三重大学三翠会館:昭和戦前期の面影を伝える木造洋風建築

三重県津市の三重大学キャンパスの一角に、昭和11年(1936年)に建設された木造洋風建築「三翠会館」が佇んでいます。三重大学の前身である三重高等農林学校の開校10周年記念事業として同窓会の醵金により建てられたこの建物は、同校に関連する唯一の現存建造物です。平成14年(2002年)に国の登録有形文化財に登録され、昭和戦前期における地方の木造公共建築の特色を今に伝える貴重な文化遺産として、大学の象徴的存在となっています。

歴史:農林学校から大学のシンボルへ

三重高等農林学校は、大正10年(1921年)に臨時教育会議による官立高等教育機関増設政策の一環として設立された旧制専門学校です。津市上浜町の志登茂川左岸に校地が定められましたが、この土地は低湿地で塩害が激しく、初代校長・上原種美は「農業工学の全能を傾けてこれを改良すべき」と宣言し、教官と学生が一丸となって農地改良に取り組みました。逆境を実践的な学びの場に変えるこの精神は、学校の伝統として受け継がれていきました。

「三翠」の名は、大正12年(1923年)に学生寄宿舎が「三翠寮」と命名された際に生まれました。「三重」の「三」と、校歌に歌われた「空のみどり(翠)、樹のみどり、波のみどり」という三つの緑に由来しています。伊勢湾を臨むキャンパスの自然美を凝縮したこの名は、現在も三重大学の「三翠キャンパス」として脈々と受け継がれています。

開校10周年を迎えるにあたり、同窓会が資金を募って記念事業として同窓会館の建設を計画しました。昭和11年(1936年)1月28日に着工し、約9か月の工期を経て同年9月24日に竣工、11月1日に開館しました。設計は三重高等農林学校工手の的場久壽雄が、施工は三重県河芸郡栗真村の加藤組・加藤要作が担当しました。以来、同窓会の集会、講演、宿泊、校史資料の展示など、多目的に活用されてきました。

昭和24年(1949年)の学制改革により三重高等農林学校は新制三重大学に包括され、農学部(現・生物資源学部)の母体となりました。三翠会館は大学施設として引き続き使用され、平成14年(2002年)には三重大学開学50周年記念事業の一環として大改修が行われました。当時の資料や塗料分析に基づいて外装・内装を忠実に復元し、バリアフリー対応のスロープや多目的ホールの空調設備も整備されました。

文化財としての価値:なぜ登録有形文化財に登録されたのか

三翠会館は、平成14年(2002年)2月14日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました(登録番号24-0041)。登録にあたっては、以下の点が高く評価されています。

第一に、三重高等農林学校に関連する唯一の現存建物であること。大正時代に設立され、三重大学の礎を築いた教育機関の歴史を物理的に証明する、かけがえのない存在です。第二に、昭和戦前期に建築された地方の木造公共建築の特色をよく留めていること。簡潔な意匠による経済的で技術的にも容易な様式体系が採用されており、当時の地方における公共建築のあり方を知る上で重要な資料となっています。

登録有形文化財制度は、近代以降の多種多様な建造物を幅広く保護するために平成8年(1996年)に導入されました。届出制と指導・助言を基本とする緩やかな保護措置が特徴で、重要文化財指定制度を補完する役割を果たしています。三翠会館がまさにそうであるように、登録された建物が現役の施設として活用され続けることが奨励されています。

建築の見どころ:変化に富んだ木造洋風の造形美

三翠会館は西面して建つ木造建築で、北寄りの2階建て部分と南寄りの平屋部分から構成されています。建築面積は357平方メートル、延床面積は501平方メートル(1階309平方メートル、2階192平方メートル)です。

最大の見どころは、変化に富んだ屋根の造形です。大屋根は寄棟造を基本としながら、正面中央に切妻破風を設けることで強い正面性を演出しています。南寄りの平屋部分は西側が切妻造、東側が入母屋造という異なる屋根形式を組み合わせ、建物全体にリズミカルな動きを生み出しています。竣工当時は屋根にドーマー窓が設けられ、洋風建築としての外観を一層際立たせていましたが、後年に撤去されました。

外壁は下見板張りにペイント塗仕上げが施され、柱型(ピラスター)や窓枠を多用した装飾的なデザインが特徴です。正面中央に突出した車寄せは、訪問者を格式ある佇まいで迎え入れます。内部は、1階に洋室、2階に和室が配される構成で、近代的な機能性と伝統的な空間を両立させた当時の公共建築の典型的な手法が見られます。

昭和47年(1972年)には、農学部創立50周年記念事業の一環として西側にベランダが増設されました。長崎のグラバー邸を思わせる明治調の意匠で、三翠庭園とよく調和した景観を生み出しています。

平成14年の大改修では、外部の塗装色は塗料の調査や当時の資料に基づいて慎重に検討され、創建当初の色彩が復元されました。内部の主要な部屋も当初の姿を基本的に残しつつ、水回りの刷新やスロープの設置など、現代の利用に対応した整備が行われています。

訪問ガイド:キャンパスで歴史散歩を楽しむ

三翠会館は三翠庭園に囲まれた美しい環境にあります。庭園には旧三重高等農林学校時代の2本の門柱が残っており、この門柱の間から三翠会館を望む景色は、大学の四季を彩る代表的な風景として親しまれています。冬には雪化粧の庭園と松、春には桜と洋館の組み合わせが格別です。

