伊達家の御殿湯を預かってきた宿

不忘閣は、宮城県柴田郡川崎町の青根温泉にある温泉旅館「湯元不忘閣」の建物群で、明治29年(1896年)の土蔵3棟、明治40年(1907年)の本館、昭和7年(1932年)の御殿棟など7棟が、平成26年(2014年)12月19日にそろって国の登録有形文化財に登録された。

青根温泉は蔵王連峰の東麓に湧く温泉である。川崎町の案内によれば、享禄元年(1528年)に見つかって以来、仙台藩伊達家の保養の湯として使われてきた。不忘閣は藩主が入る「御殿湯」を預かった宿として知られ、5代藩主伊達吉村より後の藩主については、詳しい入浴日記まで残っているという。

宿を営む佐藤家は、伊達家の「湯別当」を務めた家である。文化庁は門の解説でこの由緒に触れ、宮城県の登録時の解説も同じ内容を記す。宿名の「不忘」については、ここに滞在した伊達政宗がその喜びを忘れないようにと名付けた、と宿が伝えている。記録で裏づけられた話ではなく、宿に伝わる由来として読むのがよい。

明治39年の大火と、焼け残った蔵

いま見る建物の顔ぶれを決めたのは火事である。宮城県の解説によれば、明治39年(1906年)の大火で青根温泉の多くの建物が罹災した。不忘閣では、敷地の北寄りに並ぶ明治29年の土蔵3棟が焼け残った。うち文庫蔵は棟札で年代が確かめられ、番匠(大工の棟梁)として吉村亀末の名が記されている。

本館は大火の翌年、明治40年に建てたと伝わる。大正期には南側に離れが渡廊下でつながり、昭和7年には離れの北西隅から御殿棟が延び、昭和前期には敷地の東辺に門が構えられた。7棟は、火事を越えた明治の蔵と、火事のあとに段階を踏んで建て直された木造の客殿とに大きく分かれる。

登録の基準は7棟とも「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で、登録番号は04-0097から04-0103まで続く。文化庁は本館を湯治場の情緒を醸す建物、離れをこの地方の湯治場の様子を伝える遺構と評している。1棟ずつの意匠に加えて、ひとつの家が営む湯宿が半世紀かけて屋敷として積み上がってきた姿が、評価の土台にある。

敷地の配置

敷地は青根温泉の中心部にある。中央に棟を南北に向けた本館が建ち、正面中央に入母屋造の車寄を突き出す。本館の南へ渡廊下で離れがつながり、離れは南北棟の南端から東へ折れて「く」の字を描く。その北西隅から渡廊下でさらに御殿棟へ渡る。一般に「青根御殿」と呼ばれるのがこの御殿棟である。

土蔵は敷地の北寄りに、南から文庫蔵・座敷蔵・穀蔵の順で一直線に並ぶ。3棟の上には一続きの置屋根が架かり、どれも東面に戸口を開き、漆喰の白壁と海鼠壁の腰で外観をそろえる。北端の穀蔵は、いまは内部に温泉を引き込んだ浴室に改められている。門は敷地の東辺に構える間口2.7メートルの棟門で、7棟のうち唯一、建物ではなく工作物に分類される。

文人の足跡もこの敷地に重なる。宮城県は与謝野鉄幹・晶子夫妻、田山花袋、芥川龍之介らが訪れたと紹介し、宿は芥川が滞在した土蔵が敷地内に残ると案内する。川崎町は、山本周五郎の『樅の木は残った』に青根温泉が登場することも紹介している。

見学とアクセス

不忘閣はいまも営業している旅館で、7棟の内部は宿泊客のための空間である。公式サイトは日帰りの利用を案内しておらず、建物の中を見るには泊まることが前提になる。宿は伊達家ゆかりの書画骨董を所蔵し、希望する宿泊客を所定の時間に案内するとしている。時間や内容は変わることがあるので、予約の際に電話(0224-87-2011)で確かめておきたい。

宿泊しない人が外から目にしやすいのは、敷地の東辺に構える門である。一般の見学施設ではないので、泊まらない場合は敷地に立ち入らず、宿泊客を写し込まないよう気を配りたい。

車の場合は、山形自動車道の宮城川崎インターチェンジから約10キロメートル。川崎町によれば、仙台からこのインターチェンジまでは車で30分ほどである。公共交通では、東北新幹線の白石蔵王駅から路線バスで50分ほど蔵王方面へ向かい、下車したバス停から宿の送迎(要予約)を使う経路が紹介されている。路線や停留所は変わることがあるため、乗車の前に宿へ確認するのが確実である。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁):不忘閣本館
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010247
国指定文化財等データベース(文化庁):不忘閣離れ
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010248
国指定文化財等データベース(文化庁):不忘閣御殿棟
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010249
国指定文化財等データベース(文化庁):不忘閣文庫蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010250
国指定文化財等データベース(文化庁):不忘閣座敷蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010251
国指定文化財等データベース(文化庁):不忘閣穀蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010252
国指定文化財等データベース(文化庁):不忘閣門
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010253
宮城県:登録有形文化財(建造物)に登録されました(平成26年12月19日)
https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/bunkazai/touroku-toushin.html
川崎町:名所・旧跡(青根御殿)
https://www.town.kawasaki.miyagi.jp/soshiki/shogaigakushu/531.html
川崎町:温泉・宿泊・日帰り(湯元不忘閣)
https://www.town.kawasaki.miyagi.jp/soshiki/chishin/524.html
川崎町:宮城県川崎町への交通アクセス
https://www.town.kawasaki.miyagi.jp/soshiki/chishin/525.html
湯元不忘閣 公式サイト:歴史
https://www.fubokaku.com/history.html
湯元不忘閣 公式サイト:ごあいさつ
https://www.fubokaku.com/info.html
たびよみ(読売旅行):湯元不忘閣(交通案内)
https://tabiyomi.yomiuri-ryokou.co.jp/article/003908.html

最終更新日: 2026.09.25

基本情報

名称不忘閣
所在地宮城県柴田郡川崎町青根温泉1-1
指定登録有形文化財 7件
座標38.14452, 140.53473