梵鐘(平等院)とは

高さ199.1センチ、口径123.6センチ。銅鋳造で重量はおよそ2トン。宇治の平等院に伝わるこの梵鐘は、表面のほぼ全域を飛天、鳳凰、獅子、唐草が埋め尽くすという、和鐘としては他に例のない姿をしている。簡素な造形を旨とする日本の梵鐘の歴史の中で、これほど装飾に徹した鐘は前にも後にもない。

銘文を持たないため鋳造年は確定していない。文化庁の解説は「平等院草創頃の作とみられる」とし、永承7年(1052年)の開創、翌天喜元年(1053年)の鳳凰堂落慶と同時期、すなわち11世紀半ばの作とする見方が有力である。一方、平等院の収蔵品解説では「平安時代・12世紀」と記されており、年代観には幅がある。いずれにせよ藤原摂関期の浄土信仰が頂点を迎えた時代の所産であることに変わりはない。

鐘は長く鳳凰堂南側の小高い場所に建つ鐘楼に懸けられてきた。現在、鐘楼に懸かるのは精巧に作られた2代目で、原鐘は境内の平等院ミュージアム鳳翔館に収蔵展示されている。なお国指定文化財等データベースでは保管施設を京都国立博物館(京都市東山区茶屋町527)と記載しているが、これは鳳翔館開館(2001年)以前の寄託時代を反映したものとみられ、平等院の公式情報では鳳翔館での展示が明記されている。

指定の理由と価値

大正3年(1914年)4月17日に重要文化財(当時の旧国宝)に指定され、昭和27年(1952年)3月29日、文化財保護法下の国宝に指定された。工芸品の指定番号は00051。指定理由として文化庁は、和鐘中に類を見ない華麗な装飾文を持つこと、そして遺品の少ない平安時代中期の梵鐘の一例として貴重であることを挙げる。

古来「天下の三名鐘」の一つに数えられてきた。音色の美しさで知られる園城寺(三井寺)の鐘、弘法大師ゆかりの名筆の銘文を持つ神護寺の鐘に対し、平等院の鐘は姿、すなわち造形の美をもって名鐘とされる。「声の三井寺、銘の神護寺、姿の平等院」という言い回しが広く知られるが、三井寺や神護寺の代わりに東大寺の鐘を「勢の東大寺」として加える伝えもあり、組み合わせには諸説がある。どの説でも平等院鐘が外れることはない。

注目すべきは意匠の系譜である。鐘全体を飾る飛天や獅子の文様は、新羅・高麗の朝鮮鐘に学び、それを醇化したものとみられている。飛天を鐘身に大きく配する発想は朝鮮鐘に特有のもので、日本の鋳物師がこれを消化し、独自の構成にまとめ上げた点にこの鐘の美術史上の意義がある。

見どころ:鐘面を読み解く

鳳翔館では至近距離から鐘を一周して観察できる。各部の名称を手がかりに見ていきたい。

まず頂部の竜頭。鐘を吊るための竜形の鈕で、鬣を高くそびえ立たせ、写実味に富む雄偉な相貌を見せる。平等院の解説によれば、竜頭の首を撞座の方向に向ける形式はこの鐘に始まると伝えられる。鐘の前に立ったら、竜の顔の向きと撞座の位置を見比べてみたい。

笠形はやや高めに造られ、圏條で内外二区に分けられる。鐘身は上帯・中帯・下帯の横帯と縦帯によって区画され、乳の間を除くすべての区画に文様が鋳出されている。上帯には竜と鳳凰を交互に配した唐草文、下帯にはそれとは趣を変えた宝相華唐草、中帯は太紐の上下に細めの唐草を廻らす。同じ唐草でも帯ごとに描き分ける周到さが、この鐘の装飾の密度を支えている。

池の間には四区に各一体ずつ、計四体の飛天が薄肉彫りで鋳出される。二体は一茎の蓮華を、二体は華盤を捧げ持ち、いずれも向かって右へ進む姿で交互に配されるため、鐘を回り込むと飛天の行列が天空を巡っているように見える。縦帯は各区を二行に分かち、上下の鳳凰の間に奏楽歌舞の天人を置き、唐草で巧みに連続させている。

乳の間には、上部半球形・下部喇叭形という独特の形の大ぶりな乳が各区四段七列に据えられる。撞座は八葉複弁の蓮華文で、比較的高い位置にあるのが特徴である。なお、この鐘の意匠は1980年(昭和55年)発行の60円普通切手の図案にも採用された。

