万内川砂防施設とは

万内川砂防施設は、新潟県妙高市大字西野谷の万内川と支流の日影沢・クズレ沢に、大正10年(1921年)から昭和9年(1934年)頃にかけて築かれた砂防堰堤・床固工・斜路工の一群で、平成15年(2003年)に14件が登録有形文化財に登録された。新潟県で最初に行われた砂防事業の施設群であり、万内川は「新潟県砂防発祥の地」とされる。

登録は2回に分かれている。平成15年3月18日に万内川の砂防堰堤11基(10件)が、同年7月1日に日影沢の床固工群3件とクズレ沢斜路工1件が登録された。所有者はいずれも新潟県で、上越地域振興局妙高砂防事務所が管理している。どの施設も文化財であると同時に、現役の防災施設として働き続けている。

万内川は、妙高市西部の粟立山(標高1,194メートル)の北に源を発し、延長約7キロメートルで関川水系に属する砂防河川である。日影沢は万内川の右岸側に合流する支流で、クズレ沢はさらに日影沢の中流域に右岸側から合わさる小さな沢である。土木学会はこの一群を「万内川砂防堰堤群・日影沢床固工群」として、平成29年度(2017年)の選奨土木遺産に選んでいる。

明治35年の粟立山崩壊と県内初の砂防

明治35年(1902年)5月19日、粟立山が大きな音とともに崩れ、万内川と日影沢を土砂で埋めた。崩れた土砂は雪どけ水と合わさって土石流となり、下流の西野谷集落を襲った。53戸のうち30戸が流され、田畑のほとんどが失われたが、山の異変に気づいた村人がすばやく避難したため、死者は1名にとどまったと新潟県は記している。

この災害のあとも土砂の流出は止まらず、大正10年(1921年)、日影沢からの土砂流出をきっかけに、新潟県は万内川で県内初の砂防事業に着手した。国の補助を受けた県の事業である。県の探検マップは、当時の砂防には高く頑丈な堰堤を一つ築く方法と、低い堰堤を階段状に連ねる方法があり、万内川ではヨーロッパに源流をもつ階段式の堰堤群が当時の最新技術として採り入れられたと説明している。

工事に建設機械はなく、すべて人の手で進められた。新潟県によれば、石工が石ノミで河原の石を割って積み石をつくり、中に詰める砂利は川原の石を金槌で砕いて用意した。セメントと砂は直江津から馬車で運び、現場では村人が二人一組でモッコを担いだ。県の探検マップは、女性も50キログラムのセメント袋を2袋背負って運んだという話や、西野谷集落の民家を借りて事務所とし、職員が各戸に分かれて泊まり込んだことも伝えている。

事業は大正期で終わらなかった。昭和8年(1933年)の水害を受けて、大正期の堰堤群の上流に十三号・十四号堰堤が昭和9年頃に築かれ、既存の堰堤の多くもこの頃に改造されている。日影沢の床固工群には昭和12年(1937年)頃の増築が加わった。

施設の数は資料によって違いがある。新潟県は、大正10年以降に万内川に築かれた砂防堰堤を18基、日影沢の床固工を49基とし、そのうち堰堤11基と床固工など41基が登録されたと説明する。一方、土木学会の推薦資料は万内川の堰堤を全30基、日影沢の床固工を47基としている。

下流から上流へ、14件の並び

登録された14件は、万内川の下流側に整備された万内川砂防公園から上流へ、次の順に並んでいる。番号は下流から上流へ増えるが、工事の順番と必ずしも一致しない(十二号は十号・十一号より1年ほど早い)。

  • 万内川一号堰堤(大正10年頃、堤長43メートル、堤高5.0メートル)。登録堰堤の最下流で、粗石コンクリート造の初期の例。
  • 万内川三号堰堤(大正11年頃、堤高2.0メートル)。空積を昭和初期に練積で補強した低い石積堰堤。
  • 万内川四号堰堤(大正11年頃、堤長26メートル)。副堰堤と石張の水叩きで二段に水を落とす。
  • 万内川六号堰堤(大正12年頃、堤高2.0メートル)。深く切り込んだ水通しで上流への眺めを開く。
  • 万内川七号及び八号堰堤(大正15年頃、2基)。灌漑用水の取水堰も兼ねる。
  • 万内川十号堰堤(大正15年頃、堤高3.5メートル)。前後の堰堤とおよそ120メートル間隔で並ぶ。
  • 万内川十一号堰堤(大正15年頃)。狭窄部に建ち、洗掘を防ぐ工夫を残す。
  • 万内川十二号堰堤(大正14年頃)。全体を精緻な谷積で築き、石造の銘板を付ける。
  • 万内川十三号堰堤(昭和9年頃、堤高5.9メートル)。昭和8年の水害後に築かれた、登録堰堤で最も高い一基。
  • 万内川十四号堰堤(昭和9年頃)。登録堰堤の最上流で、前面に欠円アーチ形の水抜きが4か所並ぶ。
  • 日影沢一号床固工(大正後期、堤長30メートル、堤高5.0メートル)。日影沢の床固工群で最下流・最大の一基。
  • 日影沢中流域床固工(大正後期、昭和12年頃増築)。約30%の急斜面に32基が湾曲しながら連なる。
  • クズレ沢斜路工(大正後期)。斜面を石張りにした勾配25%の水路と床固工を一体に築く。
  • 日影沢上流域床固工(大正後期、昭和12年頃増築)。約40%の斜面に切石の谷積で5基を配する。

