細島灯台 ― 太平洋を照らす昭和モダンの白亜の塔

宮崎県日向市、細島半島の東端に立つ「細島灯台(ほそしまとうだい)」は、リアス式海岸の断崖の上に静かに佇む白い灯台です。高さわずか11メートルの小ぶりな鉄筋コンクリート造の塔は、明治末期の点灯以来、100年以上にわたって日向灘を行き交う船を見守り続けてきました。2019(平成31)年3月29日には国の登録有形文化財(建造物)に登録され、火災による焼失、戦時中の被災、そして地域の人々の手による再生を経た稀有な歴史をもつ、宮崎を代表する近代化遺産のひとつとなっています。

九州東岸を旅する人にとって、細島灯台は単なる航路標識ではありません。日豊海岸国定公園の絶景に抱かれ、巨大な柱状節理の断崖、願いが叶うと伝わる神秘的な岩礁、そして地域に愛され続けてきた小さな白い塔。これらが一体となって、訪れる人にとって忘れがたい場所をつくり出しています。

火と戦火を越えてきた灯台の歴史

細島灯台が建つ細島港は、江戸時代より南九州諸大名の参勤交代の乗船地として栄えた古い港町です。船舶の安全な航行を願って、当時より港と町並みを照らす常夜灯が灯され続けてきました。

明治43年の悲運の初代灯台

近代灯台としての細島灯台が誕生する前提となったのは、1887(明治20)年に内務省雇用のオランダ人技師ヨハニス・デ・レーケが手がけた細島港の近代的整備です。やがて細島港は大阪商船の寄港地となりますが、港付近には岩礁が発達しており、夜間の通行が極めて危険でした。1909(明治42)年9月、宮崎県は逓信省に対して灯台設置を願い出、1910(明治43)年5月10日、現在の場所に初代の細島灯台が点灯します。

初代の灯台は、白色の六角形をしており、石材・煉瓦・木材・鉄板を巧みに組み合わせた意欲的な設計でした。しかし、当時は油を燃料として点灯していたため、なんと点灯わずか12日後に火災で焼失するという悲運に見舞われます。それでも宮崎県は同年中に再建に取り掛かり、12月には六角形の煉瓦造として再点火を果たしました。

昭和16年の改築 ― 現在の姿の誕生

1940(昭和15)年12月、灯台の管理権は宮崎県から国へと移管されます。翌1941(昭和16)年11月10日、灯台はそれまでの煉瓦造から円筒形の鉄筋コンクリート造へと建て替えられました。これが現在見ることのできる灯台の原型です。地元には、この改築工事の際、近隣の小学生たちがバケツリレーで岬の上まで建材を運び上げたという心温まる逸話が残されています。

戦時下に建てられたこの灯台は、太平洋戦争の最中も役割を果たし続けましたが、1945(昭和20)年5月の空襲で一時点灯不能になったとも伝えられています。戦後は数次の改修を経て、1991(平成3)年には海上保安庁が大規模な改修工事を実施。これに日向市が協賛する形で、敷地内に東屋や展望台を整備し、灯台周辺は公園として一般に開放されました。

なぜ国の登録有形文化財に指定されたのか

細島灯台は2019(平成31)年3月29日、国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録の理由として特に評価されたのは、戦前期の灯台建築としては希少な姿を保ち、機能性と昭和初期の意匠的感覚とを併せもつ点です。

具体的に注目された意匠は二つあります。一つは、塔身の基部から半円アーチ形に突出する出入口で、円筒形のシンプルな塔全体に、当時流行したアール・デコ的な格式を与えています。もう一つは、灯室の下を巡るバルコニーを支える、大きな三角形の持送り(もちおくり)です。この大胆な幾何学的なブラケットは、1930年代後半から1940年代初頭の日本建築でよく用いられた意匠で、海事インフラに昭和期のデザイン感覚が応用された貴重な例とされています。

高さ11メートル、建築面積わずか6.2平方メートルという小規模な構造物ですが、稀少性、創建当初の意匠の保存状態、そして火災と再建を繰り返した数奇な歴史が相まって、わが国の近代化遺産として唯一無二の価値を持っています。

魅力と見どころ

昭和モダンの意匠が光る灯台そのもの

灯台に近づくと、まず目に飛び込んでくるのは、白く輝くコンクリートと、紺碧の海と空とのコントラストの美しさです。円筒形の塔身、半円アーチを描く出入口、大胆な三角形の持送りが支えるバルコニー、そしてその上に載るドーム屋根の灯室。これらが一体となって、機能美と装飾性が調和した独特の佇まいを生み出しています。灯台内部は非公開ですが、周辺の敷地は自由に立ち入ることができ、撮影スポットも豊富です。

「恋する灯台」としての顔

2017(平成29)年、細島灯台は日本ロマンチスト協会と公益財団法人日本財団による「恋する灯台プロジェクト」において、宮崎県内で初めて「恋する灯台」に認定されました。これは全国50基の灯台をロマンチックな観光地として選ぶプロジェクトです。さらに、灯台を擬人化して若い世代にその魅力を伝える「燈の守り人」プロジェクトのキャラクターにも選ばれており、文化財という枠を超えて新たなファンを獲得し続けています。

