温泉御宿龍言本館(旧松崎家住宅主屋)― 雪国の歴史と伝統が息づく国登録有形文化財の宿

新潟県南魚沼市、坂戸山の麓に佇む温泉御宿龍言本館(旧松崎家住宅主屋)は、明治前期に建てられた上層農家の住宅を移築・保存した貴重な建造物です。平成30年(2018年)5月10日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されたこの建物は、雪国特有の「中門造」の建築様式を今に伝えるとともに、戦国時代の武将・長尾政景や直江兼続ゆかりの地に建つ歴史ある温泉旅館「ryugon(龍言)」の中心として、国内外の旅行者を迎え入れています。

歴史的背景

龍言の名は、かつてこの地に存在した「龍言寺」に由来しています。龍言寺は、戦国武将・長尾政景の菩提寺であった名刹「雲洞庵」の末寺でした。長尾政景は上杉謙信の副将として活躍した武将であり、上杉景勝の実父にあたります。坂戸城を居城とした長尾政景の領地であったこの地には、今もその墓所と、家臣であった直江兼続の供養塔が残されています。龍言寺は上杉景勝の移封に伴い米沢に移転しましたが、その名は旅館の名として受け継がれました。

本館の建物は、もともと南魚沼市吉里地区に建てられた松崎家の住宅主屋であり、昭和44年(1969年)に現在地に移築されました。建築年代は建物の特徴から明治前期(1868〜1882年頃)と推定されています。移築後は温泉旅館「龍言」の本館として使われ、将棋の竜王戦や囲碁のタイトル戦の会場としても知られる名旅館となりました。令和元年(2019年)には全面的なリニューアルが行われ「ryugon」として生まれ変わり、令和5年(2023年)にはグッドデザイン賞を受賞しています。

文化財としての価値

温泉御宿龍言本館が国の登録有形文化財に登録された理由は、この地域の上層農家の建築形式を極めてよく保存している点にあります。

建物の最大の特徴は「中門造(ちゅうもんづくり)」と呼ばれる建築様式です。切妻造の平入を基本とし、前後に切妻屋根の「中門」と呼ばれる突出部を設けた構造で、日本有数の豪雪地帯であるこの地域で、積雪時にも出入りが容易になるよう工夫された雪国特有の建築技法です。前中門の玄関脇には天井の高い広間(ひろま)が設けられ、その奥には相の間を挟んで座敷二室が前後に配されています。

宿泊施設として転用されているにもかかわらず、建物の内外ともに当地の上層農家としての形式がよく留められており、明治前期の雪国における農村生活の姿を今に伝える貴重な歴史的資料としての価値が認められました。木造平屋建、金属板葺で、建築面積は218平方メートルを有します。

建築の見どころ

龍言本館を訪れた際にまず目を引くのは、中門造の重厚な外観です。正面から見ると、切妻屋根の本体から前中門が力強く突き出した姿が、雪国の厳しい自然と共存してきた建築の知恵を物語っています。

館内に足を踏み入れると、太く黒光りする梁や柱が存在感を放ち、明治期の匠の技を間近に感じることができます。玄関脇の広間は天井が高く開放的な空間で、かつて農作業の場や家族の集いの場として使われていた往時の暮らしを偲ばせます。奥の座敷は格式ある造りで、来客をもてなすための空間として設えられていました。

建物は約13,000平方メートル(約4,000坪)の広大な敷地内に位置し、坂戸山を借景とした美しい日本庭園に囲まれています。庭園内の池泉は、龍言寺の時代から湧き続ける霊泉「龍神池」から水を引いており、冬季には屋根から落ちる雪を溶かす消雪の役割も果たすという、雪国ならではの知恵が生きた造りとなっています。2019年のリニューアル時には、レセプションエリアに現代的な白い囲炉裏が設置され、伝統と現代が見事に融合した空間が生まれました。

六日町温泉の魅力

龍言が引湯する六日町温泉は、昭和32年(1957年)に天然ガスの試掘中に豊富な温泉が湧出したことに始まります。昭和39年(1964年)には環境省から国民保養温泉地に指定され、新潟県内有数の湯量を誇る温泉地として知られています。

泉質はナトリウム-塩化物温泉(低張性弱アルカリ性高温泉)で、pH7.6、源泉温度52.9℃。刺激が少なく肌にやさしい湯で、筋肉痛、関節痛、冷え性、疲労回復などに効能があるとされています。龍言では、米蔵を移築した木造平屋土蔵造りの趣ある大浴場をはじめ、庭園を望む露天風呂、貸切風呂、客室付き露天風呂など、さまざまな入浴スタイルを楽しむことができます。2023年にはサウナも新設されました。

雪国ガストロノミーと文化体験

ryugonの食事は「雪国ガストロノミー」をテーマに、魚沼地方で古くから食べ継がれてきた野の食材や伝統料理をベースとした和のフルコースが提供されます。日本一の評価を受ける南魚沼産コシヒカリはもちろん、山菜、保存食、地元の発酵食品など、雪国の厳しい冬を乗り越えるために培われた食文化の奥深さを堪能できます。

