住民の手で建った体育館

旧川上小学校体育館は、新潟県上越市牧区切光1438-1にある昭和27年(1952年)建築の木造体育館で、平成24年(2012年)2月23日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

この建物について最初に押さえるべきは、意匠ではなく成り立ちである。国指定文化財等データベースは、地元住民によって建設された建物と記す。

昭和27年当時、牧はまだ独立した村だった。終戦から7年、山間の村に潤沢な学校予算があるはずもない。321平方メートルの体育館が外から与えられる状況ではなかった。だから村がつくった。

構造は木造平屋一部2階建、切妻造の鉄板葺。入口は南の妻面に開く。内部には天井を張らず、小屋組をそのまま見せる。トラス組である。

このトラスには少し立ち止まる価値がある。体育館は床に柱を落とせないため、無柱の大スパンを架けねばならない。加えて豪雪地では、冬の間ずっと数トン規模の積雪荷重を支える必要がある。鉄骨が安価になる以前、戦後日本ではこの二つの条件を木造トラスで解いた。その多くはすでに失われた。ここでは架構の幾何が床から見上げてそのまま読み取れる。大工にとって扱いやすく、最も安く仕上がる方法でもあった。

中二階の礼法室

現存する木造体育館のなかで、この建物を特徴づけるのは礼法室である。入口上部から体育館側へ張り出す中二階に設けられている。

礼法は立ち居振る舞いの作法を指す。戦後の学校には礼法室や作法室と呼ばれる畳敷きの部屋が置かれることが少なくなく、茶の作法などもそこで教えられた。身体の所作を、自然に身につくものではなく明示的に教えるべき事柄として扱った教育観の反映といえる。

その部屋を校舎ではなく体育館の中二階に置き、しかも運動する床の上へ張り出させた構成は珍しい。静止して整えるための空間が、走り回るための空間を見下ろしている。

制度上の位置づけを整理しておく。本件は登録有形文化財であり、重要文化財ではない。重要文化財の指定は歴史的・芸術的に特に価値の高い建造物に限られ、規制も強い。登録制度は平成8年(1996年)に導入された緩やかな仕組みで、評価される前に消えていく近代建築の大量のストックを対象とする。所有者は外観の大きな変更前に届出を行い、建物を使い続ける。本件は登録基準第一の「国土の歴史的景観に寄与しているもの」に該当し、第72回登録である。

牧村は平成17年(2005年)1月の市町村合併で上越市に編入された。所有者は川上地区協議会(公益法人)と登録されている。

訪ねる前に

上越市の登録有形文化財のなかで、この建物は最も気軽に立ち寄りにくい部類に入る。その事実を書いておくほうが役に立つだろう。切光は上越市中心部から南東に入った牧区の山間にあり、公共交通の便は限られる。自動車での訪問が現実的で、冬季はスタッドレスタイヤと相応の運転条件への備えが要る。

受付も公開日程の掲示もない。博物館ではなく、地域が保有する建物である。内部、とりわけトラス架構と礼法室を見たい場合は、上越市教育委員会文化行政課へ事前に問い合わせるのがよい。市は文化財の見学に関する照会先を同課としている。外観の撮影に制約はない。

労を払う価値は、この建物の型そのものが急速に消えつつある点にある。昭和20年代の木造校舎・木造体育館は、かつて全国の農山村にありふれていた。耐震基準、小規模校の統廃合、そして単純な老朽化が、その大半を取り除いた。上越市の国登録有形文化財は50件を超えるが、大多数は高田の町家や酒蔵、商家である。この体育館はそれとは別種の記録にあたる。占領期が終わったその年に、山の集落が子どものために建てられたものの記録である。

年代について一点補足する。国指定文化財等データベースは改修年を和暦欄で平成22年、西暦欄で2011年としている。平成22年は2010年にあたるため、両欄は厳密には一致しない。年度区切りに由来する表記差と考えられる。建築年の昭和27年(1952年)については各資料が一致している。

Q&A

Q旧川上小学校体育館は見学できますか。
A公開日程の掲示や受付はありません。川上地区協議会が所有する地域の建物で、博物館ではありません。内部を見たい場合は上越市教育委員会文化行政課へ事前にお問い合わせください。外観の見学と撮影に制約はありません。
Q旧川上小学校体育館の礼法室とは何ですか。
A立ち居振る舞いの作法を教えるための部屋です。当時の学校に置かれることのあった施設で、この建物では入口上部の中二階に設けられ、体育館の床側へ張り出しています。この配置が本件の特徴です。
Q旧川上小学校体育館は誰が建てたのですか。
A地元住民です。国指定文化財等データベースは地元住民によって建設された体育館と記録しており、この成り立ちが構造的な価値とあわせて登録の理由となっています。
Q旧川上小学校体育館へはどう行きますか。
A上越市牧区切光1438-1、市中心部から南東の山間部に位置します。公共交通の便は限られるため自動車での訪問が現実的です。冬季はスタッドレスタイヤが必要です。
Q旧川上小学校体育館は重要文化財ですか。
A重要文化財ではなく登録有形文化財(建造物)です。平成24年(2012年)2月23日、第72回登録。登録は指定より緩やかな保護制度で、日常的に使われ続ける近代建築を主な対象としています。

基本情報

名称旧川上小学校体育館(きゅうかわかみしょうがっこうたいいくかん)
所在地新潟県上越市牧区切光1438-1
指定区分登録有形文化財(建造物)
指定年平成24年(2012年)2月23日登録(第72回)
員数1棟
寸法木造平屋一部2階建、鉄板葺、建築面積321平方メートル
所有者川上地区協議会(公益法人)
公開状況公開日程の設定なし。見学は上越市教育委員会文化行政課へ要問い合わせ

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「旧川上小学校体育館」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009132
文化遺産オンライン「旧川上小学校体育館」
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/210305
上越市「上越市の文化財」
https://www.city.joetsu.niigata.jp/site/cultural-property/
上越市「登録有形文化財建造物制度」
https://www.city.joetsu.niigata.jp/soshiki/bunkagyousei/tourokuyukei.html

最終更新日: 2026.08.13