松阪市文化財センター(旧カネボウ綿糸松阪工場綿糸倉庫)― 大正ロマンが息づく赤レンガの殿堂

三重県松阪市の中心部に堂々とそびえる赤レンガの建物、松阪市文化財センター。この建物は、大正12年(1923年)に鐘渕紡績(後のカネボウ)松阪支店の原綿製品倉庫として建設されました。全長約74メートル、幅10.6メートルの長大な姿は、大正時代の日本の産業の活力を今に伝えるかけがえのない近代化遺産です。平成14年(2002年)には国の登録有形文化財に登録され、現在は市民ギャラリーや文化財収蔵庫として、松阪の文化芸術活動の拠点となっています。

歴史的背景 ― 綿糸倉庫から文化の拠点へ

この赤レンガ倉庫の物語は、大正時代の日本の繊維産業の隆盛とともに始まります。松阪は江戸時代から「松阪木綿」の産地として知られ、その藍染めの縞模様は江戸の町でも人気を博していました。こうした繊維の伝統を持つ地に、日本有数の紡績会社であった鐘渕紡績が松阪支店を設立し、大正12年にこの原綿製品倉庫を建設しました。

倉庫はレンガ造り、平屋建て切妻造、鋼板葺きで、建築面積は1,044平方メートルに及びます。内部は4室に区画され、正面(北面)には片流れの庇が設けられていました。綿花や綿糸の効率的な保管・搬出に適した実用的な設計が特徴です。

その後、鐘渕紡績はカネボウへと社名を変更しますが、平成5年(1993年)4月に合理化のため松阪工場は操業を停止しました。工場内の建物はすべて取り壊される予定でしたが、地域住民から保存を求める声が高まり、平成6年(1994年)に松阪市がこの倉庫と跡地を取得しました。その後、建物の補強・修復工事を経て、平成8年(1996年)に松阪市文化財センターとして新たな歴史を刻み始めました。

なぜ登録有形文化財に登録されたのか

この建物が国の登録有形文化財に登録された背景には、大正期の大型レンガ造倉庫建築としての希少性と、当時の建築技術を今に伝える高い歴史的価値があります。

外壁のレンガは「イギリス積み」と呼ばれる工法で積まれています。これは、レンガの小口面(短い面)と長手面(長い面)が一段ごとに交互に現れるように積む技法で、明治時代に日本に導入された西洋の建築技術です。等間隔に配された柱型(柱が外壁面から突き出した部分)が生み出すリズミカルな外観は、建設当時の姿をそのまま留めており、大正期の産業建築の美しさを今に伝えています。

平成8年に制定された文化財登録制度は、建築から50年以上を経過した歴史的建造物のうち、時代の特色をよく表し、二度と造ることのできないかけがえのない建物を守るために設けられました。この旧カネボウ綿糸倉庫は、まさにそうした理念にふさわしい建造物として高い評価を受けています。

見どころ・魅力

松阪市文化財センターの最大の魅力は、大正時代の産業遺産を身近に感じながら、現代の文化芸術に触れられる点にあります。

建物外観では、全長74メートルにわたる赤レンガの壁面が圧倒的な存在感を放ちます。午後の陽光に照らされた赤レンガの温かな色合いは特に美しく、写真撮影にも絶好のロケーションです。イギリス積みのレンガや柱型の造形を間近に観察できるのも、建築愛好家にとっての大きな魅力です。

内部に入ると、レンガの間仕切り壁や木造小屋組み(屋根を支える骨組み)がそのまま残され、通常のギャラリーとは一味違う重厚な空間が広がっています。3つのギャラリー(第1〜第3ギャラリー)では松阪市美術展覧会のほか、個人やグループの展覧会が開催され、訪れるたびに異なる芸術作品と出会えます。

はにわ館 ― 国宝の船形埴輪に出会える博物館

ギャラリー棟に隣接して建つ「はにわ館」は、平成15年(2003年)3月に開館した博物館です。平成12年(2000年)4月、松阪市内の国指定史跡・宝塚1号墳から、全国で初めて船上にさまざまな立ち飾りの付く船形埴輪が発見されました。日本最大級のこの埴輪は、「水のまつり」を表現しているとされ、古代史研究に大きな衝撃を与えました。

宝塚1号墳から出土した埴輪278点は、令和6年(2024年)8月に国宝に指定されました。第1展示室では常設展「宝塚古墳の謎」として、これらの貴重な埴輪が音声ガイダンスや照明演出とともに展示されています。

入館料はわずか110円(大人)、高校生以下は無料と非常にリーズナブルで、国宝をこれほど気軽に鑑賞できる施設は全国でも珍しいといえます。

周辺情報 ― 松阪の歴史と食を楽しむ

文化財センターの周辺には、松阪の豊かな歴史を体感できるスポットが点在しています。隣接するカネボウ跡公園(鈴の森公園)は、緑豊かな憩いの空間として市民に親しまれています。

