伯爵家の京都別邸として建った山荘

吉田山荘(旧東伏見家住宅)は、京都市左京区吉田下大路町にある昭和7年(1932年)建築の旧東伏見伯爵家の別邸で、本館・表門・旧門番所・旧車庫・北蔵・南蔵の6棟が平成24年(2012年)8月13日に国の登録有形文化財に登録された。建物は現在、株式会社吉田山荘が営む料理旅館として使われている。

敷地は吉田山の南麓にある。吉田山は東山三十六峰に数えられる標高の低い丘で、西の裾には京都大学の構内が広がる。山荘はその反対の東側、浄土寺・真如町へ下る斜面の途中に位置し、敷地の東辺が細い生活道路に面している。

施主は東伏見邦英伯爵である。吉田山荘は邦英を「昭和天皇の義理の弟君」と紹介しており、香淳皇后の弟にあたる。KBS京都の番組によれば、この邸は京都大学に学び、のちに同大学で教えた邦英伯爵が、通学・通勤のために構えた住まいであった。吉田山をはさんで、大学の構内と背中合わせに建つ立地である。

戦後、邸は外観を大きく変えないまま料理旅館に転じた。本館は客室と宴席に、自動車を納めていた旧車庫はカフェ「真古館(しんこかん)」に、それぞれ用途を変えている。登録された6棟は、いずれも住まいとして建てられた昭和初期の姿を外観にとどめている。

名称の表記について

文化庁の登録名は「吉田山荘(旧東伏見家住宅)」で、読みは「よしださんそう(きゅうひがしふしみけじゅうたく)」である。吉田山荘自身や京都市観光協会の案内は「東伏見宮家の別邸」と紹介しており、「宮」の有無で表記が分かれる。施主が宮家の皇族ではなく伯爵の身分であったことが、登録名の「東伏見家」に反映しているとみられる。どちらの呼び方も同じ建物群を指す。

「吉田山荘」は屋号であり、英語では Yoshida Sanso と表記される。山荘は山の別荘を意味する語で、宿の英語版サイトも Yoshida Sanso の綴りを用いている。

6棟の登録とその分かれ方

6棟の登録番号は26-0397から26-0402まで連続し、同じ第73回の登録で一度に登録された。文化庁のデータベースは本館の年代を昭和7年とし、表門・旧門番所・旧車庫・北蔵・南蔵を昭和7年頃としている。敷地全体がほぼ同時に整えられたことになる。

登録基準は2つに分かれる。本館だけが「造形の規範となっているもの」に当たり、残る5棟は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」として登録された。本館は和室を主体にステンドグラスや洋風のベランダを加えた近代和風邸宅として評価され、ほかの5棟は本館を囲む屋敷構えの一部として価値を認められている。

5棟の顔ぶれを並べると、この邸が必要としたものが見えてくる。唐破風を持つ格式の高い表門、門の脇で出入りを見張る門番所、土蔵造の蔵が2棟、そして洋風の車庫である。和風の本館と門と蔵に、腰折屋根とドーマー窓を持つ洋風の車庫が1棟だけ加わる構成は、自家用車を持つ昭和初期の伯爵家の暮らしぶりをうかがわせる。

登録日については資料によって表記が異なる。吉田山荘の公式サイトは平成24年4月20日を登録の日として紹介しているが、文化庁のデータベースが記す登録年月日と登録告示年月日はいずれも平成24年8月13日である。本サイトは文化庁のデータベースに従っている。

敷地の配置

吉田山荘の入口は敷地の東辺、南寄りにある。道路に面して表門が開き、そのすぐ南に旧門番所が石積の基壇に載って建つ。道路から見えるのはこの2棟で、門番所の格子窓が道の側を向いている。

表門をくぐると、正面に本館の玄関が東を向いて構える。本館は中廊下の南側に居室を並べる平面で、客室はすべて南の庭園に面している。庭には春の桜、初夏のさつきとつつじが植えられ、吉田山荘によれば、夏の五山送り火で知られる大文字山をこの庭から間近に望める。

本館の西側、敷地の北西部には北蔵と南蔵が南北に並ぶ。2棟は廊下で本館の西面につながり、屋敷の奥向きを受け持っていた。敷地の北東部に立つのが旧車庫で、西側の妻面から車を出し入れしていた。和風の建物に囲まれた中で、この1棟だけが洋風の外観を見せている。

見学とアクセス

吉田山荘は営業中の料理旅館であり、観光施設として一般公開はされていない。敷地に入るのは、宿泊、昼・夜の会席料理、またはカフェ真古館の利用が前提となる。いずれも予約制で、問い合わせ先は075-771-6125である。庭園では演奏会や茶会が開かれることもある。

予約なしで見られるのは、東側の道路から望む表門と旧門番所の外観に限られる。道路は住宅地の中の細い道なので、立ち止まって眺めるときは通行の妨げにならないよう気をつけたい。敷地内での撮影については公開された決まりが見当たらないため、利用の際に宿へ確かめるのが確実である。

京都市観光協会の案内によると、公共交通では京都市バス5系統または7系統で「銀閣寺道」停留所へ向かい、そこから徒歩約10分。京阪電車の出町柳駅からはタクシーで約10分である。吉田山荘には来訪者用の駐車場がなく、車の場合は近くのコインパーキングを使うよう案内されている。吉田山荘の案内が挙げるのは、東隣の真如堂周辺の駐車場である。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) 吉田山荘(旧東伏見家住宅)本館
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009324
国指定文化財等データベース(文化庁) 吉田山荘(旧東伏見家住宅)表門
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009325
国指定文化財等データベース(文化庁) 吉田山荘(旧東伏見家住宅)旧門番所
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009326
国指定文化財等データベース(文化庁) 吉田山荘(旧東伏見家住宅)旧車庫
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009327
国指定文化財等データベース(文化庁) 吉田山荘(旧東伏見家住宅)北蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009328
国指定文化財等データベース(文化庁) 吉田山荘(旧東伏見家住宅)南蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009329
文化遺産オンライン 吉田山荘(旧東伏見家住宅)本館
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/206207
文化遺産オンライン 吉田山荘(旧東伏見家住宅)表門
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/228898
文化遺産オンライン 吉田山荘(旧東伏見家住宅)旧門番所
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/284129
文化遺産オンライン 吉田山荘(旧東伏見家住宅)旧車庫
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/277860
文化遺産オンライン 吉田山荘(旧東伏見家住宅)北蔵
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/230401
文化遺産オンライン 吉田山荘(旧東伏見家住宅)南蔵
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/258442
吉田山荘 公式サイト 歴史
https://yoshidasanso.com/stay/history/
吉田山荘 公式サイト
https://yoshidasanso.com/
京都観光Navi(京都市観光協会) 吉田山荘
https://ja.kyoto.travel/tourism/single01.php?category_id=4&tourism_id=2945
KBS京都 KYOTOの休日 #08 吉田山荘
https://www.kbs-kyoto.co.jp/tv/kyoto_holidays/entry/008.htm
吉田山荘 公式サイト カフェ真古館
https://yoshidasanso.com/dining/cafe/

最終更新日: 2026.09.24

基本情報

名称吉田山荘(旧東伏見家住宅)
所在地京都府京都市左京区吉田下大路町59-1他
所有者株式会社吉田山荘
指定登録有形文化財 6件
座標35.02279, 135.78669