く伸びるのが特徴です。「三間社」は社殿正面の柱間の数を指します。屋根は檜皮葺です。
Q関わりのある祭礼はありますか。
A清瀧権現桜会があります。鎮守の法要として四月初めの三週間、社前で営まれ、この社を醍醐寺の桜の季節へと結びつけます。

基本情報

名称醍醐寺清滝宮本殿
所在地京都府京都市伏見区醍醐伽藍町(下醍醐)
指定区分重要文化財(建造物)。昭和二十九年(一九五四)指定。附として厨子二基・中門一棟
年代永正十四年(一五一七)再建、室町後期
構造・形式一棟。三間社流造、檜皮葺
祭神清瀧権現(醍醐寺の総鎮守)
所有者醍醐寺
拝観下醍醐の平地、五重塔の西。下醍醐伽藍の通常拝観で拝観可(登山不要)

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース — 醍醐寺清滝宮本殿
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/1904
総本山醍醐寺 文化財アーカイブス — 醍醐寺清滝宮本殿
https://www.daigoji.or.jp/archives/cultural_assets/NT013/NT013.html
日本交通公社 — 醍醐寺 観光資源台帳
https://tabi.jtb.or.jp/res/260024-
ウィキペディア — 醍醐寺
https://ja.wikipedia.org/wiki/醍醐寺

最終更新日: 2026.07.05