宮崎県庁舎本館 ― 南国宮崎に建つネオ・ゴシックの名建築
宮崎市中心部、楠並木が美しい橘通東に堂々と佇む宮崎県庁舎本館。昭和7年(1932年)に竣工し、平成29年(2017年)5月に国の登録有形文化財に登録された建造物です。現役の都道府県庁舎本館としては全国で4番目に古く、九州では現存最古の県庁舎として、約一世紀にわたり宮崎県政の中枢を担い続けてきました。垂直性の強いネオ・ゴシック様式の堂々たる外観の内側には、地元産の大理石、矢羽模様のステンドグラス、緻密な装飾の数々が今も静かに息づいています。
建築の歴史的背景
新庁舎の建設計画がスタートしたのは昭和3年(1928年)。宮崎県が鹿児島県から分離して再置県されて50周年を迎えるにあたり、その記念事業として進められました。しかし時代は厳しく、関東大震災後の不景気に追い打ちをかけるように、翌年には世界大恐慌が日本を襲います。県議会では計画の中止や見直しの議論も持ち上がりました。
計画を救ったのは、新庁舎にかける県民の熱意と、創意工夫に満ちた資金調達でした。昭和5年(1930年)に着任した有吉実知事は、昭和6年度予算に失業救済事業の一環として庁舎改築を組み込みました。総工費72万円のうち45万円は、大淀川水力電気・球磨川電気・九州送電・九州水力電気の4電力会社が、発電用ダム建設の代替条件として寄付したものでした。昭和6年に大林組の手によって着工し、昭和7年10月に竣工しました。
設計を担当したのは置塩章(おしお あきら)。茨城県庁など、ネオ・ゴシック様式を取り入れた公共建築を数多く手がけた建築家です。敷地が沼地に近い軟弱地盤であったため、基礎には生の松丸太を約4,900本打ち込み、コンクリートで固めるという当時としては大掛かりな工法が採られました。この堅実な工事のおかげで、本館は度重なる台風や地震を経た現在も健在で、特別な耐震補強なしで使用が続けられているといいます。
文化財に指定された理由
本館は、平成29年(2017年)5月2日に正門門柱・東門門柱とともに国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録理由として挙げられているのは、鉄筋コンクリート造3階地下1階建で塔屋と煙突を備えた本格的な近代官庁建築であること、そして中央に旧議事堂を据える「日の字型平面」という独特な構成が良好に保たれていることです。
歴史的にも特筆すべき建物です。大正末期から昭和初期にかけての全国的な庁舎建築ブームのあと、昭和6年から9年頃は緊縮財政下で公共建築が著しく減った時期にあたります。本館は、まさにそのブランクの時期である昭和7年に完成した、全国で唯一の例といわれています。浜口内閣による緊縮財政の風潮の中で建設にこぎつけた、時代の転換点を物語る貴重な建築なのです。
外観は、垂直性を強調した装飾柱、立体感のあるレリーフ、最上部のパラペット、そして現役で残る煙突など、ネオ・ゴシック様式の重厚さと荘厳さを今に伝えています。正門門柱・東門門柱とあわせて、昭和初期の県都の景観を一体として今に伝える点も高く評価されました。
見どころ
ネオ・ゴシックの外観
南正面から見上げると、左右対称の堂々たる立面が垂直方向に伸び上がり、中世ヨーロッパのゴシック大聖堂を思わせる構成美を見せます。建物一層部分を覆うのは、ほんのり桜色を帯びた御影石。広島県呉市倉橋島で切り出されたもので、国会議事堂にも用いられたことから「議院石」と呼ばれる名石です。本館にはおよそ1万4,130個もの議院石が使われています。その上には、昭和初期に流行した明るい色合いのスクラッチタイルの壁面が続き、最上部には小塔状のパラペットが連なります。
大理石の階段
正面玄関を入ると、まず目に飛び込むのが大階段。その手すりに用いられているのは、宮崎県五ヶ瀬町鞍岡の祇園山などから切り出された大理石です。約1億年以上前に海から隆起した地層に由来し、研磨された石の表面にはハチノスサンゴやウミユリの化石が浮かび上がっています。県によって主要な化石にはシールが貼られており、化石を探しながら階段を上る楽しみがあります。
矢羽模様のステンドグラス丸窓
本館内には、矢羽(やばね)模様で装飾された丸窓のステンドグラスが8か所配されています。丸窓は昭和初期建築の特徴のひとつで、当時の豪華客船のデザインに影響を受けたものだと伝えられます。柔らかな色光が差し込む廊下は、執務室の扉一枚を隔ててなお凛とした静けさを保ち、洋館らしい趣を漂わせます。
旧議事堂と正庁
日の字型平面の中央に据えられているのが、昭和36年(1961年)まで使われていた旧議事堂です。現在は知事の記者会見や式典の会場として用いられています。3階中央の「正庁」とその脇の貴賓室には、シャンデリアや漆喰装飾、そして床材として宮崎特産の飫肥(おび)杉が用いられ、地元の資源を誇る格式高い空間として整えられました。
前庭とフェニックスの並木
本館前の前庭は、日南海岸や青島など県内の代表的な景観を意識して造園されたものです。県の木でもあるフェニックス(カナリーヤシ)が玄関前に並び、ヨーロッパ風の重厚な建築に南国らしい彩りを添えます。夜にはライトアップが行われることもあり、闇に浮かぶネオ・ゴシックの石と、揺れるフェニックスの葉のコントラストは、宮崎ならではの忘れがたい風景です。
見学・アクセス情報
