縄文草創期の薄手土器と県内最古の埋葬人骨
長岡市立科学博物館の展示室に、壁の薄さがそのまま光を受けるような土器が並んでいる。新潟県東部、阿賀町の山あいにある小さな洞窟から掘り出されたもので、その最も深い層は縄文時代草創期にさかのぼる。日本列島で土器づくりが始まったばかりの時期の資料である。
これらは「新潟県室谷洞窟遺跡出土品」として一括で重要文化財に指定されている。指定は平成12年(2000年)12月4日。出土遺物の総数は土器・石器に獣骨などを加えて約2万点に及ぶが、このうち所属時期や器種が明確な1,402点が指定の対象となっている。内訳は、下層出土が復元完形品5点を含む土器383点・石器214点・骨製品2点、上層出土が土器439点・石器341点・骨角貝製品23点である。
そのなかには、縄文前期の層から見つかった成人女性の屈葬人骨も含まれる。頭部付近には深鉢形土器が伴っていた。新潟県内では最も古い人骨資料にあたる。
洞窟が示した、ひとつの時代区分
室谷洞窟は、阿賀野川水系の室谷川左岸、流紋岩の崖面に開口する。川がかつて岩盤を側方に削ってできた洞窟で、入口の幅は約7メートル、高さ約3メートル、奥行約8メートル、標高は218メートルである。福島県境にほど近い阿賀町室谷の山間部に位置し、この地点より上流に集落はない。周壁の流紋岩は硬く、当時の姿をよくとどめている。
発掘調査は昭和35年から37年(1960〜1962)にかけて、長岡市立科学博物館の中村孝三郎と、新潟大学医学部解剖学教室の小片保が共同で行った。3次にわたる調査によって、洞窟内に15層もの遺物包含層が堆積していることが確認された。注目すべきは、層ごとに土器が大きく変化していた点である。
第5層より上の上層には、それまで南関東で最古とされてきた撚糸文土器が含まれていた。その下の層にある土器は、必然的にそれより古いことになる。下層の土器は、底部が隅丸方形の平底をなし、押圧縄文や羽状縄文を多用した、当時の常識を超える形態と文様をもっていた。この成果が、約6.5キロメートル下流の小瀬ヶ沢洞窟の資料とあわせて、縄文時代の最古段階「草創期」を設定する大きな手がかりとなった。
出土品が独立した指定を受けているのには理由がある。洞窟そのものは昭和55年(1980年)に国の史跡に指定された。一括の出土品は、その20年後に学術資料としての価値を認められ、別途、重要文化財に指定された。遺跡という「場」と、そこから得られた「資料」を区別して評価しているわけである。
展示で目を留めたいもの
まず下層の土器を見たい。復元された5点の完形品は、いずれも壁が際立って薄く、底は尖底ではなく隅丸方形の平底をなす。外面には附加条や異条斜縄文といった複雑な縄文が密に施され、大小の深鉢から注口をもつものまで器形に幅がある。土器づくりが始まったばかりの段階で、これだけ多様な形がそろう点は意外に映るだろう。
石器は、別の変化を静かに示している。下流の小瀬ヶ沢洞窟では尖頭器や石斧が多く出土したが、室谷洞窟ではそれらがほとんど姿を消し、掻器や不定形石器が主流になる。両者を並べると、人びとの暮らしと必要とする道具の移り変わりが読み取れる。
上層の土器には、関東地方に分布の中心を置く撚糸文系や沈線文系のものが見られる。山深いこの洞窟が、長い時間にわたって遠方の集団とつながり、人や物の往来の中継地として機能していた事実がうかがえる。
そして埋葬である。縄文前期の層で見つかった女性は、半環状の配石に囲まれ、頭部付近の土器も損なわれずに残されていた。これらの土器を形づくった人びとが、死者を丁重に葬ってもいた。その両方の痕跡が同じ暗い洞窟のなかに残されていたことを、展示の前で少し考えてみたい。
博物館とその周辺
長岡市立科学博物館は、信濃川沿いの複合施設「さいわいプラザ」の1階にあり、JR長岡駅から歩いて行ける距離にある。自然史と人文の両方を扱う総合博物館で、室谷洞窟と小瀬ヶ沢洞窟の出土品は重要文化財の展示コーナーにまとめて並ぶ。入口では、約200万年前の化石から復元した全長8メートルの海牛の模型が来館者を迎える。
洞窟そのものは東方の阿賀町にあり、気軽な見学には向かない。長岡で保存・展示されている資料こそが、この遺跡の中身を最もよく伝える場である。縄文土器をさらに深く知りたい人は、信濃川流域に残る火焔型土器ゆかりの資料とあわせて巡るのもよいだろう。
Q&A
- 室谷洞窟の出土品はどこで見られますか。
- 長岡市中心部、さいわいプラザ1階の長岡市立科学博物館で展示されています。重要文化財の展示コーナーで、近くの小瀬ヶ沢洞窟の資料とあわせて見ることができます。
- どのくらい古いものですか。
- 下層は縄文時代草創期、すなわち1万年以上前にさかのぼる縄文時代の最も早い段階のものです。上層は早期から前期にかけてのものを含みます。草創期の土器は世界でも最古級にあたります。
- 洞窟そのものを訪ねることはできますか。
- 洞窟は阿賀町の山間部にある国の史跡で、林道を経て至る場所です。一般的な観光向けには整備されていません。資料の内容は長岡の展示の方がはるかにわかりやすく、多くの来訪者は博物館で出土品を見ています。
- 後の時代の縄文土器と比べて、何が特別なのですか。
- 下層の土器は壁が薄く、底が隅丸方形の平底で、密な縄文が施され、注口をもつものまで器形に幅があります。日本で土器づくりが形をとり始めた時期の姿をとらえている点に価値があります。
- 博物館の入館料はいくらですか。
- 常設展示の入館は無料です。開館時間は9時から17時(入館は16時30分まで)。第1・第3月曜日(祝日の場合は翌日)と年末年始は休館です。
基本データ
| 名称 | 新潟県室谷洞窟遺跡出土品 |
|---|---|
| 指定区分 | 重要文化財(考古資料) 平成12年(2000年)12月4日指定 |
| 員数 | 一括(明確な資料1,402点。土器・石器・骨角貝製品など) |
| 時代 | 縄文時代 草創期〜前期 |
| 出土遺跡 | 室谷洞窟遺跡(国指定史跡) 新潟県東蒲原郡阿賀町室谷。洞窟は幅約7メートル、高さ約3メートル、奥行約8メートル、標高218メートル |
| 所有者 | 長岡市 |
| 保管・展示 | 長岡市立科学博物館(新潟県長岡市幸町2-1-1 さいわいプラザ1階) |
| 開館時間・料金 | 9時〜17時(入館16時30分まで)/第1・第3月曜・年末年始休館/入館無料 |
| アクセス | JR長岡駅から徒歩約15分。または路線バスで市立劇場前停留所下車 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース 新潟県室谷洞窟遺跡出土品
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/10446
- 文化遺産オンライン 新潟県室谷洞窟遺跡出土品
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/207390
- 文化遺産オンライン 室谷洞窟
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/205183
- 長岡市立科学博物館(公式サイト)
- https://www.museum.city.nagaoka.niigata.jp/
最終更新日: 2026.06.20