宮山古墳:1,600年の時を超えて王の棺に出会える唯一の古墳

奈良盆地の南西端、御所市室に位置する宮山古墳(室宮山古墳・室大墓とも呼ばれる)は、5世紀前葉に築造された全長238メートルの巨大前方後円墳です。葛城地方最大の規模を誇り、全国でも第18位の大きさを持つこの古墳は、大正10年(1921年)に国の史跡に指定されました。多くの大型古墳が陵墓として立ち入りが禁じられている中、宮山古墳は墳丘に自由に登ることができ、さらに竪穴式石室に納められた長持形石棺を間近に見学できる全国唯一の場所として、古墳ファンのみならず歴史愛好家を惹きつけ続けています。

なぜ国指定史跡に選ばれたのか

宮山古墳が国の史跡に指定された最大の理由は、古墳時代前期から中期への転換期にあたる5世紀前葉という重要な時期に、南葛城地域に突如として出現した大首長墓であるという歴史的意義にあります。この地域にそれまでの系譜を引かない巨大古墳が現れたことは、当時の大きな政治的変動を物語っており、古墳時代の権力構造を理解するうえで欠かせない遺跡です。

被葬者については、古くは武内宿禰の墓とする伝承がありましたが、現在は葛城襲津彦(かつらぎのそつひこ)とする説が有力です。葛城襲津彦は『古事記』『日本書紀』に登場する人物で、朝鮮半島の新羅との戦いにおける日本軍の指揮官であり、有力豪族・葛城氏の祖とされています。その娘は仁徳天皇の皇后となった人物です。一方で、宮跡がこの付近にあったとされる第6代孝安天皇の陵墓とする説も存在します。

さらに注目すべきは、この古墳の築造を契機として、背後の巨勢山丘陵に総数約700基にも及ぶ巨勢山古墳群が形成されていったことです。一つの大型古墳がこれほど大規模な古墳群の形成につながったという事実は、当時の社会構造の大変動を示す貴重な証拠です。2022年と2024年には保護区域が追加拡大され、その学術的価値がさらに評価されています。

古墳の構造と特徴

宮山古墳は巨勢山山塊の北麓の尾根を利用して築かれた前方後円墳で、主軸をほぼ東西方向に向けています。後円部を東に、前方部を西に配し、墳丘は三段に築成されています。後円部は直径約105メートル、高さ約25メートル。前方部は幅約110メートル、高さ約22メートル。くびれ部の幅は約75メートルを測ります。

墳丘の各段の斜面には花崗岩の葺石が施され、平坦部には円筒埴輪が整然と並べられていました。後円部の最上段には直径38メートル、高さ3メートルの円丘段があり、その上面には盾形・甲冑形・靫形・家形などの豪華な形象埴輪と円筒埴輪が方形に配列されていました。とりわけ南石室の外側の埴輪列は、甲冑・盾・靫形埴輪を外向きに並べており、あたかも武装した親衛隊が石室への侵入を阻止するかのような配置で、被葬者の権威を雄弁に物語っています。

墳丘の周囲には盾形の周濠が巡り、北側の周堤上にはネコ塚古墳と呼ばれる一辺約60〜70メートルの大型方墳(陪塚)が築かれています。このような大規模な陪塚を伴うことからも、被葬者の圧倒的な権力をうかがい知ることができます。

「大王の柩」長持形石棺の魅力

宮山古墳の最大の見どころは、後円部南側の竪穴式石室に納められた長持形石棺です。長持形石棺は5世紀代の大王墓級の古墳のみに許された格式の高い石棺であり、宮山古墳の被葬者が当時の最高位の権力者であったことを示しています。

この石棺の石材は、遠く兵庫県加古川流域から運ばれた竜山石(たつやまいし)で、底石1枚・側石2枚・小口石2枚・蓋石1枚の計6枚の切石で構成されています。蓋石の長さは縄掛突起を含めて3.77メートルという壮大なもので、上面には8区画の亀甲形装飾が彫られ、各辺に2個ずつ計6箇所の縄掛突起が付いています。また側石にも各辺2対ずつの縄掛突起があり、合計8個の突起が石棺全体に配されています。石棺の全面には朱(赤色顔料)が塗られており、現在もその痕跡を確認することができます。

蓋石上面の格子亀甲文と呼ばれる矩形の装飾的な窪みは、大阪の津堂城山古墳にしか類例がなく、実物を見学できるのはこの宮山古墳だけという極めて貴重な資料です。竪穴式石室に長持形石棺が安置されたままの状態で見学できる場所は全国でここだけであり、古代の王の埋葬の姿を直接体感できる稀有な機会を提供しています。

出土品が語る古代の権力と交流

南側石室は残念ながら古くに盗掘を受けていましたが、それでも多くの貴重な遺物が発見されています。三角縁神獣鏡の破片十数点、三角板革綴短甲約一領分、鉄剣・直刀の破片多数、そして滑石製勾玉623個をはじめとする大量の玉類・石製模造品が出土しており、当初の副葬品がいかに豪華であったかを物語っています。

前方部からは明治41年(1908年)の開墾時に漢式鏡11面と滑石製勾玉29個、管玉7個を含む玉類が発見されました。さらに戦時中の開墾では木棺の一部とみられる高野槙の板材や刀剣類も確認されています。北側石室には南石室と同様に竜山石製の長持形石棺の存在が判明しており、注目すべき副葬品として朝鮮半島の伽耶地域産とみられる船形陶質土器が出土しています。この発見は、被葬者が大陸と積極的なつながりを持っていたことを示す重要な証拠です。