万内川の堰堤群は、大正期の空積の石積みから、昭和期の練積とコンクリートへと構造が移っていく。日影沢では、万内川よりはるかに急な谷に、背の低い石積みの床固工を細かく刻むように並べている。同じ事業のなかで、谷の性格に合わせて工法を使い分けた様子を一か所で比べられるのが、この施設群の大きな特色である。

見学の条件と行き方

万内川の堰堤群は、下流側に整備された万内川砂防公園と、その上流へ延びる川沿いの散策路の周辺にある。公園は平成元年から平成9年(1989年から1997年)にかけて親水レクリエーションゾーンとして整えられ、文化財登録を受けて平成16年から平成20年(2004年から2008年)に堰堤周辺の遊歩道と休憩所が加わった。公園の利用期間は4月から11月で、使用料は無料、駐車場とトイレがある。公園の問い合わせ先は妙高市建設課である。

新潟県は「万内川登録文化財(一号~四号)探検マップ」をサイトで公開している。見晴台1では一号堰堤の完成直後の写真と現在の眺めを、見晴台2では六号・七号・八号堰堤が階段状に重なる様子を見比べられる。

車の場合は、国道18号の長森交差点からアライスキーリゾート方面へ進み、西野谷新田のT字路を右折して5分ほどで公園に着く。公共交通では、えちごトキめき鉄道妙高はねうまラインの新井駅に近い新井バスターミナルから、妙高市営バス(妙高めぐりん)の矢代線が西野谷方面へ走る。ただし便は1日に数本で、土曜・日曜・祝日に運休する便もあるため、市の時刻表で事前に確かめておきたい。

日影沢とクズレ沢の施設は事情が異なる。新潟県は、日影沢には床固工の維持管理のための道路も無く、破損状況の把握が難しいと説明しており、見学者向けの道は確認できない。急な沢に入り込むのは危険なので、これらの施設は無理に近づかず、県の資料で様子を知るにとどめたい。

堰堤は屋外の構造物で、県と市の案内に撮影の制限は示されていない。いずれも現役の砂防施設なので、堤体の上や水通しには立ち入らず、雨のあとの増水時は川べりに近づかないこと。

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース 万内川一号堰堤
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003212
文化庁 国指定文化財等データベース 万内川三号堰堤
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003213
文化庁 国指定文化財等データベース 万内川十三号堰堤
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003220
文化庁 国指定文化財等データベース 日影沢一号床固工
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003396
文化庁 国指定文化財等データベース クズレ沢斜路工
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003399
新潟県 登録有形文化財 万内川 石積堰堤群について
https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/jouetsu_sabou/bunkazai-bannai.html
新潟県 新潟県砂防発祥の地
https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/jouetsu_sabou/cradle.html
新潟県 万内川 砂防公園
https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/jouetsu_sabou/bannai-park.html
新潟県 万内川登録文化財(一号~四号)探検マップ(PDF)
https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/48362.pdf
妙高市 万内川砂防公園
https://www.city.myoko.niigata.jp/docs/828.html
妙高市 妙高市市営バス(時刻表)
https://www.city.myoko.niigata.jp/docs/892.html
国土交通省北陸地方整備局高田河川国道事務所 万内川砂防公園
https://www.hrr.mlit.go.jp/takada/gakusyu/taiken/kawa/playspot/spots/spot10bannai.html
土木学会 平成29年度選奨土木遺産 万内川砂防堰堤群・日影沢床固工群
https://www.jsce.or.jp/contents/isan/files/2017_06.shtml
土木学会関東支部 土木遺産 万内川砂防堰堤群・日影沢床固工群
https://www.jsce.or.jp/branch/kanto/04_isan/h29/h29_8.html
新潟県 登録有形文化財 日影沢 石積床固工群について
https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/jouetsu_sabou/bunkazai-hikagesawa.html
新潟県 登録有形文化財 日影沢 石積床固工の修繕を進めています
https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/jouetsu_sabou/renewal-hikagesawa19th.html

最終更新日: 2026.09.24

基本情報

名称万内川砂防施設
所在地新潟県妙高市大字西野谷
所有者新潟県
指定登録有形文化財 14件
座標37.01500, 138.16548