大聖寺南面築地|京都最高位の尼門跡寺院を守る江戸後期の土塀
京都市上京区、烏丸通沿いに静かに佇む大聖寺南面築地は、国の登録有形文化財に登録された江戸後期の土塀です。瓦葺の屋根を冠したこの築地塀は、単なる境界の塀ではありません。その内側には、日本で最も格式の高い尼門跡寺院として知られる大聖寺の境内が広がっています。足利義満が築いた「花の御所」の跡地に立ち、24人もの内親王が歴代住持を務めたこの寺院の南面を画す築地塀は、六百年以上にわたる皇室と武家の歴史を今に伝える貴重な文化遺産です。
大聖寺の歴史
大聖寺は、南北朝時代の永徳2年(1382年)に創建されました。開山は無相定円禅尼(俗名:日野宣子)です。宣子は後光厳天皇の典侍であり、室町幕府第三代将軍・足利義満の正室である日野業子の叔母にあたる人物でした。貞治7年(1368年)に光厳法皇の法事で天龍寺を訪れた際、春屋妙葩のもとで出家しました。義満は宣子のために、自らの邸宅「花の御所」内に岡松殿を設けました。永徳2年に宣子が57歳で逝去すると、その遺言により岡松殿は寺院に改められ、宣子の法名「大聖寺殿無相定円禅定尼」から「大聖寺」と号し、山号の「岳松山」は岡松殿に由来しています。
その後、応仁の乱(1467-1477年)をはじめとする戦乱により何度も移転を余儀なくされましたが、元禄10年(1697年)に創建の地にほど近い現在地に再興されました。正親町天皇の皇女が入寺した際には天皇から尼寺第一位の綸旨を賜り、「御寺御所(おてらごしょ)」と称される尼門跡寺院の最高位に位置づけられました。以来、歴代24人の内親王が住持を務め、皇室との深い結びつきを今日まで保ち続けています。
南面築地とは
「築地(ついじ)」とは、土を突き固めて築いた塀のことで、上部に瓦を載せた伝統的な日本の塀の形式です。古くから寺院・神社・貴族の邸宅などの周囲に用いられてきました。大聖寺の南面築地は、境内の南側を画する土塀で、瓦葺の屋根を持つ格式ある造りとなっています。
築造年代は江戸後期と推定されており、宮御殿や表門と同時期の建造と考えられています。この時期は後水尾天皇の皇女が相次いで住持を務め、天皇自身もしばしば大聖寺を訪れて俳諧や和漢連句を楽しんだと伝えられる、寺院にとって文化的に最も充実した時代にあたります。南面築地は、尼門跡寺院の最高位にふさわしい品格と格式を備えながらも、過度な装飾を排した端正な佇まいを見せています。
文化財としての価値
平成23年(2011年)1月26日、大聖寺南面築地は他の8棟の建造物とともに国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。同時に登録されたのは、本堂・玄関・宮御殿(書院)・茶室「残月亭」・渡り廊下・表門・高塀・東面築地です。これらの建造物群は、近世から近代にかけての尼門跡寺院の伽藍構成を今に伝える貴重な建築群として高く評価されています。
南面築地は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という登録基準を満たすものとして登録されました。都市化の進展とともに京都の伝統的な土塀が次第に失われつつある中、大聖寺南面築地は御所周辺の歴史的な街並みを構成する重要な要素として、その保存が図られています。
見どころ
大聖寺は通常非公開の寺院ですが、南面築地は烏丸通沿いから常時その姿を鑑賞することができます。長い歳月を経て風合いを増した土壁の温かみのある色合いと、上部に整然と並ぶ暗色の本瓦が、京都らしい落ち着いた美しさを醸し出しています。塀越しに見える老松や伽藍の屋根は、塀の内側に広がる静謐な世界を想像させてくれます。
烏丸通を挟んで向かい側には、同志社大学今出川キャンパスの明治期赤レンガ建築群が並んでおり、江戸後期の土塀と明治の洋風建築という異なる時代の建造物が向かい合う独特の景観を楽しむことができます。
不定期に開催される特別公開の機会には、境内に入って京都市指定名勝の枯山水庭園、望月玉川筆の「秋草に鹿図」や「波に鶴図」の襖絵、歴代門跡ゆかりの御所人形など、皇室との深い縁を物語る数々の寺宝を拝観することができます。近年では2013年と2020年の「京の冬の旅」、2025年秋の京都非公開文化財特別公開で公開されています。
周辺情報
大聖寺は京都有数の歴史地区に位置しています。南東方向にはすぐに京都御苑が広がり、広大な緑地の中を散策しながら、京都御所の壮大な建築を無料で見学することができます。北東方向には大聖寺が歴史的に属していた相国寺があり、境内の承天閣美術館では優れた禅宗美術のコレクションを鑑賞できます。
同志社大学今出川キャンパスには、重要文化財に指定された明治期の煉瓦造りの洋風建築群が点在しており、建築散策にも最適です。西へ数ブロック進むと蹴鞠の神様として知られる白峯神宮があり、南方向の京都御所沿いには梨木神社が紅葉の名所として親しまれています。
Q&A
- 大聖寺の境内は見学できますか?