外部からは、2階建て部分と平屋部分のダイナミックな構成、リズミカルな柱型と窓の配列、堂々とした車寄せのデザインをじっくり鑑賞できます。西側のベランダ越しに三翠庭園の松を眺める構図は、特に写真映えするポイントです。

三翠会館は大学の現役施設として会議や講演、イベントに使用されていますが、外観と庭園は一般の方もキャンパス散策の際に自由にご覧いただけます。内部の見学をご希望の場合は、事前に生物資源学研究科チームにお問い合わせください(平日のみ対応)。

同じキャンパス内には、もう一つの登録有形文化財「レーモンドホール」もあります。チェコ系アメリカ人の著名建築家アントニン・レーモンドが設計した旧三重県立大学附属図書館で、後に水産学部の食堂として親しまれた建物です。三翠会館と合わせて、一つの大学キャンパスで2つの登録有形文化財を巡ることができる貴重な機会です。

周辺の見どころ

三重県の県庁所在地である津市には、三翠会館と合わせて訪れたい文化・歴史スポットが数多くあります。

  • 津城跡(お城公園) — 天正8年(1580年)に織田信包が築城し、築城の名手・藤堂高虎が大改修した城の跡地。復元された角櫓や苔むした石垣、藤堂高虎像が見られ、桜の名所としても知られています。続日本100名城にも選定。
  • 専修寺(高田本山) — 真宗高田派の総本山。国宝の御影堂と如来堂をはじめ、11棟の重要文化財を有する壮大な寺院。夏の蓮の花が特に美しい。
  • 三重県立美術館 — 津駅から徒歩約10分。近代日本洋画を中心に6,000点以上の作品を収蔵。曾我蕭白やピカソ、モネの作品も所蔵しています。
  • 津観音(観音寺) — 東京の浅草観音、名古屋の大須観音と並ぶ日本三大観音の一つ。和銅2年(709年)創建の歴史ある寺院。
  • 偕楽公園 — 藤堂藩の山荘を公園化した丘陵地。自然の地形を活かした園内では、桜、つつじ、藤、紅葉と四季折々の花木が楽しめます。

アクセス情報

三翠会館は三重大学キャンパス内に位置しています(三重県津市上浜町1515)。

電車の場合:近鉄名古屋線「江戸橋駅」から徒歩約15分。津駅(JR・近鉄)からは、三重交通バス4番のりばから「白塚駅前」「太陽の街」「三重病院」行きなどに乗車し、「三重大学前」バス停で下車。

高速船の場合:中部国際空港(セントレア)から津エアポートラインの高速船で「津なぎさまち」まで約45分。港からバスで津駅まで約15分、タクシーで三重大学まで約15分。

車の場合:伊勢自動車道「津IC」から約15~20分。キャンパス内に来客用駐車場あり。

見学に関するお問い合わせ:生物資源学研究科チーム(総務担当)電話 059-231-9626(平日のみ)

Q&A

Q一般の人でも見学できますか?
A三重大学のキャンパスは開放されており、三翠会館の外観や三翠庭園は自由にご覧いただけます。建物内部の見学をご希望の場合は、事前に生物資源学研究科チーム(059-231-9626)にお問い合わせください。平日のみ対応となります。
Q入場料はかかりますか?
A三重大学キャンパスへの入構や三翠会館の外観見学に入場料はかかりません。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A一年を通じて見学できます。春(3月下旬~4月上旬)はキャンパスの桜と洋館の組み合わせが美しく、冬には雪化粧の三翠庭園が風情豊かです。紅葉の秋もおすすめです。内部見学を希望される場合は、大学が開いている平日の訪問が適しています。
Qキャンパス内に他の文化財はありますか?
Aはい。三翠会館のほかに、著名な建築家アントニン・レーモンドが設計した「レーモンドホール」が同じキャンパス内にあり、こちらも国の登録有形文化財に登録されています。一つのキャンパスで2つの登録有形文化財を巡ることができます。
Q三翠会館の「三翠」とはどういう意味ですか?
A「三翠」は「三つの翠(みどり)」を意味し、「三重」の「三」と、校歌に歌われた「空のみどり、樹のみどり、波のみどり」に由来しています。伊勢湾に面したキャンパスの豊かな自然を象徴する名称で、現在も三重大学のキャンパス名「三翠キャンパス」として使われています。

基本情報

名称 三重大学三翠会館(みえだいがくさんすいかいかん)
文化財区分 国登録有形文化財(建造物) 平成14年(2002年)2月14日登録(登録番号24-0041)
竣工 昭和11年(1936年)9月24日
設計 的場久壽雄(三重高等農林学校工手)
施工 加藤組・加藤要作(三重県河芸郡栗真村大字町屋)
構造 木造2階建(一部平屋建)、寄棟造(一部切妻)、鉄板葺(旧スレート葺)
規模 建築面積357㎡、延床面積501㎡(1階309㎡、2階192㎡)
所有者 国立大学法人三重大学
所在地 〒514-0102 三重県津市上浜町1515
アクセス 近鉄名古屋線「江戸橋駅」から徒歩約15分
問い合わせ 生物資源学研究科チーム(総務担当)059-231-9626

参考文献

三重大学三翠会館 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/193629
2つの登録有形文化財 — 三重大学 生物資源学部・大学院生物資源学研究科
https://www.bio.mie-u.ac.jp/about/properties.html
三重大学三翠会館 — 観光三重(かんこうみえ)
https://www.kankomie.or.jp/spot/4646
三重高等農林学校 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/三重高等農林学校
三重大学 — Wikipedia
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/三重大学
登録有形文化財(建造物) — 文化庁
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/toroku_yukei.html

最終更新日: 2026.03.25