出土した埴輪や遺物の一部は奈良県立橿原考古学研究所附属博物館に常設展示されています。また御所市文化財展示室でも解説パネルとともに実物を目にすることができますので、古墳見学と併せて訪れることをおすすめします。

見学ガイド:室八幡神社から王の石室へ

宮山古墳への入口は、後円部東側に鎮座する室八幡神社の境内にあります。ご祭神は誉田別尊(応神天皇)で、古くからこの古墳と深い関わりを持つ神社です。「宮山」という名称も、この八幡神社に由来しています。

拝殿の左手から古墳へのアクセスルートが伸びており、石段を登っていくと後円部の頂上に到着します。頂上付近には大きな靫形埴輪のレプリカが置かれ、その先に南石室の開口部があります。開口部から中を覗くと、薄暗い空間の中に堂々と横たわる長持形石棺を見ることができます。開口部近くには見学用ライトの入った郵便受けが設置されていることもありますが、念のため小型の懐中電灯を持参されることをおすすめします。

見学所要時間は、墳丘の登り降りを含めて30分から1時間程度です。石段や不整地がありますので、歩きやすい靴でお越しください。見学は無料で、日中であれば通年可能です。なお、駐車場やトイレは古墳にはありませんので、事前にお済ませください。

周辺の見どころ

宮山古墳の周辺には、古代史の魅力を堪能できるスポットが点在しています。背後の巨勢山丘陵に広がる巨勢山古墳群は約700基の古墳で構成され、その中でも最大の條ウル神古墳は大型の横穴式石室を持つ国指定史跡として近年注目を集めています。

御所市古瀬にある水泥古墳は、6世紀末から7世紀初頭に築造された一対の円墳で、横穴式石室内の石棺に蓮華文様が刻まれた珍しい例として知られ、古墳文化と仏教文化の融合を示す貴重な遺跡です。また、日本武尊白鳥陵(伝承地)も徒歩圏内にあり、伝説の英雄の墓所として知られています。

御所市内には歴史的な町並みが残る御所まちがあり、伝統的な商家の風情を楽しむことができます。また、葛城山や金剛山では四季折々のハイキングが楽しめ、奈良盆地を一望できる絶景スポットとしても人気があります。古墳見学の後は、御所市の豊かな自然と歴史文化をゆっくりと味わってみてはいかがでしょうか。

Q&A

Q宮山古墳の石室の中に入ることはできますか?
A石室内部に直接入ることはできませんが、後円部頂上の南石室の開口部から中を覗き、長持形石棺を間近に見ることができます。大型古墳で竪穴式石室に納められた長持形石棺をこのように見学できるのは、全国でも宮山古墳だけです。
Q見学料金と見学可能な時間を教えてください。
A見学は無料です。屋外の史跡ですので、日中の明るい時間帯であれば通年見学可能です。室八幡神社の境内を通って墳丘にアクセスします。
Q公共交通機関でのアクセス方法は?
A近鉄御所駅から南へ約3.3キロメートルの位置にあります。JRまたは近鉄御所駅からバスで約10分です。徒歩の場合は御所駅から約40分ほどで、のどかな田園風景の中を歩くことができます。
Qおすすめの見学時期はいつですか?
A春(3月〜5月)と秋(10月〜11月)が墳丘を登るのに最も快適です。初夏の青田や秋の黄金色の稲穂に囲まれた古墳の姿も格別です。雨天後は足元が滑りやすいため、天気の良い日をおすすめします。
Q出土品はどこで見ることができますか?
A出土した埴輪や副葬品の一部は、奈良県立橿原考古学研究所附属博物館に常設展示されています。また、御所市文化財展示室でも解説付きで実物を見ることができます。古墳見学と合わせて訪れることで、より深く宮山古墳を理解することができます。

基本情報

名称 宮山古墳(みややまこふん)/室宮山古墳(むろみややまこふん)・室大墓(むろのおおはか)
墳形 前方後円墳(三段築成)
築造時期 5世紀前葉(古墳時代中期初頭)
全長 238メートル(全国第18位)
後円部 直径約105m、高さ約25m
前方部 幅約110m、高さ約22m
文化財指定 国指定史跡(大正10年3月3日指定、令和4年・令和6年追加指定)
推定被葬者 葛城襲津彦(有力説)
所在地 奈良県御所市室
アクセス 近鉄御所駅から南約3.3km、JR・近鉄御所駅からバス約10分
見学料 無料
駐車場 なし(室八幡神社付近に若干の路肩スペースあり)
トイレ なし
管理 御所市教育委員会

参考文献

宮山古墳 — 御所市観光ホームページ
https://www.city.gose.nara.jp/kankou/0000001448.html
室宮山古墳(指定名:宮山古墳) — 奈良県歴史文化資源データベース「いかす・なら」
https://www.pref.nara.jp/miryoku/ikasu-nara/bunkashigen/main00210.html
宮山古墳 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/217029
宮山古墳 — ごせのね(御所市プロモーションサイト)
https://gosenone.com/spot/523/
史跡宮山古墳・史跡巨勢山古墳群保存活用計画 — 御所市
https://www.city.gose.nara.jp/0000003625.html
Muro Miyayama Kofun — Wikipedia (English)
https://en.wikipedia.org/wiki/Muro_Miyayama_Kofun

最終更新日: 2026.03.06