佐保会館:奈良女子大学に息づく昭和初期の近代和風建築

奈良女子大学の緑豊かなキャンパスの北端に、佐保川を背にして静かにたたずむ佐保会館。1928年(昭和3年)に竣工したこの瀟洒な木造2階建ての同窓会館は、皇太子殿下(のちの昭和天皇)の御成婚を記念して建設されました。奈良県吉野出身の建築家・岩崎平太郎による設計で、堂々とした入母屋造の屋根、和室と洋室を巧みに配した内部空間、そして奈良ホテルにも通じる格調高い和風の外観が特徴です。2005年に国の登録有形文化財に登録されたこの建物は、日本における女子高等教育の歴史と、古都奈良の近代和風建築の伝統を今に伝える貴重な文化遺産です。

歴史的背景

佐保会館の歴史は、奈良女子高等師範学校の歩みと深く結びついています。同校は1908年(明治41年)、日本で2番目の女子高等師範学校として奈良に設置されました。1914年(大正3年)には、第1期・第2期の卒業生によって同窓会組織「佐保会」が発足します。「佐保」の名は、校舎が位置する奈良市北部の地名に由来し、万葉集にも詠まれた佐保川の美しい風景にちなんでいます。

1924年(大正13年)、皇太子殿下の御成婚を記念する事業として、同窓会館の建設が企画されました。設計は奈良県吉野出身の建築家・岩崎平太郎(1893〜1984)に依頼され、施工は地元の尾田利吉(尾田組)が担当しました。1928年(昭和3年)9月に竣工し、同年10月に落成式が行われています。建築費26,683円20銭は、当時の佐保会員と母校教職員の醵金(寄付)によって賄われました。会員一人ひとりの母校への深い思いが結実した建物といえるでしょう。

文化財としての価値

佐保会館は2005年(平成17年)12月26日、国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録にあたっては、「和室と洋室を備え、内部は巧みな平面計画と落ち着いた意匠でまとめられており、外観を和風とする昭和初期の木造近代建築として重要である」と評価されています。

近代の奈良では、1895年(明治28年)の奈良県庁以降、奈良県物産陳列所(1902年)、旧奈良県立図書館(1908年)、奈良ホテル(1909年)など、古都の景観を意識して和風の意匠を用いた木造建築が次々と建てられました。佐保会館もこの系譜に連なる建物であり、古都奈良における和風の木造近代建築の一つとして重要な位置を占めています。また、奈良女子高等師範学校という日本の女子高等教育史上に重要な学校の同窓会館として、教育史的な価値も高く評価されています。

建築の見どころ

佐保会館は、桁行約23.9メートル、梁間約12.1メートル、木造2階建、入母屋造、桟瓦葺の建物です。正面西寄りには入母屋造妻入の車寄が設けられ、建築面積は324平方メートルに及びます。

外観

外観は真壁造で、下部を竪板張り、上部を漆喰塗りとし、縦長の上下窓を四面に連続して配しています。2階や車寄の柱頭には舟肘木を置き、妻飾りには豕扠首(いのこさす)を用いるなど、奈良ホテルとの類似性が顕著に見られます。白と茶のコントラストが美しい、堂々とした和風の佇まいです。

1階:和室と応接空間

車寄から玄関ホールに入ると、東西に廊下が通り、南側には12畳半と10畳の二間続きの大きな座敷があります。床の間には磨き丸太を用い、違い棚には天袋と筆返しを備え、斜め格子の付書院を構えています。天井は猿頬天井、欄間には竹の節欄間が用いられ、華美すぎない丁寧な造りが随所に見られます。

特筆すべきは、座敷と納戸を仕切る透かし欄間です。桜・梅鉢・半開梅・捻梅の透かし彫りを入れた4枚の板が、川の流れを形作るようにはめ込まれています。これは、大学の裏手を流れる佐保川とその河川敷に植えられた桜・梅を見立てたものと考えられており、建物の名に込められた風景への愛着を感じさせます。

2階:大ホール

階段を上がると、擬宝珠高欄の親柱がある階段ホールを経て、大ホールに至ります。折上格天井の迫力ある天井には、金属製の笠に猪目(いのめ)の透かし彫りが並ぶ独特の照明が吊り下げられています。この猪目文様は黒板などの調度品にも見られ、設計者・岩崎平太郎によるオリジナルの装飾と考えられています。小屋組にはキングポストトラスが用いられており、伝統と近代の融合を構造面にも見ることができます。

平成の大改修

2006年(平成18年)から2007年にかけて、耐震補強と保存を目的とした大改修工事が行われました。設計監理は奈良女子大学卒業生の一級建築士・石井智子氏が担当し、伝統工法や自然素材を用いて歴史的建造物の良さを残す配慮が随所になされています。改修費用約1億3,154万円は、佐保会員をはじめとする関係者からの醵金によって賄われました。