滞在中は、地元ガイドによる六日町のまちあるきツアー「まちぶら散歩」や、伝統的な竈(かまど)を使った郷土料理のワークショップ、地酒の酒蔵見学など、雪国の暮らしと文化に触れるさまざまな体験プログラムが用意されています。また、宿の裏手にそびえる坂戸山は約30分で登ることができ、春の早朝には魚沼平野に広がる幻想的な雲海を見ることができます。

周辺の見どころ

龍言の周辺には、歴史と自然の見どころが豊富にあります。宿の背後にそびえる坂戸山は、長尾政景の居城であった坂戸城の跡地として国指定文化財に指定されており、上杉景勝・直江兼続生誕の地としても知られています。春の桜や新緑、秋の紅葉の時期は特に美しい山歩きが楽しめます。

上杉家ゆかりの名刹・雲洞庵は、曹洞宗の古刹として歴史的・文化的価値の高い寺院です。霊峰八海山(標高1,778m)はロープウェイで四合目まで登ることができ、壮大な山岳景観を楽しめます。また、南魚沼市は冬季には石打丸山スキー場や六日町八海山スキー場をはじめとする多数のスキーリゾートが営業し、ウィンタースポーツの拠点としても魅力的です。地元の銘酒「八海山」を醸す酒蔵など、年間を通じて楽しめる観光スポットも充実しています。

Q&A

Q中門造(ちゅうもんづくり)とはどのような建築様式ですか?
A中門造は、新潟県をはじめとする雪国地方に見られる伝統的な建築様式です。切妻造の主屋から「中門」と呼ばれる切妻屋根の突出部を前後に設けた構造で、豪雪時にも出入りがしやすいよう工夫されています。龍言本館は、この様式で建てられた明治前期の上層農家住宅として貴重な例です。
Q登録有形文化財の建物に宿泊することはできますか?
Aはい、可能です。文化財に登録されている本館は「Classic」タイプの客室として利用されており、明治時代の梁や柱をそのまま活かした趣ある空間で宿泊体験ができます。歴史的な建築の魅力を味わいながら、現代的な快適さも兼ね備えた空間となっています。
Q東京からのアクセス方法を教えてください。
A東京駅から上越新幹線で越後湯沢駅まで約70〜80分。越後湯沢駅西口前の「HATAGO井仙」より無料送迎バス(要予約)で約30分です。お車の場合は、関越自動車道六日町ICより約10分です。JR六日町駅からは徒歩約20分またはタクシー約5分でもアクセスできます。
Q龍言と戦国武将の歴史的なつながりは?
A龍言は、上杉謙信の副将であった長尾政景の菩提寺「雲洞庵」の末寺「龍言寺」の跡地に建てられています。長尾政景は坂戸城を居城とし、上杉景勝の実父にあたる武将です。宿の近くには長尾政景公墓所と直江兼続公供養塔が残されており、宿からは坂戸城跡のある坂戸山を望むことができます。
Q六日町温泉の泉質と効能は?
A六日町温泉の泉質はナトリウム-塩化物温泉(低張性弱アルカリ性高温泉)で、pH7.6、源泉温度52.9℃です。刺激が少なく肌にやさしい湯で、筋肉痛、関節痛、冷え性、疲労回復、末梢循環障害などに効能があるとされています。環境省指定の国民保養温泉地にも選ばれています。

基本情報

名称 温泉御宿龍言本館(旧松崎家住宅主屋)
文化財指定 国登録有形文化財(建造物)/平成30年(2018年)5月10日登録
建築年代 明治前期(1868〜1882年頃)
移築 昭和44年(1969年)南魚沼市吉里地内より移築
構造 木造平屋建、金属板葺、建築面積218㎡
建築様式 中門造(切妻造平入、前後に切妻屋根の中門を突出)
所在地 新潟県南魚沼市坂戸字道端1-6
所有者 株式会社龍言
現在の用途 ryugon ― 古民家温泉ホテル(2019年リブランド、2023年グッドデザイン賞受賞)
温泉 六日町温泉(国民保養温泉地)/ナトリウム-塩化物温泉/pH7.6/52.9℃
アクセス JR六日町駅より徒歩約20分・タクシー約5分/越後湯沢駅より無料送迎バス約30分(要予約)/関越自動車道六日町ICより約10分
公式サイト https://ryugon.co.jp/

参考文献

温泉御宿龍言本館(旧松崎家住宅主屋) — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/366214
南魚沼市の国登録文化財 — 南魚沼市ウェブサイト
http://www.city.minamiuonuma.niigata.jp/kosodate/bunka/bunkazai/1531899686329.html
ryugon(龍言)— 国登録有形文化財の庭園・旅館 — 庭園情報メディア おにわさん
https://oniwa.garden/ryugon-niigata/
ryugon 公式サイト
https://ryugon.co.jp/
南魚沼の老舗旅館「龍言」がリニューアルし「ryugon」に — JAL SKYWARD+
https://skywardplus.jal.co.jp/plus_one/ryugon_renewal/
六日町温泉 — 日本温泉協会
https://www.spa.or.jp/kokumin/955/

最終更新日: 2026.03.27