旧喜多藤とは

旧喜多藤(きゅうきたと)は、三重県名張市本町にあった料亭旅館の建物群で、大正12年(1923年)から昭和11年(1936年)にかけて建てられた7件が、令和3年(2021年)10月14日に登録有形文化財となった。表門を初瀬街道の本町通りに開き、敷地の奥は名張川に臨んでいる。

屋号の「喜多藤」は「きたと」と読む。文化庁のデータベースも7件すべてのふりがなを「きゅうきたと」としており、「きたふじ」ではない。

中日新聞が令和2年(2020年)11月に報じたところでは、旧喜多藤は初代名張市長の北田藤太郎(1906年から1985年)の一族が営んだ店で、廃業から40年近くを経たいまも一族が建物と庭の手入れを続けている。初瀬街道が通る名張の中心部で、川沿いの眺めを売りにした料亭旅館の建物が、門から茶室までまとまって残った例である。

7件の登録

旧喜多藤の7件は、令和3年(2021年)10月14日の第98回登録でそろって登録有形文化財となった。登録番号は24-290から24-296までの連番で、登録基準はいずれも「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。文化庁のデータベースが示す建築年と規模は次のとおり。

  • 別館:大正12年(1923年)、木造2階建、建築面積209平方メートル
  • 便所棟:大正12年(1923年)、木造平屋建、建築面積39平方メートル
  • 表門:大正12年(1923年)、木造、間口2.6メートル、左右に袖塀
  • 艶秀亭:昭和7年(1932年)、木造平屋建、建築面積103平方メートル
  • 大広間棟:昭和11年(1936年)、木造2階建、建築面積164平方メートル
  • 翠明荘:昭和11年(1936年)、木造平屋建、建築面積59平方メートル
  • 皐月寮:昭和11年(1936年)、木造平屋建、建築面積12平方メートル

名張市の指定文化財一覧は旧喜多藤の7件の時代を「大正・明治時代」と記すが、文化庁のデータベースでは大正12年と昭和7年・昭和11年の建築であり、ここでは文化庁の記載に従った。

3期に分かれる建築と敷地の配置

旧喜多藤の建物は、3つの時期に分けて建てられている。大正12年(1923年)に表門・別館・便所棟がそろい、昭和7年(1932年)に離れの客室である艶秀亭が加わった。昭和11年(1936年)には大広間棟・翠明荘・茶室の皐月寮が一度に建ち、敷地の西側が埋まった。

文化庁の解説から配置をたどると、表門を入った正面に別館が建ち、その手前に便所棟がある。便所棟は別館と大広間棟の両方から渡り廊下でつながる。大広間棟は別館の西に、翠明荘はさらにその西に並び、翠明荘の先に皐月寮が接続する。艶秀亭だけは敷地の東の端にあり、表門とは別の入口をもつ。地番もほかの6件の本町118-1に対し、艶秀亭は本町116である。

宴会と宿泊の中心を担う2階建ての別館と大広間棟が川沿いに並び、その脇に居宅と茶室、少し離れて独立した客室を置く。料亭旅館としての動線が、建物の並びからそのまま読み取れる。

街道の表構えと川側の眺め

旧喜多藤は2つの顔をもつ。1つは初瀬街道に向けた表構えで、丸太を多用した表門と袖塀が町並みに面している。もう1つは名張川に向けた面で、別館と大広間棟の2階は川側の間口いっぱいを掃出のガラス窓とし、座敷から川の眺めを取り込む造りになっている。

文化庁が7件の登録理由として挙げる「歴史的景観への寄与」は、この2つの面にかかわる。旧喜多藤の建物は、街道側では本町通りの町並みを、川側では名張川沿いの景観をつくっている。

見学と行き方

旧喜多藤は個人の所有で、一般公開はされていない。建物の内部に入ることも、表門の内側の敷地に立ち入ることもできない。名張市や所有者による定期的な公開の案内も、確認した範囲では見当たらなかった。

外から見られるのは、本町通りに面した表門と袖塀のまわりである。写真は公道から撮るにとどめ、門前で通行や近隣の暮らしの妨げにならないよう気を配りたい。

鉄道の最寄りは近鉄大阪線の名張駅で、旧喜多藤の表門までは道のりでおよそ1キロ、歩いて15分ほどかかる。駅の西側に出て市街地を西へ進み、本町通りに入ると表門の前に出る。

参考文献

国指定文化財等データベース 旧喜多藤別館(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013732
国指定文化財等データベース 旧喜多藤大広間棟(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013733
国指定文化財等データベース 旧喜多藤翠明荘(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013734
国指定文化財等データベース 旧喜多藤皐月寮(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013735
国指定文化財等データベース 旧喜多藤艶秀亭(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013736
国指定文化財等データベース 旧喜多藤便所棟(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013737
国指定文化財等データベース 旧喜多藤表門(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013738
文化財に関すること(名張市)
https://www.city.nabari.lg.jp/s061/010/020/000/030/201502051897.html
名張市指定文化財一覧(名張市、PDF)
https://www.city.nabari.lg.jp/s061/010/020/000/030/R7shiteibunnkazaiitirann64.pdf
名張の料亭旅館「旧喜多藤」が国登録文化財に(中日新聞、2020年11月21日)
https://www.chunichi.co.jp/article/157953

最終更新日: 2026.09.27

基本情報

名称旧喜多藤
所在地三重県名張市本町118-1
指定登録有形文化財 7件
座標34.61856, 136.08792