樂家住宅 ― 樂焼の窯元が暮らし、いまも窯を焚く屋敷
樂家住宅は、京都府京都市上京区油小路通一条下るにある樂焼の窯元・樂家(樂吉左衞門家)の住まいと工房で、主屋・茶室麁閑亭・衣装蔵・本蔵・窯場・土小屋・表門・腰掛待合・供待の9棟が平成19年(2007年)5月15日に登録有形文化財(建造物)として登録された。
樂焼は桃山時代に初代長次郎が始めた焼物で、手捏ねで形づくる黒と赤の茶碗で知られる。樂家はその技と家名を親から子へ一子相伝で受け継ぎ、令和元年(2019年)には16代目が吉左衞門の名を襲った。
この屋敷は、保存のために残された旧宅ではない。当主の一家が暮らし、敷地の奥の窯場でいまも茶碗が焼かれている。樂美術館は、その制作と焼成の方法が樂焼の始まりのころから変わっていないと説明している。
9棟の年代については資料によって見方が分かれる。文化庁の登録はいずれも明治前期の建築とする一方、樂美術館は現在の樂家の建物を安政2年(1855年)の再建と紹介している。どちらかに決める材料は公開資料からは得られないため、ここでは両方を併記しておく。
樂焼と樂家の歩み
樂美術館の解説によれば、樂焼の技術の源流は中国・明代の三彩陶にある。長次郎の父とされる阿米也は中国から渡ってきた陶工と考えられており、長次郎の作として最も古い二彩獅子像は天正2年(1574年)の春に作られた。樂茶碗が生まれたのはその数年後、天正7年(1579年)頃とみられている。
長次郎の茶碗には千利休の侘茶の考えが色濃く表れているとされる。当初は「今焼茶碗」と呼ばれ、豊臣秀吉の築いた聚楽第にちなんで「聚樂焼」、やがて「樂焼」の名で呼ばれるようになった。焼物の呼び名がそのまま一家の姓になった例は当時ほかにないと、同館は述べている。
長次郎の没後に工房を率いたのは2代常慶で、以後の当主は代々「吉左衞門」を名乗る。3代道入は本阿弥光悦と親しく、光悦の黒樂茶碗のほとんどは常慶・道入の親子が樂家の窯で焼いたと考えられている。京都市は樂家を、千家十職の茶碗師として紹介している。
樂家住宅がこの地にある理由
樂家がこの界隈に住んだ跡は桃山時代までたどれる。天正4年(1576年)の法華寺再建の勧進帳(頂妙寺文書)には、長次郎とともに工房を営んだ田中宗慶、のちの2代常慶、宗味の名が見え、宗慶は南猪熊町に住んでいた。
樂美術館は、南猪熊町をのちに聚楽第の利休屋敷が置かれた辺りとみたうえで、樂家が現在の油小路通一条下るへ移ったのは聚楽第が造営された頃ではないかと推測している。移転の年を記した記録が示されているわけではなく、あくまで推定である。
現在の建物のうち主屋については、平成18年(2006年)に増改築を受けたことが文化庁のデータベースに記されている。住み続けながら手を入れてきた家であることが、この記録からも分かる。
樂家住宅の配置 ― 通りの表門から奥の窯場まで
樂家住宅の敷地は東側で油小路通に面する。通りに開く表門を真ん中に、北側に腰掛待合、南側の角に供待が建ち、どちらも通りに向けて出格子の窓を付けている。表門の内側からは中門と塀が主屋まで延びる。
主屋は敷地のほぼ中央、やや通り寄りに建つ。外観は町家風だが内部は数寄屋普請で、北側には茶室麁閑亭が接し、茶室と並ぶ仏間が主屋の廊下につながる。主屋の北西には本蔵が敷地境に寄せて建ち、主屋と本蔵のあいだに衣装蔵が挟まる。衣装蔵は南側の蔵前の間で主屋と連絡している。
敷地の奥、北西寄りには作陶の建物がまとまる。本蔵の南西に接して窯場があり、中に赤樂窯と黒樂窯を据える。北西の隅には茶碗の土をしまい、突いて整える土小屋が建つ。
通りに近い側に客を迎える門と待合、中ほどに住まいと茶の空間、奥に土と火の仕事場。9棟の並びをたどると、樂家住宅が茶の湯の職家の住まいと工房を一つの敷地に収めていることが見えてくる。
登録の基準は2つに分かれる。主屋・茶室麁閑亭・窯場の3棟は「再現することが容易でないもの」、衣装蔵・本蔵・土小屋・表門・腰掛待合・供待の6棟は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」として登録された。各棟の構造と見どころは、それぞれのページで扱っている。
京都市による樂家住宅の保全
樂家住宅は国の登録に加えて、京都市の制度でも保全の対象になっている。平成22年(2010年)には、景観法に基づく景観重要建造物と、歴史まちづくり法に基づく歴史的風致形成建造物に指定された。
京都市は指定の理由として、町家の構えを基本にしながら意匠・材料・技術に優れた数寄屋普請を多く取り入れていることと、通りに表門と高塀が並び、その奥の庭から緑がのぞく通りの眺めを挙げている。樂美術館によれば、京都市の歴史的意匠建造物にも指定されている。
樂家住宅の見学案内 ― 樂美術館と交通