周辺情報

鳳翔館の観覧は平等院の通常拝観料(大人700円、中高生400円、小学生300円)に含まれる。庭園は8時45分から17時30分(受付終了17時15分)、鳳翔館は9時から17時(受付終了16時45分)。鳳凰堂内部拝観は別途志納金300円で、定員制の時間入替となる。鳳翔館は建築家・栗生明の設計で、鳳凰堂を中心とする史跡名勝庭園の景観を損なわぬよう大半を地下に収めた構造になっており、梵鐘のほか初代の鳳凰一対、雲中供養菩薩像の一部などを展示する。

原鐘を観たあとは、鳳凰堂南側の鐘楼へ。懸かっているのは複製だが、大気汚染による錆害から原鐘を守るための措置であり、大晦日の除夜の鐘では一般参拝者も撞くことができる。

平等院へはJR奈良線宇治駅または京阪宇治線宇治駅から徒歩約10分。表参道には宇治茶の老舗が軒を連ね、安政元年(1854年)創業の中村藤吉本店をはじめとする茶商で一服できる。宇治川対岸には、現存最古の神社建築を伝える世界遺産・宇治上神社があり、近くの宇治市源氏物語ミュージアムでは『源氏物語』宇治十帖の世界に触れられる。物語が書かれたのは、この鐘が鋳られたとされるのと同じ時代である。

Q&A

Q国宝の梵鐘はどこで見られますか。
A平等院境内の平等院ミュージアム鳳翔館で収蔵展示されており、開館時間内であれば拝観できます。文化庁のデータベース上では保管施設が京都国立博物館と記録されていますが、現在の展示場所は鳳翔館です。
Q鐘の音を聞くことはできますか。
A原鐘は保存のため撞かれていません。鐘楼の複製鐘は大晦日の除夜の鐘の際に撞かれ、一般参拝者も参加できます。
Qなぜ鐘楼から外されたのですか。
A大気汚染による錆害など保存上の理由からです。原鐘は屋内の鳳翔館に移され、鐘楼には新たに製作された複製が懸けられました。
Qいつ頃作られた鐘ですか。
A無銘のため確定していません。文化庁の解説は平等院草創期(11世紀半ば)頃の作とみる一方、平等院の収蔵品解説には12世紀との記載もあります。平安時代の作であることは諸資料で一致しています。
Q天下の三名鐘とは何ですか。
A日本の梵鐘のうち特に優れた三口を指す呼称で、「声の三井寺(園城寺)、銘の神護寺、姿の平等院」とするのが代表的です。東大寺の鐘を加える伝えなど組み合わせには諸説ありますが、平等院鐘は造形の美しさからどの説にも含まれます。

基本情報

名称梵鐘(ぼんしょう)
指定区分国宝(工芸品) 昭和27年(1952年)3月29日指定/大正3年(1914年)4月17日重要文化財指定 指定番号00051
員数1口
時代平安時代(無銘。平等院草創期=11世紀半ば頃の作とみられるが、12世紀とする資料もある)
寸法・重量高さ199.1cm、口径123.6cm(文化庁データベース) 重量約2トン
所有者平等院(京都府宇治市宇治蓮華116)
展示場所平等院ミュージアム鳳翔館(文化庁データベース上の保管施設は京都国立博物館 京都市東山区茶屋町527)
拝観時間庭園 8:45~17:30(受付終了17:15)/鳳翔館 9:00~17:00(受付終了16:45)
拝観料大人700円、中高生400円、小学生300円(庭園+鳳翔館)。鳳凰堂内部拝観は別途300円
アクセスJR奈良線「宇治」駅・京阪宇治線「宇治」駅から徒歩約10分

参考文献

国指定文化財等データベース「梵鐘」(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/338
平等院公式サイト「彫刻・工芸」
https://www.byodoin.or.jp/learn/sculpture/
平等院ミュージアム鳳翔館(平等院公式サイト)
https://www.byodoin.or.jp/museum/
nippon.com「世界遺産・京都『平等院』:地上に極楽を再現した『鳳凰堂』」
https://www.nippon.com/ja/guide-to-japan/gu900261/
WANDER 国宝「梵鐘[平等院/京都]」
https://wanderkokuho.com/201-00338/

最終更新日: 2026.06.11