見学・アクセス情報

佐保会館は奈良女子大学の構内に位置しています。同窓会館としての性格上、一般見学には事前の問い合わせが必要です。佐保会の活動目的に合致する会合やイベントでの利用が可能で、利用日時は原則として月曜日から金曜日の10時から16時(祝日および夏期・年末年始休館)となっています。

なお、同じキャンパス内にある奈良女子大学記念館(旧本館、重要文化財)は、秋季を中心に一般公開が行われています。記念館とあわせて訪れることで、明治〜昭和初期の大学建築の変遷を楽しむことができるでしょう。

最寄り駅は近鉄奈良駅で、1番出口から北へ徒歩約5分です。大学の南門から構内に入り、北端に位置する佐保会館へ向かいます。JR奈良駅からは奈良交通バスで約5分、バス停下車後徒歩約5分です。

周辺の見どころ

佐保会館は奈良市の中心部に位置しており、徒歩圏内に数多くの世界遺産や名所があります。大学キャンパスの見学と組み合わせて、以下のスポットを巡ることができます。

  • 奈良女子大学記念館(重要文化財)——同じキャンパス内に建つハーフティンバー様式の洋風木造建築。佐保会館とは対照的な西洋風の意匠が見どころです。
  • 東大寺・大仏殿——徒歩約15分。世界最大級の木造建築である大仏殿と、奈良の大仏として親しまれる盧舎那仏坐像は必見です。
  • 奈良公園——徒歩約10分。千頭を超える鹿が自由に歩き回る広大な公園で、四季折々の風景を楽しめます。
  • 興福寺——徒歩約10分。五重塔や国宝館の仏像群で知られるユネスコ世界遺産の寺院です。
  • 奈良きたまち——大学周辺に広がる風情ある旧市街エリア。伝統的な町家を活用したカフェや雑貨店が点在し、静かな散策が楽しめます。
  • 佐保川の桜並木——大学の裏手を流れる佐保川沿いは、春の桜の名所として知られ、奈良公園ほど混雑しない穴場の花見スポットです。

Q&A

Q佐保会館は一般の方でも見学できますか?
A佐保会館は同窓会館として使用されているため、一般見学には事前の問い合わせが必要です。大学の特別公開イベント時などに内部が公開されることがあります。同じ構内にある奈良女子大学記念館は、秋季を中心に定期的に一般公開されています。
Q佐保会館の設計者はどなたですか?
A奈良県吉野出身の建築家・岩崎平太郎(1893〜1984)の設計です。岩崎は日本の伝統的な建築様式と近代的な建築技術の両方に精通しており、奈良の近代和風建築の重要な担い手として知られています。
Q佐保会館へのアクセス方法を教えてください。
A近鉄奈良駅の1番出口から北へ徒歩約5分です。奈良女子大学の南門から構内に入り、キャンパス北端に位置する佐保会館へ向かいます。京都から近鉄特急で約35分、大阪難波から近鉄快速急行で約35分で近鉄奈良駅に到着します。
Q「佐保」という名前にはどのような意味がありますか?
A「佐保」は大学キャンパスが位置する奈良市北部の歴史的な地名です。万葉集にも詠まれた佐保川の桜並木で知られ、古くから風雅な土地として親しまれてきました。同窓会「佐保会」の名もこの地名に由来しています。
Q佐保会館はどのような文化財指定を受けていますか?
A2005年(平成17年)12月26日に、国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。外観を和風とする昭和初期の木造近代建築として、巧みな平面計画と落ち着いた意匠が評価されています。

基本情報

名称 佐保会館(さほかいかん)
所在地 奈良県奈良市北魚屋西町(奈良女子大学構内)
所有者 一般社団法人佐保会(奈良女子大学同窓会)
設計 岩崎平太郎(1893〜1984)
施工 尾田利吉(尾田組)
竣工 1928年(昭和3年)9月
構造 木造2階建、入母屋造、桟瓦葺、建築面積324㎡
文化財指定 国登録有形文化財(建造物)/2005年(平成17年)12月26日登録
アクセス 近鉄奈良駅1番出口より徒歩約5分
問い合わせ 佐保会事務局:TEL 0742-23-3805 / FAX 0742-22-4144

参考文献

一般社団法人 佐保会 — 佐保会館
https://www.nara-wu.ac.jp/dousoukai/sahokai/SAHOhall.html
文化遺産オンライン — 佐保会館
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/118074
大和モダン建築 — 奈良女子大学佐保会館|ハイカラ女子大にも近代和風
https://nara-atlas.com/construction/wooden/658/
美術評論+ — モダン都市・奈良の風景を撮る 奈良女子高等師範学校とその時代
https://critique.aicajapan.com/1692
Wikipedia — 佐保会
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BD%90%E4%BF%9D%E4%BC%9A
奈良女子大学 アクセスマップ
https://www.nara-wu.ac.jp/nwu/intro/access/map/

最終更新日: 2026.04.01