展望台から望む太平洋の大パノラマ

灯台の正面には展望台が設けられており、視界を遮るもののない太平洋の眺望が広がります。晴れた日には水平線がゆるやかに弧を描き、日向灘の深いブルーが柱状節理の断崖に打ち寄せる様子を一望できます。馬ヶ背よりもさらに一段高い位置にあるため、地球の丸さを実感できる絶景ポイントとしても知られています。

周辺の見どころ ― 日向岬を歩く

細島灯台が立つ日向岬一帯は、日豊海岸国定公園に含まれる宮崎屈指の景勝地です。約20分ほどの遊歩道で、岬の主要な見どころを巡ることができ、半日かけて楽しむのに最適なエリアです。

馬ヶ背 ― 国内最大級の柱状節理の断崖

灯台から徒歩圏内にある「馬ヶ背(うまがせ)」は、海から見た岬の形が馬の背に似ていることからその名がつきました。約1,500万年前の火山活動によって形成された柱状節理が、高さ70メートルに達する垂直の断崖をなしており、国内最大級の規模を誇る国の天然記念物です。2022年にガラス張りにリニューアルされた展望スペース「スケルッチャ!」では、海へとせり出した足元の透明な床から、断崖絶壁を真下に見下ろすスリル満点の体験ができます。

願いが叶うクルスの海

灯台から車で数分のところにある「願いが叶うクルスの海」は、波の侵食によって柱状岩が東西約200メートル、南北約220メートルにわたって裂け、上から見ると十文字(クルス)の形に見える神秘的な岩礁です。「クルス」はポルトガル語で十字を意味します。この十文字と近くの岩場を合わせると漢字の「叶」という字に見えることから、ここで祈りを捧げると願いが叶うと伝えられています。展望所には「願いが叶うクルスの鐘」が設置され、訪れた人々が思い思いに鐘を鳴らしています。

細島の港町

歴史ある港町・細島そのものを散策するのもおすすめです。江戸時代の参勤交代で栄えた面影を残す細い路地や古い社寺が点在しています。現在の細島港はキハダマグロやビンチョウマグロの水揚げで知られ、マグロの胃袋のかき揚げ「こんぐり」や、ご飯にカツオの刺身を混ぜて炙った「こなます」など、独特の漁師料理も伝わっています。

Q&A

Q灯台の中に入ることはできますか?
Aいいえ、細島灯台の内部は非公開となっており、見学することはできません。ただし、灯台周辺の敷地は公園として整備されており、塔の足元まで自由に近づくことができ、隣接する展望台もご利用いただけます。
Qアクセス方法を教えてください。
A最も便利なのは車でのアクセスで、東九州自動車道日向ICから約15分、JR日向市駅からも約15〜20分です。馬ヶ背の駐車場から灯台までは、整備された遊歩道を歩いておよそ5分です。日向市駅から細島方面へのバス便もありますが、本数は限られます。
Qいつ訪れるのがおすすめですか?
A晴れた日中が、白い灯台と紺碧の太平洋、緑のコントラストを最も美しく楽しめます。灯台は東向きに立っているため、日の出のスポットとしても人気です。写真撮影には、白い塔身に光が均等に当たる午前中遅めの時間帯が好まれます。
Q入場料はかかりますか?
A入場料は無料です。灯台周辺の敷地と展望スペースは年間を通じて無料で開放されています。馬ヶ背の駐車場も無料でご利用いただけます。
Q他の観光地と一緒に巡ることはできますか?
Aはい。多くの方は、同じ岬内にある馬ヶ背、クルスの海と組み合わせて訪れています。半日コースで充分に楽しむことができ、灯台と馬ヶ背を結ぶ遊歩道は片道約20分の心地よい散策路です。

基本情報

名称 細島灯台(ほそしまとうだい)
所在地 宮崎県日向市細島町字戎の上36-2
文化財指定 国登録有形文化財(建造物)/2019年(平成31年)3月29日登録
初代設置 1910年(明治43年)5月10日設置/同年12月、火災後に煉瓦造で再建
現存建物 1941年(昭和16年)11月10日改築/1991年(平成3年)改修
構造 鉄筋コンクリート造、円筒形、高さ11m、建築面積6.2㎡、1基
所有 国(国土交通省)
その他の認定 2017年「恋する灯台」認定(宮崎県内初)/日豊海岸国定公園内に立地
入場料 無料/敷地は通年開放(灯台内部は非公開)
アクセス JR日向市駅または日向ICから車で約15分/馬ヶ背駐車場から徒歩約5分

参考文献

細島灯台 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/457769
有形文化財(建造物)細島灯台 - 日向市ホームページ
https://www.hyugacity.jp/bunkazai/browse.php?number=7
細島灯台 - 宮崎県公式観光サイト「みやざき観光ナビ」
https://www.kanko-miyazaki.jp/spot/2100
細島灯台 - 一般社団法人日向市観光協会
https://hyuga.or.jp/app/spots/view/6
細島灯台 - 恋する灯台プロジェクト公式サイト
https://romance-toudai.uminohi.jp/toudai/hososhima.html
細島灯台のまち宮崎県日向市 - 海と灯台プロジェクト
https://toudai.uminohi.jp/toudai/hososhima/
細島灯台 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/細島灯台
日向岬・馬ヶ背 - みやざき観光ナビ
https://www.kanko-miyazaki.jp/spot/1105

最終更新日: 2026.04.28