元興寺境内地境に建つ台形平面の蔵

近田家住宅蔵(ちかだけじゅうたくくら)は、奈良県奈良市鵲町にある木造平屋一部二階建の蔵で、昭和8年(1933年)頃の建築、平成26年(2014年)4月25日に登録有形文化財(建造物)に登録された。

位置がこの建物の性格を決めている。敷地は元興寺東辺の街路から西へ細長く伸び、蔵はその最奥、私有地と元興寺境内地との境界線に接して建つ。国宝極楽坊本堂・禅室を擁し、世界遺産「古都奈良の文化財」の構成資産となっている寺域の縁と、一軒の商家の蔵の背面とが、同じ一本の線を共有している。

建築面積は28平方メートル。屋根は切妻造、桟瓦葺。平面は北妻の梁間が南より短い台形をなし、壁は平行に立たない。台形平面は選択された意匠ではなく、敷地境界と他の建物の配置が決まったあとに残った形状である。

撤去された蔵前座敷と屋敷構成

登録の根拠となった価値は、すでに現存しない部分に関わる。

当初、蔵の東側に隣接して蔵前座敷が設けられ、蔵・蔵前座敷・土間の三者に一体の屋根が架けられていた。奈良市文化財課はこの形態について、奈良町ではあまり例をみないと記す。蔵と座敷は本来性格の異なる建物であり、両者を同一の屋根面の下に納める構成は、類型としてではなく個別の解として選ばれたものと考えられる。

平成20年(2008年)の改修で蔵前座敷は撤去された。残されたのは蔵本体だが、奈良市は現存部分から当初の計画意図が読み取れるとする。狭隘な敷地に家業である材木置き場を確保しつつ居住スペースをも要したという条件が、機能を平面に展開するのではなく一体の屋根の下に重ねるという解法を導いたという理解である。

登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」、登録番号29-0208、第77回登録。同一敷地の主屋が同日付で29-0207として登録されている。奈良市は本件を、奈良町でも珍しい屋敷構成を伝え、昭和前期の奈良町の商家の屋敷形態を示す貴重な遺構と評価する。保護の対象は立面ではなく敷地の使い方にある。

段違いの棟と外壁の構成

屋根は段違いとする。南半の棟を北半より下げ、一直線の棟としていない。規模の小さい建物であるため見落としやすく、また損傷や後補と誤読されやすい箇所だが、いずれでもない。

外壁は漆喰塗、腰は竪板張とする。防火と耐候の観点から蔵の外壁に漆喰を用いるのは通例だが、腰部を板張とするのは地面からの跳ね返りに対する処置で、漆喰の劣化が最も進みやすく、かつ補修の手間がかかる高さを板で覆う構成である。

東面の南寄りに戸口を開き、瓦葺の庇を差し掛ける。内部は南半を土間とし、西に扉を開く。北半は床板張として蔵の本体をなす。奈良市の解説は、土間との境に板敷きを設けることを付記している。

ただし、これらを実見する手段はない。本件は個人所有で、居住中の主屋の背後、敷地最奥に位置する。内部公開はなく、公開日の設定もない。公道から外観を望むこともできず、街路から正面を眺められる主屋とは条件が異なる。

現地での接し方としては、元興寺東側の街路を歩き、近田家住宅主屋を含む登録町家の正面を見たうえで、それらの敷地が背後に深く伸びて寺域の境界まで達しており、この蔵がその奥行を埋める要素のひとつであることを踏まえる、という間接的な形になる。交通は近鉄奈良駅から徒歩約15分、JR奈良駅から徒歩約20分、奈良交通バス福智院町下車徒歩約5分。元興寺は有料で拝観でき、境内の浮図田には中世から江戸期の石造物約1500基が並ぶ。8月23日、24日には地蔵会万灯供養が営まれる。

Q&A

Q近田家住宅蔵を見学することはできますか。
A事実上できません。近田家住宅蔵は居住中の主屋の背後、個人所有の敷地最奥に建ち、内部公開も公開日の設定もありません。公道からの外観の視認も困難です。登録有形文化財は所有者に公開義務を課す制度ではありません。
Q近田家住宅蔵はどこにありますか。
A奈良県奈良市鵲町19-1、近田家住宅主屋と同一敷地の西奥です。西側は元興寺境内地との境界に接します。元興寺は世界遺産「古都奈良の文化財」の構成資産のひとつです。
Q近田家住宅蔵の平面が台形になっているのはなぜですか。
A北妻の梁間が南より短いため壁が平行になりません。細長く不整形な敷地に、家業の材木置き場と居住空間を同時に確保する必要があったことから生じた形状と理解されています。
Q近田家住宅蔵にあった蔵前座敷とは何ですか。
A蔵の東側に隣接して設けられていた座敷で、蔵・蔵前座敷・土間に一体の屋根が架けられていました。奈良市文化財課はこの形態を奈良町ではあまり例をみないものとしています。平成20年(2008年)の改修で撤去されました。
Q近田家住宅蔵はいつ登録され、登録番号は何番ですか。
A平成26年(2014年)4月25日、第77回登録で登録番号29-0208です。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。同一敷地の主屋は同日付で29-0207として登録されています。
Q近田家住宅蔵の代わりに周辺で見学できる場所はありますか。
A敷地の西に接する元興寺が拝観可能で、極楽坊本堂と禅室はともに国宝です。周辺の奈良町には公開されている町家が複数あり、元興寺東側の街路には登録町家の正面が連続して残ります。

基本情報

名称近田家住宅蔵(ちかだけじゅうたくくら)
所在地奈良県奈良市鵲町19-1
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号29-0208
指定年平成26年(2014年)4月25日登録(第77回登録)
員数1棟
寸法木造平屋一部2階建、瓦葺、建築面積28平方メートル
所有者個人
公開状況非公開。公道からの外観視認も困難

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース — 近田家住宅蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010032
奈良市 文化財課 — 近田家住宅主屋、蔵
https://www.city.nara.lg.jp/site/bunkazai/8424.html
文化庁 国指定文化財等データベース — 近田家住宅主屋(同一敷地)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010031
奈良市 — 登録有形文化財一覧
https://www.city.nara.lg.jp/site/bunkazai/10196.html
奈良県 — 県内 登録有形文化財の状況
https://www.pref.nara.lg.jp/documents/22241/bunkazaiitiran.pdf
元興寺 — 各建物の特徴と説明
https://gangoji-tera.or.jp/watch/feature.html
元興寺 — アクセス
https://gangoji-tera.or.jp/access/

最終更新日: 2026.08.24