徒歩約7分の距離にある松坂城跡(松阪公園)は、天正16年(1588年)に蒲生氏郷によって築かれた平山城の遺構で、平成23年(2011年)に国の史跡に指定されました。野面積みの豪壮な石垣が見事で、城跡からは城下町の風情を残す町並みを一望できます。城跡内には本居宣長記念館があり、江戸時代を代表する国学者・本居宣長の業績に触れることができます。

御城番屋敷は、江戸末期に松坂城の警護にあたった紀州藩士たちが住んだ武家屋敷で、国指定重要文化財です。全国でも最大規模の武家長屋が現存し、今なおご子孫が暮らしておられる貴重な「生きた文化財」です。

また、松阪は世界に名を馳せる松阪牛の本場でもあります。市内には老舗の料理店が点在し、最高級の和牛を堪能できます。文化財めぐりと美食の旅を組み合わせれば、忘れられない松阪体験になることでしょう。

Q&A

Q松阪市文化財センターへのアクセス方法は?
AJR・近鉄松阪駅から、市街地循環バス「鈴の音バス」左回りに乗車し「クラギ文化ホール」下車すぐです。三重交通バス「松阪中央病院行」で「文化会館前」下車、徒歩約3〜5分でもアクセスできます。車の場合は伊勢自動車道松阪インターから約10分です。
Q開館時間と入館料を教えてください。
A開館時間は9:00〜17:00(入館は16:30まで)です。休館日は月曜日(祝日の場合は翌日)、祝日の翌日、年末年始(12月29日〜1月3日)です。ギャラリーは入場無料、はにわ館は大人110円、高校生以下は無料です。
Q国宝の埴輪はいつでも見られますか?
Aはい。令和6年(2024年)に国宝に指定された宝塚1号墳出土の埴輪278点は、隣接するはにわ館の第1展示室で常設展示されています。船形埴輪をはじめとする貴重な出土品を、開館時間内であればいつでもご覧いただけます。
Q駐車場はありますか?
Aはい。文化財センターには無料駐車場が併設されています。カネボウ跡公園鈴の森側からもアクセスが便利です。
Q周辺の観光スポットと合わせて回れますか?
Aはい。文化財センターから松坂城跡まで徒歩約7分、御城番屋敷まで徒歩約9分と、主要な観光スポットが徒歩圏内に集まっています。古代の埴輪から大正時代の産業遺産、江戸時代の城跡や武家屋敷まで、松阪の歴史を通史的に楽しめる半日コースがおすすめです。

基本情報

名称 松阪市文化財センター(旧カネボウ綿糸松阪工場綿糸倉庫)
文化財区分 国登録有形文化財(平成14年7月16日登録)
建築年 大正12年(1923年)
構造 レンガ造り、平屋建切妻造、鋼板葺
規模 全長約74m × 幅10.6m、建築面積1,044㎡
所在地 〒515-0821 三重県松阪市外五曲町1番地
所有 松阪市
電話 0598-26-7330
開館時間 9:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日 月曜日(祝日の場合は翌日)、祝日の翌日、年末年始(12月29日〜1月3日)
入館料 ギャラリー:無料 / はにわ館:大人110円、高校生以下無料
アクセス JR・近鉄松阪駅より鈴の音バス「クラギ文化ホール」下車すぐ/伊勢自動車道松阪ICより約10分

参考文献

旧カネボウ綿糸松阪工場綿糸倉庫について — 松阪市公式ホームページ
https://www.city.matsusaka.mie.jp/site/bunkazai-center/kyu-kanebou-menshisouko.html
松阪市文化財センターの概要 — 松阪市公式ホームページ
https://www.city.matsusaka.mie.jp/site/bunkazai-center/bunkazai-center-gaiyou.html
松阪市文化財センター(旧カネボウ綿糸松阪工場綿糸倉庫) — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/182683
松阪市文化財センター(旧カネボウ綿糸松阪工場綿糸倉庫) — 松阪市文化情報
https://www.city.matsusaka.mie.jp/site/culture-info/bunkazaisenta-kenzoubutu.html
松阪市文化財センター「はにわ館」 — 観光三重
https://www.kankomie.or.jp/spot/3148
松阪市文化財センター(旧カネボウ綿糸松阪工場綿糸倉庫) — 観光三重
https://www.kankomie.or.jp/spot/4371
文化財センター「はにわ館」 — 松阪市観光協会
https://www.matsusaka-kanko.com/information/information/haniwaka/

最終更新日: 2026.03.26