大正の座敷 ― 中森家住宅離れ
中森家住宅離れは、三重県伊賀市上野玄蕃町にある大正前期の座敷棟で、平成26年(2014年)12月19日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
同じ敷地で登録された六棟のうち、この一棟だけが江戸のものではない。六十年ほどの隔たりが、そのまま見どころになっている。
建つ位置は主屋の北西側。渡り廊下でつながり、棟は東西に走る。木造平屋建、切妻造桟瓦葺、下屋を廻らす点は主屋と共通する。内部は六畳二室を東西に並べ、南東面に縁側を廻らす。主屋が閉じた平面であるのに対し、こちらは開いている。
武士でなくなった家がつくったもの
明治の初年、士族の禄は秩禄処分によって整理され、武家という身分そのものが解体された。役屋敷として与えられていた住宅は、単なる私有の家屋になる。格式を示すための部屋は、客をもてなすための部屋へと役割を変えていった。隠居や接客のための離れが各地で建てられるようになるのも、この流れの延長線上にある。
中森家の離れも、その系譜に置くことができる。西室にはトコ、棚、そして付書院が設えられている。付書院は庭側に張り出し、低い書院板の上に明かり障子を入れる。厳密な江戸の武家住宅の平面であれば、この組み合わせは家中で最も格式の高い一室を示す標識であった。それが建築面積37平方メートルの増築棟に現れる。しかも材は細く、採光は多く、見せるための木が選ばれている。大正期の座敷らしい軽やかさである。
文化庁の解説も、この対比を登録の説明に用いている。旧武家住宅が近代においてどう変容したかを示す建物だ、という評価である。登録番号は24-0183で主屋の次の番号にあたり、該当する登録基準は他の五棟と同じく「国土の歴史的景観に寄与しているもの」の一項である。
年代表記について一点補足しておきたい。文化庁データベースは時代を大正、年代を大正前期とする一方、同じ記録の西暦欄は「1926〜1945年」と記す。これは昭和の年代であり、両者は一致しない。本稿は和暦の記載に従った。厳密な年代を要する場合は原典にあたられたい。
見えない建物をどう訪ねるか
先に事実を述べる。中森家住宅は個人の住まいであり、内部の公開はない。敷地に立ち入ることもできない。離れは主屋のさらに奥、敷地の中ほどに位置するため、門や前蔵と違って公道からは姿が見えない。
では、なぜ見えない建物の話をするのか。
登録有形文化財の制度は、公開のための仕組みである以前に、記録のための仕組みだからである。そしてもう一つ、通りから見える東面の意味は、その奥に何があるかを知ってから変わる。敷地は東の通りから西へ長く伸び、西端は旧上野城外堀の位置にあたる擁壁で終わる。離れはその中間にある。土塀の上に重なって見える屋根の連なりには、この棟の稜線も含まれている。
屋敷前の道は「下屋敷の道」と呼ばれる細道で、伊賀鉄道広小路駅から徒歩3分ほど。途中に藤堂新七郎家の下屋敷であったさまざま園があるが、こちらも非公開である。内部まで見学できる武家住宅を求めるなら、同じ城下町のうちに入交家住宅と赤井家住宅がある。いずれも公開されており、開館時間と休館日は訪問前に確認しておきたい。
Q&A
- 中森家住宅離れは見学できますか。外から見えますか。
- 見学できません。個人の住宅として使用されており内部・敷地とも非公開です。離れは主屋の奥に位置するため、公道からは建物そのものが視認できません。通りから見えるのは門、土塀、前蔵など東面の構えに限られます。
- 中森家住宅離れは他の登録建造物と何が違うのですか。
- 年代です。同じ敷地の他の五棟が江戸末期であるのに対し、離れのみ大正前期の建築です。武家という身分が失われたあとに、この家がどう住まいを整え直したかを示す一棟にあたります。
- 中森家住宅離れの座敷にはどのような設えがありますか。
- 六畳二室を東西に並べ、南東面に縁側を廻らします。西室にはトコ、棚、付書院を備えます。付書院は庭側に張り出す書院造の要素で、これが揃うことから、居室ではなく接客の場として構想された棟と考えられます。
- 中森家住宅離れの規模と構造を教えてください。
- 木造平屋建、瓦葺、建築面積37平方メートルです。切妻造桟瓦葺に下屋を廻らし、主屋の北西側に渡り廊下を介して東西棟で建ちます。登録番号は24-0183です。
- 中森家住宅離れの建築年代に食い違いがあると聞きましたが。
- 文化庁データベース上、時代・年代の欄は「大正/大正前期」ですが、西暦欄は「1926〜1945年」と昭和の年代を示しており、記載が一致していません。本記事は和暦表記に従っています。
基本情報
| 名称 | 中森家住宅離れ(なかもりけじゅうたくはなれ) |
|---|---|
| 所在地 | 三重県伊賀市上野玄蕃町195 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号24-0183 |
| 指定年 | 平成26年(2014年)12月19日登録(第79回) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、瓦葺、建築面積37平方メートル |
| 所有者 | 個人 |
| 公開状況 | 非公開(公道からも視認不可) |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「中森家住宅離れ」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010310
- 文化遺産オンライン「中森家住宅離れ」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/278003
- 伊賀市「伊賀市歴史的風致維持向上計画」第2章
- https://www.city.iga.lg.jp/cmsfiles/contents/0000013/13871/071017_3-2.pdf
- 奈良文化財研究所 全国文化財総覧「中森家住宅」
- https://sitereports.nabunken.go.jp/ja/cultural-property/488301
最終更新日: 2026.08.04