樂家住宅は樂家が暮らす個人の住宅で、敷地と建物の内部は公開されていない。見学できるのは、油小路通から見える表門・腰掛待合・供待と塀の外観に限られる。屋敷は大通りから一筋入った静かな住宅地にあり、京都市は指定建造物を道路から眺める際に交通の妨げや近所の迷惑にならないよう求めている。
樂焼の作品に触れられるのは、樂家に隣接して建つ樂美術館である。1978年に14代覚入が開き、樂家に伝わった歴代の作品や茶道具、古文書を収める。開館時間は午前10時から午後4時30分までで、入館は午後4時まで。休館日は月曜日(祝日の場合は開館)、展示替えの期間、年末年始。入館料は展覧会ごとに異なり、予約はいらない。展覧会は年3回開かれる。
同館では、収蔵品の茶碗で実際に茶を飲む「水月雪花之茶会」を春夏秋冬の年4回開いている。予約制で、会場は美術館の茶室である。樂家住宅の茶室で開かれる催しではない点に気をつけたい。
交通は京都市バスが便利で、「堀川中立売・一条戻橋」で降りて歩いて約3分、「堀川今出川」からは約8分かかる。京都駅からは市バス9系統か50系統で堀川中立売へ向かう。地下鉄烏丸線の今出川駅からは、6番出口を出て歩いて約13分。
撮影について樂家と樂美術館の公式な案内は見当たらない。館内では係員に確かめ、通りから外観を撮る場合も人の住む家であることに配慮してほしい。
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)樂家住宅主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006163
- 国指定文化財等データベース(文化庁)樂家住宅茶室麁閑亭
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006164
- 国指定文化財等データベース(文化庁)樂家住宅衣装蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006203
- 国指定文化財等データベース(文化庁)樂家住宅本蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006202
- 国指定文化財等データベース(文化庁)樂家住宅窯場
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006204
- 国指定文化財等データベース(文化庁)樂家住宅土小屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006205
- 国指定文化財等データベース(文化庁)樂家住宅表門
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006208
- 国指定文化財等データベース(文化庁)樂家住宅腰掛待合
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006207
- 国指定文化財等データベース(文化庁)樂家住宅供待
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006206
- 樂美術館 樂家
- https://raku-yaki.or.jp/raku_family/index.html
- 樂美術館 樂焼の発祥
- https://raku-yaki.or.jp/history/index.html
- 樂美術館 樂焼の名称
- https://raku-yaki.or.jp/history/essense.html
- 樂美術館 樂歴代紹介
- https://raku-yaki.or.jp/history/successive.html
- 樂美術館 ご利用案内
- https://raku-yaki.or.jp/museum/index.html
- 樂美術館 アクセス
- https://raku-yaki.or.jp/museum/access.html
- 樂美術館 水月雪花之茶会
- https://raku-yaki.or.jp/museum/tea_ceremony.html
- 京都市 京都市の歴史的建造物(景観重要建造物・歴史的風致形成建造物)
- https://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/cmsfiles/contents/0000300/300670/WEB_Pamphlet01.1_195.pdf
最終更新日: 2026.09.26
基本情報
| 名称 | 樂家住宅 |
|---|---|
| 所在地 | 京都府京都市上京区油小路通一条下る油橋詰町84 |
| 所有者 | 個人 |
| 指定 | 登録有形文化財 9件 |
| 座標 | 35.02581, 135.75329 |