4巻の絵巻 ― 1952年に国宝
紙本墨画鳥獣人物戯画は、京都の高山寺が所有する絵巻で、1952年(昭和27年)3月29日に国宝に指定された。員数は4巻、分類は絵画、時代は平安から鎌倉である。
文化庁データベースの重要文化財指定年月日の欄は空欄で、重要文化財を経ずに国宝へ指定されている。これまで扱った中で9件目にあたる。
解説文は「平安/鎌倉時代の作品。」の一文のみである。時代が二つにまたがることは記されるが、寸法も内容も評価も書かれていない。一文だけの解説は、これで6件目となる。
断簡の記録に、本体の事情が書かれている
この作品については、別の物件の記録に重要な記述がある。
鳥獣人物戯画断簡(甲巻)という物件があり、平安時代後期の12世紀、紙本墨画、縦29.2センチメートル、横51.6センチメートルとされる。高山寺伝来、酒井抱一旧蔵と記される。
その解説に、次の一文がある。この甲巻は、もとは二巻であったが、伝来の過程で損傷を受け、現在の甲巻は、その残存部分を一巻にしたものと推定されている。
四巻のうちの甲巻が、もとは二巻だったという。現在の4巻という員数は、当初の姿ではないことになる。
本件の記録には、この事情が書かれていない。一文の解説には時代しか記されず、巻の来歴には触れない。東福寺の絹本著色無準師範像でも、木箱の話が片方の記録にしかなかった。同じことが起きている。
脱落と錯簡がある
断簡の記録は、さらに具体的である。
したがって、そこには脱落、錯簡があり、そのほか逸失した断簡が何点か知られている、とある。
脱落は欠けている部分、錯簡は順序が入れ替わっている部分をいう。加えて、切り離されて別に伝わった断簡が複数あるとされる。
本図は逸失断簡のうちの一点で、比較的最近知られるようになった、と続く。断簡そのものが、後になって見つかったものである。
国宝に指定された4巻は、欠けたところと順序の乱れを抱えたまま伝わっている。文化庁の本件の記録は、そのことに触れていない。
断簡の伝来は追跡できている
断簡の記録には、所蔵の経緯も記される。
付属する住吉広高の鑑定書に対応する住吉家鑑定控から、本図が江戸時代後期には喜谷喜六なる者が所蔵したことが知られ、そののち明治時代には収集家として著名な長井十足の手にあった、とある。
鑑定書とその控という文書から、所蔵者が二人まで特定されている。断簡一点について、これだけの記述がある。
一方、国宝である本件の記録には、所有者として高山寺の名が記されるのみである。所在地の欄も空欄である。
記録の詳しさは、指定の格に対応していない。断簡の記録が詳しいのは、それが新しく知られるようになったものだからと考えられる。
鑑賞
所有は宗教法人高山寺で、京都市右京区にある。寺が所蔵する絵巻であり、常設で公開される性格のものではない。
旧来の記述に「日本最古の漫画」とするものが見られるが、文化庁の記録にこの記載はない。他の作品との比較も、年代の比較もない。
絵巻は光に弱く、公開期間が限られるのが通例である。4巻すべてが同時に展示されるとは限らず、巻の一部のみが広げられることも考えられる。
博物館の特別展などで出陳されることがあるため、公開の告知を確かめて訪ねたい。拝観の条件は変わることがある。
Q&A
- 紙本墨画鳥獣人物戯画はいつ国宝に指定されましたか。
- 1952年(昭和27年)3月29日です。員数は4巻、分類は絵画、時代は平安から鎌倉、所有は宗教法人高山寺です。重要文化財指定年月日の欄は空欄で、重要文化財を経ずに国宝へ指定されています。
- 文化庁の解説には何が書かれていますか。
- 「平安/鎌倉時代の作品。」という一文だけです。時代が二つにまたがることは記されますが、寸法も内容も評価も書かれていません。
- 4巻は当初からの姿ですか。
- 別の物件である鳥獣人物戯画断簡(甲巻)の記録に「この甲巻は、もとは二巻であったが、伝来の過程で損傷を受け、現在の甲巻は、その残存部分を一巻にしたものと推定されている」とあります。当初の姿ではないことになります。
- 欠けている部分はありますか。
- 断簡の記録は「そこには脱落、錯簡があり、そのほか逸失した断簡が何点か知られている」と記します。欠けたところと順序の乱れを抱えたまま伝わっており、切り離されて別に伝わった断簡も複数あります。
- 日本最古の漫画ですか。
- 文化庁の記録にこの記載はありません。他の作品との比較も年代の比較もないため、本稿は記録に基づき、4巻の絵画であること、平安から鎌倉の作品であること、高山寺が所有することを記すにとどめています。
基本情報
| 名称 | 紙本墨画鳥獣人物戯画(しほんぼくがちょうじゅうじんぶつぎが) |
|---|---|
| 所在地 | 文化庁データベースの所在地の欄は空欄。所有者は京都の高山寺 |
| 指定区分 | 国宝(絵画)/重要文化財を経ずに国宝へ指定/逸失した断簡は別の物件として記録される |
| 指定年 | 1952年(昭和27年)3月29日 国宝 |
| 員数 | 4巻 |
| 寸法 | 文化庁の解説文は「平安/鎌倉時代の作品。」の一文のみで、寸法も内容も記されていない。別の物件である断簡の記録によれば、4巻のうち甲巻はもとは2巻であり、脱落と錯簡がある |
| 所有者 | 宗教法人高山寺 |
| 公開状況 | 寺が所蔵する絵巻で、常設の公開ではない。4巻すべてが同時に展示されるとは限らない |
参考文献
- 文化遺産オンライン 紙本墨画鳥獣人物戯画
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/203369
- 文化遺産オンライン 鳥獣人物戯画断簡(甲巻)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/177985
- 高山寺 鳥獣人物戯画
- https://kosanji.com/chojujinbutsugiga/
- 文化庁 国指定文化財等データベース
- https://kunishitei.bunka.go.jp/
最終更新日: 2026.09.05