本棟造のかたちを定めた一軒

主屋の正面は桁行12.7メートル、奥行きにあたる梁間は16.1メートル。正方形に近い平面に、勾配のゆるい切妻屋根が乗る。出入口は長い側面ではなく、屋根の三角形が見える妻側に開く。この妻入りの構えと、低く広がる屋根、そして内部の太い軸組が、長野県の中信・南信地方に広がる民家形式「本棟造」の特徴である。

嶋﨑家住宅が他と異なるのは、その古さにある。建てられたのは江戸中期の享保年間、西暦でいえば1716年から1735年のあいだで、本棟造というかたちが完成した姿で現れた最も早い例として挙げられることが多い。建物は今も塩尻市の東側、片丘の農村地帯に建っている。

本棟造という民家

本棟造は松本盆地とその南の谷あいで育った形式で、雪と山風の強い土地の暮らしが建てかたを決めた。屋根は浅い角度で葺かれ、もとは板を並べて石で押さえる石置板葺だった。現在屋根を覆う鉄板とともに、この古い葺きかたは建物の構造説明にも記録されている。棟の両端には破風板を交差させた飾りが置かれることがあり、これを雀おどしと呼ぶ。風で屋根端の板が浮かないための工夫から始まり、やがて地方色を示す目印になっていった。

間取りは、一方に土間を通し、もう一方に床上の部屋を並べた正方形に近いものが多い。かたちには社会的な意味も込められていた。均整のとれた大きな本棟造は有力な農家の格を示し、よくできた家ほど客を迎える座敷に手の込んだ造作を割いている。

重要文化財に指定された理由

嶋﨑家住宅は昭和48年(1973年)6月2日に国の重要文化財に指定された。文化庁は、完成された本棟造の古い例でありながら構造に古さがよく表れていると評している。これは、軸組や仕口に、のちの民家では整理されていった古い手法が残っているという意味である。

とりわけ注目されたのが二点ある。座敷を三部屋とるために、そのうちの一室を主屋の長方形から外へ張り出させた点で、この突出部が平面に不規則な輪郭を与えている。三部屋の座敷を仕切る建具の上に入れた透かし彫りの欄間も、その意匠が評価された。農家でありながら客間に装飾を集めていることが、村におけるこの家の位置を示している。

見どころ

妻側から近づくと正面の構成がよくわかる。屋根の大きな三角形、その下に開いた入口、そして南北両面に沿って長く水平に伸びる庇。今見える屋根は石置板葺に代わる後補の鉄板葺だが、勾配の低さが古い均整を保っている。

南面の突出部は主屋とは表情が異なる。本体の切妻に対してこちらは入母屋造で、桁行5.2メートル、梁間6.1メートルの独立したまとまりとして、三つの座敷のうち一室を収める。座敷に入れる場合は、建具の上にある欄間を見上げてほしい。その彫りこそ、指定が取り上げた細部である。

築三百年に近い建物だから、木そのものをゆっくり見る価値がある。18世紀前半の大工が刻んだ柱や梁には、道具の跡と、新しい建物には真似のできない落ち着いた風合いが残る。

訪ねる前に

嶋﨑家住宅は資料館ではなく、今も個人が暮らす住宅であり、決まった日時に一般公開しているわけではない。見学を望む場合は、事前に塩尻市教育委員会文化財課へ問い合わせ、現在の見学可否を確認するとよい。所在地は塩尻市片丘8066番地の1で、JR塩尻駅から、あるいは長野自動車道塩尻インターチェンジから車で向かう。

古い建物に関心があるなら、塩尻はゆっくり巡る価値がある。市内には国指定重要文化財の民家が七件あり、18世紀後半の本棟造である堀内家住宅もそのひとつ。平出遺跡は縄文から平安にいたる大集落跡を残す。現在の市域には二つの伝統的建造物群保存地区がある。中山道の宿場町である奈良井宿と、漆工町の木曽平沢で、木曽平沢では木曽漆器館がこの地の漆器の道具と製品を展示している。

Q&A

Q家の中に入って見学できますか。
A個人の住宅で、決まった公開日はありません。見学できるかどうか、また方法については、事前に塩尻市文化財課へお問い合わせください。
Q本棟造とは何ですか。
A中信・南信地方に分布する民家の形式です。妻入りの入口、勾配のゆるい切妻屋根、棟に交差させた雀おどしと呼ぶ飾りなどが目印になります。
Qなぜこの家が重要なのですか。
A享保年間(1716〜1735年)の建築で、本棟造が完成した姿で現れた最も古い例とされ、構造に古い手法がよく残っているためです。
Q塩尻市の嶋家住宅と同じですか。
A別の建物です。旧北熊井の嶋家住宅とは異なります。この記事で扱うのは片丘にある嶋﨑家住宅です。
Q近くに見られる場所はありますか。
A堀内家住宅、平出遺跡、そして奈良井宿と木曽平沢の保存地区が、いずれも塩尻市内にあります。

基本データ

名称嶋﨑家住宅(しまざきけじゅうたく)
所在地長野県塩尻市片丘8066番地の1
指定区分重要文化財(建造物) 昭和48年(1973年)6月2日指定
種別近世以前の民家 本棟造
時代江戸中期 享保年間(1716〜1735年)
員数1棟
構造主屋:桁行12.7メートル、梁間16.1メートル、切妻造、妻入、鉄板葺(もと石置板葺)、南面・北面に庇/南面突出部:桁行5.2メートル、梁間6.1メートル、入母屋造、板葺
所有者個人
見学個人住宅のため、見学可否は塩尻市教育委員会文化財課(電話 0263-52-0904)に要確認

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/967
文化遺産オンライン 嶋﨑家住宅(長野県塩尻市片丘)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/121977
塩尻市 国の文化財
https://www.city.shiojiri.lg.jp/site/bunkazaihouhou/3738.html
塩尻市観光協会 国 重要文化財の民家
https://tokimeguri.jp/guide/kuni-juubunn/

最終更新日: 2026.06.04