撞球室になった土蔵

割烹東忠上の蔵は、新潟県小千谷市元町にある明治前期建築の土蔵造二階建で、平成27年(2015年)11月17日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

文化庁のデータベースは年代を明治前期、西暦1868年から1882年の間とし、昭和前期(1926年から1945年)の改修を併記する。建築面積は41平方メートル。同時に登録された三棟のなかで、群を抜いて小さい。屋根は切妻造の鋼板葺である。

「上の蔵」という名は、傾斜地である敷地における位置を指す呼び名とみられる。建物は本館の北奥部に、妻面どうしを接して建つ。

構造は土蔵造。厚い土壁と漆喰で覆い、火から家財と帳簿を守るための、商家の標準的な建て方である。上下階とも両妻面が張り出す。外壁の仕上げは二種類に分かれており、その境は敷地に立てばすぐに読み取れる。主体部の二階が白い漆喰塗、それ以外の面には下見板が横に張られている。

「娯楽施設の遺構」という評価

登録番号は15-0422。本館・別館とともに平成27年11月17日、第82回登録として告示された。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。

解説文で目を引くのは末尾の一句で、この建物を「割烹に附属した娯楽施設の遺構」と規定している。きわめて限定的な分類であり、小規模な土蔵が登録に至った理由もそこにある。

戦前、一階は撞球室として使われていた。ビリヤードは十九世紀に居留地を通じて日本へ入り、大正から昭和初期にかけて西洋渡来の遊技として広がった。まず都市部で、次いで資力と余暇のある地方都市へ。織物と鯉の商人を客とする小千谷の割烹には、そのいずれもあったということになる。

転用先として土蔵を選んだのは合理的である。土蔵は間仕切りのない大きな一室をもともと備えており、撞球台を据えるにはその条件が要る。改造にともなう内装が、解説文のいう「洋風持送など」である。持送は梁や棚を下から支える受け材で、洋風のそれは土蔵の在来的な造作とは系統を異にする。あわせて北の妻面に半切妻屋根の玄関が設けられた。荷を出し入れするための本来の扉を通らずに出入りできるようにした改造とみてよい。

数字を当たってみる。建築面積41平方メートルから、土蔵の厚い壁の分を差し引けば、一階に収まるのは台一台とその周囲に立つ人だけである。営業用の撞球場ではない。座敷の客が、一組ずつ使うための部屋であった。

いま何が見えるか

上の蔵は、客が予約して入る建物ではない。本館の背後に位置し、公式サイトが公開する部屋の一覧、すなわち食事に供される広間と個室のなかに、この蔵は含まれていない。

したがって現実的な観察対象は外観になる。食事の客として訪れれば、敷地内や庭の側から、要点は十分に読み取れる。本館と接する妻面、上下階とも張り出した両妻、腰から下の下見板と二階の漆喰との切り替わり、そして北面に付いた玄関。内部について知りたい場合は、勝手に踏み込まず受付で尋ねるのが筋であり、混み合う日には断られることも織り込んでおきたい。

三棟、三つの登録番号、三つの異なる時代。江戸末期の本館、昭和前期の別館、そして明治の土蔵を遊技室に改めたこの一棟が、数メートルの範囲に並んでいる。ひとつの商家がおよそ150年をかけて建物を継ぎ足し、用途を組み替えてきた過程が、そのまま敷地に残っている。上の蔵はその過程を最もはっきり示す。当初の用途と後の用途のあいだに、共通点がまったくないからである。

敷地全体の実用情報を挙げておく。料亭東忠の昼の席は11時から14時(来館13時30分まで)、夜の席は17時から22時(来館19時まで)。定休日は不定で、毎月の休業日が公式サイトに掲載される。電話予約(0258-82-2033)が薦められている。館内の東忠カフェは当面のあいだ休業中である。JR上越線小千谷駅からタクシーで約5分、徒歩なら20分ほど。車では関越自動車道小千谷インターチェンジから約8分だが、周辺の道が狭いため公式サイトの推奨経路を確認されたい。駐車場は4か所、合計18台ほどである。

Q&A

Q割烹東忠上の蔵はなぜ登録有形文化財になったのですか。
A文化庁の解説文はこの建物を「割烹に附属した娯楽施設の遺構」と位置づけています。戦前に一階が撞球室として使われ、その改造にともなう洋風持送などの内装と、北妻に設けられた半切妻屋根の玄関が残っていることが評価されました。
Q割烹東忠上の蔵はいつの建築で、どのような構造ですか。
A年代は明治前期、西暦1868年から1882年の間とされ、昭和前期に改修されています。土蔵造2階建、切妻造の鋼板葺、建築面積41平方メートルの1棟で、同時登録の三棟のなかで最も小規模です。
Q割烹東忠上の蔵の内部は見学できますか。
A料亭が食事に供する部屋の一覧に上の蔵は含まれておらず、内部への立ち入りは前提とされていません。外観は食事の客として訪れた際に敷地内から見ることができます。詳細を知りたい場合は受付または電話で事前に問い合わせてください。
Q割烹東忠上の蔵の外壁はどのような仕上げですか。
A主体部の二階が白い漆喰塗、それ以外の壁面には下見板が張られています。上下階とも両妻面が外へ張り出し、南側の妻面は本館の北奥部と接しています。
Q割烹東忠上の蔵はいつ登録され、他の建物はどうなっていますか。
A平成27年(2015年)11月17日、第82回登録で登録番号15-0422として告示されました。同日に本館(15-0420)と別館(15-0421)も登録されており、三棟とも所有者は一般財団法人小千谷市産業開発センターです。

基本情報

名称割烹東忠上の蔵(かっぽうとうちゅううえのくら)
所在地新潟県小千谷市元町538-1(料亭としての表示は元町11-11)
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号15-0422
指定年平成27年(2015年)11月17日登録 第82回
員数1棟
寸法土蔵造2階建、鋼板葺、建築面積41平方メートル
所有者一般財団法人小千谷市産業開発センター
公開状況料亭の客室としては供されない。外観は東忠の敷地内から見学可。問い合わせ 0258-82-2033

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) 割烹東忠上の蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010761
国指定文化財等データベース(文化庁) 割烹東忠本館
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010759
料亭 東忠 小千谷 公式サイト
https://tochu-ojiya.com/
料亭 東忠 小千谷 お部屋
https://tochu-ojiya.com/room.html
小千谷市 小千谷の文化財
https://www.city.ojiya.niigata.jp/soshiki/nigiwai/bunkazai.html

最終更新日: 2026.08.04