- 大聖寺は通常非公開の寺院です。ただし、京都古文化保存協会主催の「京都非公開文化財特別公開」や「京の冬の旅」などの企画で不定期に公開されることがあります。南面築地は烏丸通から常時ご覧いただけます。
- 最寄り駅はどこですか?
- 京都市営地下鉄烏丸線「今出川駅」が最寄りです。駅から北へ徒歩約1〜2分で到着します。市バス「烏丸今出川」バス停からも徒歩約5分です。
- 築地塀(ついじべい)とはどのような建造物ですか?
- 築地塀は、土を突き固めて積み上げ、上部に瓦の屋根を載せた日本の伝統的な塀の形式です。寺院・神社・貴族の邸宅などに古くから用いられてきました。都市化が進む中で現存する築地塀は貴重になっており、その保存が文化財保護の観点から重要視されています。
- 写真撮影はできますか?
- 特別公開時の境内内部での撮影は原則禁止されています。ただし、烏丸通など公道からの南面築地や表門の外観撮影はいつでも自由に行えます。
- 周辺で一緒に見学できるおすすめの文化財はありますか?
- 大聖寺周辺には見どころが豊富です。京都御所(無料公開)、相国寺と承天閣美術館、同志社大学の重要文化財建築群(彰栄館・礼拝堂など)などを組み合わせた散策がおすすめです。
基本情報
| 名称 | 大聖寺南面築地(だいしょうじなんめんついじ) |
|---|---|
| 文化財区分 | 国登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 平成23年(2011年)1月26日 |
| 時代 | 江戸後期 |
| 構造及び形式 | 土塀、瓦葺 |
| 所有者 | 宗教法人大聖寺 |
| 寺院名 | 岳松山大聖寺(がくしょうざんだいしょうじ) 通称:御寺御所 |
| 宗派 | 臨済宗系単立 |
| 創建 | 永徳2年(1382年) |
| 所在地 | 京都府京都市上京区烏丸通上立売下る御所八幡町109-1 |
| アクセス | 京都市営地下鉄烏丸線「今出川駅」より北へ徒歩約1〜2分 |
| 拝観 | 通常非公開(不定期に特別公開あり)。南面築地の外観は常時見学可能。 |
参考文献
- 大聖寺 (京都市) - Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E8%81%96%E5%AF%BA_(%E4%BA%AC%E9%83%BD%E5%B8%82)
- 大聖寺 – 京都登文会
- https://www.kyoto-tobunkai.org/catalogue/63.html
- 大聖寺宮御殿 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/210126
- 京都市上京区役所:上京区の史蹟百選/大聖寺
- https://www.city.kyoto.lg.jp/kamigyo/page/0000012472.html
- 大聖寺(御寺御所) | 観光情報 | 京都に乾杯
- https://www.kyotonikanpai.com/spot/01_03_kyoto_gosho/daishoji.php
- 大聖寺庭園 ― 国登録有形文化財…京都市上京区の庭園。 | 庭園情報メディア【おにわさん】
- https://oniwa.garden/daishoji-temple-kyoto-%E5%A4%A7%E8%81%96%E5%AF%BA/
最終更新日: 2026.03.24