旧武家町に残る一棟 ― 中森家住宅主屋

中森家住宅主屋は、三重県伊賀市上野玄蕃町にある江戸末期の武家住宅で、平成26年(2014年)12月19日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

玄蕃町は、慶長16年(1611年)から藤堂高虎が普請を進めた上野城下町のうち、武士が住んだ一角にあたる。町名は藤堂玄蕃家の下屋敷に由来し、近隣には藤堂新七郎家の下屋敷であったさまざま園も残る。中森家は藩に直接仕えた藩士ではなく、新七郎家の陪臣であった。家臣の家臣、という位置づけである。この一点を頭に入れて建物を見ると、細部の選択がほとんどすべて説明できる。

敷地は通りに東面し、主屋はその東寄りに建つ。木造平屋建、切妻造桟瓦葺で、四周に下屋を廻らす。南妻に玄関を開き、その脇を台所とする。奥へ進むにつれて部屋が現れる構成で、外からは全体像がつかめない。

質実という選択

奥寄りに配される四室は、整然と並ばない。食い違いに置かれている。うち八畳が主室で、トコと棚を備える。ただし、その造作は質実である。彫りもなく、塗りもない。六畳には仏間が付く。

この「飾らなさ」こそが登録の根拠になっている。登録有形文化財の基準は三つあるが、中森家住宅の各棟が該当するのは「国土の歴史的景観に寄与しているもの」の一項のみである。個々の建物の意匠が突出しているわけではない。上野城下における武家住宅の形式、それも陪臣層の暮らしの規模と格式を、平面と造作の両面から読み取れる状態で残していること。評価はそこに置かれている。

建築面積は106平方メートル。年代は江戸末期を基本としつつ、昭和前期の改造と昭和50年(1975年)の改修が文化庁の記録に併記される。住み続けられてきた家である以上、当然の履歴といえる。登録番号は24-0182、第79回登録にあたる。

通りから何が見えるか

訪ねる前に確かめておきたいことがある。中森家住宅は個人の所有で、現に住まいとして使われている。内部の公開はなく、拝観の受付も開館時間も存在しない。敷地内に立ち入ることもできない。

それでも通りに立つ意味はある。東面には門と土塀、そして南東隅の前蔵が並び、その奥から主屋の屋根が覗く。桟瓦の面が低く伏せ、敷地西端に建つ二階建の蔵の屋根がその向こうに高く出る。棟の高低差が、道路上の一点から一続きの景として把握できる。

屋敷前の細道は「下屋敷の道」と呼ばれ、伊賀鉄道広小路駅からだんじり会館の方へ抜ける。徒歩でおよそ3分。上野市駅からでも十数分の距離にある。同じ道沿いのさまざま園も非公開だが、貞享5年(1688年)にここで芭蕉が「さまざまの事おもひ出す桜かな」を詠んだと伝わり、伊賀市はこの一帯を芭蕉ゆかりの歴史的風致としてまとめている。中森家住宅は同市の歴史的風致形成建造物にも位置づけられた。

内部まで見たい場合は、少し歩けば入交家住宅がある。県指定有形文化財で、長屋門を備えた藩士の屋敷である。火曜休館、大人300円程度で公開されているが、開館条件は変わりうるので事前確認をすすめたい。撮影は公道からであれば制限されない。ただしレンズの先は他人の生活空間である。

Q&A

Q中森家住宅主屋は見学できますか。内部公開はありますか。
A内部・敷地とも非公開です。個人の住宅として使用が続いており、公開の予定は示されていません。登録有形文化財の制度は所有者に公開義務を課さないため、この状態は例外ではありません。外観は公道から自由に見られます。
Q中森家住宅主屋はいつ建てられ、いつ登録されましたか。
A文化庁の国指定文化財等データベースは年代を江戸末期(1830〜1868年)とし、昭和前期の改造と昭和50年(1975年)の改修を併記しています。登録は平成26年(2014年)12月19日、第79回登録、登録番号24-0182です。
Q中森家住宅主屋の間取りにはどのような特徴がありますか。
A南妻の玄関脇を台所とし、奥寄りに四室を食い違いに配します。主室は八畳でトコと棚を備え、その造作は質実です。六畳には仏間が付きます。上野城下の武家住宅、なかでも陪臣層の住宅形式を示す平面とされています。
Q中森家住宅と松尾芭蕉にはどのような関係がありますか。
A直接の個人的関係ではなく、場所と身分による関係です。中森家は藤堂新七郎家の陪臣で、同家の下屋敷であったさまざま園が同じ玄蕃町にあります。芭蕉は若年期に新七郎家に仕えており、伊賀市は両者を芭蕉関係の文化財として同じ枠組みで扱っています。
Q中森家住宅で登録されているのは主屋のほかに何がありますか。
A離れ、前蔵、蔵、井戸屋形及び板塀、門及び土塀の5件です。いずれも平成26年12月19日付で、登録番号は24-0182から24-0187まで連続します。

基本情報

名称中森家住宅主屋(なかもりけじゅうたくしゅおく)
所在地三重県伊賀市上野玄蕃町195
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号24-0182
指定年平成26年(2014年)12月19日登録(第79回)
員数1棟
寸法木造平屋建、瓦葺、建築面積106平方メートル
所有者個人
公開状況非公開(外観のみ公道から視認可)

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「中森家住宅主屋」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010309
文化遺産オンライン「中森家住宅主屋」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/263402
伊賀市「伊賀市歴史的風致維持向上計画」第2章
https://www.city.iga.lg.jp/cmsfiles/contents/0000013/13871/071017_3-2.pdf
伊賀上野観光協会「下屋敷の道」
https://www.igaueno.net/?p=1604

最終更新日: 2026.08.04