旧小澤家住宅離れ ― 昭和初期、二つの様式が同居する一棟

松本市保福寺町の小澤家屋敷、そびえ立つ主屋の東に、四棟のうち最も小さく、そしてある意味で最も意外な建物が建つ。離れは昭和初期、一九二〇年代後半から四〇年代の建築で、地方の富裕な家が和洋の建築様式を自在に選び取れた時代の産物である。何を選び、それらをどう配したか。その答えこそ、この一棟が近隣の三棟とは異なる基準で登録された理由である。

建物は木造二階建、建築面積約六十三平方メートル。入母屋造桟瓦葺の屋根を掛け、北面に玄関、南面に下屋を付す。外から見れば屋敷の他の建物と揃って見える。だが一歩入れば一階は別の相貌を見せ、その上階はさらに違う顔をもつ。

「造形の規範」としての登録

令和三年(二〇二一年)十月、離れは国の登録有形文化財となったが、その基準は他の小澤家三棟とは異なる。主屋と二棟の土蔵が歴史的景観への寄与で登録されたのに対し、離れは「造形の規範となっているもの」として登録された。同種の建築の手本と認められた建物に用いられる区分である。この違いは立ち止まる価値がある。審査が、この建物を立地だけでなく、その造りゆえに評価したことを示すからである。

その論拠は一階に集まる。玄関ホールや洋室は、壁と折上天井を白漆喰で仕上げる。折上天井は縁で一段持ち上げてから平天井へ移る形式である。腰は板張とし、室内にはステンドグラスや絵タイルを装飾として嵌める。戦間期の日本に広がった、輸入の細部を和の間取りへ溶かし込んだ、明るく軽やかな近代の手つきである。ところが階段を上がれば語彙は一変する。二階は続き間の座敷が連なり、最も素朴で伝統的な調子に戻る。各階とも建ちが高く、ガラス戸を多用するため、この小さな建物のすみずみまで光がよく回る。

見どころ

一階の諸室にはゆっくり時間をかけたい。ここでの愉しみは小さなものに宿る。折上の漆喰が隅の角をやわらげる具合、晴れた午後にステンドグラスが白壁へ投げかける色、絵タイルの一組がつくる文様。どれも声高ではない。一階全体が抑制の勉強のようであり、輸入の飾りは周囲の室が静かであるほど生きると心得た職人の仕事である。

次に、隣り合う主屋との関係に目を向けたい。離れは主屋東側の接客空間に接続しており、二棟は一体で働くよう意図されていた。格式ある和室から、より寛いだ近代の空間へと流れる。二棟を組で読めば、二十世紀初頭に地方の有力な家がどのように暮らし、客をもてなしたか、その幅が見えてくる。令和元年度に始まった改修を経て、離れと主屋は喫茶店・宿泊施設として使われており、これらの内部に直に触れる最も現実的な道でもある。個人が運営する物件のため、四賀へ足を運ぶ前に公開状況を確認したい。

Q&A

Qなぜ離れだけ登録基準が違うのですか。
A主屋と二棟の土蔵は歴史的景観への寄与で登録されました。離れは「造形の規範となっているもの」、すなわち同種の建築の優れた手本と認められた区分での登録で、その内部の質を反映しています。
Q内部の見どころは何ですか。
A一階は和の家に洋の細部を織り込みます。白漆喰の折上天井、板張の腰、ステンドグラスや絵タイルなどです。上階は伝統的な続き間の座敷が連なります。
Q離れはいつのものですか。
A昭和初期、およそ一九二〇年代後半から四〇年代の建築です。大正二年の主屋や、江戸・明治の土蔵より新しく、令和二年頃に改修されました。
Q折上天井とは何ですか。
A天井の縁を一段持ち上げ、曲面や斜面を介して平らな中央へ移す形式です。室に高さと仕上げの品格を与えます。ここでは白漆喰で仕上げています。
Q中を見られますか。
A改修後、離れと主屋は喫茶店・宿泊施設として営まれており、内部に入る機会があります。公開施設ではなく個人による運営のため、事前に日時や条件を確認してください。

基本情報

名称旧小澤家住宅離れ(きゅうおざわけじゅうたくはなれ)
所在地長野県松本市保福寺町246
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 20-0587
登録年月日令和3年(2021年)10月14日(基準:造形の規範となっているもの)
年代昭和初期(1926~1945年頃) 令和2年頃改修
員数1棟
構造木造2階建、瓦葺(入母屋造)、建築面積約63㎡
所有者合名会社(小澤家 個人所有)
公開喫茶店・宿泊施設として活用。訪問前に公開状況を確認

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) — 旧小澤家住宅離れ
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00014000
松本市 — 旧小澤家住宅〔4棟〕
https://www.city.matsumoto.nagano.jp/soshiki/134/3796.html
松本市 — 国登録文化財
https://www.city.matsumoto.nagano.jp/soshiki/134/51915.html

最終更新日: 2026.07.10