本館は現在も県庁舎として現役で使われていますが、観光客の見学は歓迎されています。ボランティアガイドによる無料の見学ツアーが定期的に開催されており、個人の方は予約不要で参加できます。団体の場合は事前申込が必要です。
- 定時ツアー:毎月第1日曜日 10:30〜12:00(楠並木朝市にあわせて実施)。1月のみ第3日曜日に実施。
- 集合場所:本館正門付近のボランティアガイド、または正面玄関の守衛まで「県庁見学ツアー」と声をかけてください。
- 団体ツアー(5名以上):見学希望日の2週間前までに宮崎県庁見学ツアー事務局へ申込。
- 参加費:無料。多くのエリアで撮影可。
- おすすめは平日の午前。ステンドグラスの丸窓に自然光が差し込み、最も美しく見える時間帯です。
アクセスはJR宮崎駅から徒歩約20分、または駅西口からバスで約7分(「橘通2丁目」下車、徒歩5分)。車の場合は外来者用の無料駐車場が利用できます。
周辺の見どころ
本館は宮崎市の中心部に位置するため、半日のまち歩きと組み合わせるのが定番です。
- みやざき物産館KONNE ― 県庁のすぐ隣にあり、マンゴー菓子、鶏の炭火焼、焼酎など、宮崎の特産品が一堂に揃います。試食も豊富です。
- 楠並木朝市 ― 毎月第1日曜日、楠並木通りで開催される朝市。クラフト品やコーヒー、地元グルメの屋台が並びます。
- 橘通り商店街 ― 宮崎市最大の繁華街で、本館から徒歩数分。飲食店やショップが並びます。
- 宮崎科学技術館 ― 九州最大級のプラネタリウムを擁する施設。JR宮崎駅近くです。
- 平和台公園・平和の塔 ― 本館から北へバスで少し、緑に囲まれた園内には埴輪のレプリカが並びます。
- 宮崎神宮 ― 神武天皇を祀る古社。市街地北部の落ち着いた森の中に鎮座します。
Q&A
- 海外からの観光客でも自由に内部を見学できますか?
- はい、可能です。平日の執務時間内であれば玄関ホールや階段、上層階の一部を見学できます。旧議事堂や正庁までしっかり見たい方は、毎月第1日曜日のボランティアガイドツアーへの参加をおすすめします。
- 英語での案内は受けられますか?
- ボランティアガイドの案内は基本的に日本語で行われていますが、英語表記の案内パネルや配布資料が一部用意されています。日本語が分からない方でも、建築そのものを楽しめる工夫がされています。
- 入館料はかかりますか?
- いいえ、自由見学もガイドツアーもすべて無料でご利用いただけます。
- なぜこんなに大きな煙突があるのですか?
- 本館には竣工当時、地下のボイラー室から全館に蒸気を送る暖房システムが完備されていました。煙突はそのボイラーから出る煙を排出するためのもので、当時の地方庁舎としては最先端の設備でした。
- 他の県庁舎と比べてどんな位置づけですか?
- 現役の都道府県庁舎本館としては、大阪府庁舎(1926年)、神奈川県庁本庁舎(1928年)、愛媛県庁本館(1929年)に次いで全国で4番目に古く、九州では現存最古の県庁舎です。昭和初期の緊縮財政期に唯一建設された県庁舎としても貴重な存在です。
基本情報
| 名称 | 宮崎県庁舎本館(みやざきけんちょうしゃほんかん) |
|---|---|
| 指定区分 | 国登録有形文化財(建造物) ― 平成29年(2017年)5月2日登録 |
| 所在地 | 宮崎県宮崎市橘通東二丁目35 |
| 所有者 | 宮崎県 |
| 竣工 | 昭和7年(1932年)10月/1962年・1971年改修 |
| 設計 | 置塩 章(おしお あきら) |
| 施工 | 大林組 |
| 構造 | 鉄筋コンクリート造3階地下1階建、建築面積約2,537㎡、塔屋・煙突付 |
| 建築様式 | ネオ・ゴシック(近代ゴシック様式) |
| アクセス | JR宮崎駅から徒歩約20分/宮崎駅西口よりバス約7分「橘通2丁目」下車、徒歩5分 |
| 見学料 | 無料 |
参考文献
- 文化遺産オンライン|宮崎県庁舎本館
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/222414
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00011605
- 宮崎県:県庁見学、県庁見学ツアー
- https://www.pref.miyazaki.lg.jp/kohosenryaku/kense/koho/kengaku.html
- みやざき観光ナビ|宮崎県庁見学ツアー
- https://www.kanko-miyazaki.jp/feature/kenchokengakutour
- 大林組|OBAYASHI Thinking 宮崎県庁舎
- https://www.obayashi.co.jp/thinking/detail/back001.html
- 宮崎県:県政トピックス「県庁本館が国の文化財に!」
- https://www.pref.miyazaki.lg.jp/contents/org/honbu/hisho/komiya/201706/topics.html
- 宮崎県庁舎 ― Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/宮崎県庁舎
最終更新日: 2026.05.15