14年後に同じ敷地へ戻った前川國男
岡山県庁西庁舎は、岡山県岡山市北区内山下二丁目にある昭和46年(1971年)2月竣工の官公庁舎で、令和6年(2024年)12月3日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。設計は前川國男、登録番号は33-0372である。
本庁舎本館と議会棟の西側に位置する。本館と議会棟旧館はいずれも昭和32年(1957年)に同じ設計者の手で竣工しており、西庁舎との間には14年の隔たりがある。この空白のあいだに前川の手法がどう変化したかを、同一敷地上で読み取れるのが西庁舎の面白さである。
国指定文化財等データベースによれば、構造は鉄筋コンクリート造、地上5階地下1階建、建築面積702平方メートル、塔屋を伴う。同日に登録された3棟のうち、最も後に建てられ、建築面積も最も小さい。
ガラスではなくコンクリートで
昭和32年の本館は、上層を黒色枠のカーテンウォールで覆う。ガラスとスチールを構造体の前面に吊るす手法である。西庁舎はこれとほぼ逆の答えを出している。外壁はコンクリート打放し仕上げのままで、構造がそのまま外観になっている。
三階以上は外壁が下層より前へ張り出す。その奥には彫りの深いバルコニーが通り、深さゆえに影が濃くたまる。立面は貼り付けられたものではなく、削り出されたものとして目に映る。
西正面に回ると格子が現れる。垂直方向の方立と水平方向の手摺が、いずれもコンクリートで表現され、面を分節している。県の説明資料はこの立面を「軽快」と評しているが、これほど重量のある材料でどうして軽快になるのかは、実際に前に立って壁面の空隙の多さを見れば納得がいく。
水平連続窓もここに備わる。ル・コルビュジエの近代建築の五つの要点の一つであり、県庁舎群を貫く主題でもある。西庁舎のコンクリートの格子と、隣に建つ本館の黒いガラス面。この五十メートルほどの移動が、敷地内で最も示唆に富む道のりである。
地上階を手放した建物
地上1階部分は、エントランスホールを除いてほとんど囲われていない。全体がピロティとされ、上部の量塊を柱列が受けている。中央には地下通路の入口が開口し、敷地内の建物間を地下でつなぐ動線に接続している。
前川は昭和32年の本館でも、中央部2層分の床を持ち上げてピロティをつくった。西庁舎ではその手法を小さな規模で、より実務的な目的に用いている。ここは来庁者を迎える正面ではなく、庁舎群の内側にあたる。儀礼的なアプローチよりも棟間の移動のほうが重要になる場所である。
結果として、建物は宙に据えられたように見える。量塊は2階から始まり、その下では地面が中庭と本館へ向かって途切れずに続いている。
足元に隠れた技術史
平成16年(2004年)7月、県は西庁舎の耐震化工事を免震工法で完了させた。建物と基礎の間に免震装置を挟み、地盤の揺れを躯体へ伝えるのではなく吸収させる方式である。
この選択には注目したい。既存の中層事務所建築に対する免震レトロフィットは、当時の日本ではまだ一般的な手法ではなかった。壁の増厚やブレースの付加を立面に加えずに耐震性能を確保できる点が、この工法の利点にあたる。前川が設計したコンクリートの格子は、工事を経ても手を加えられずに残った。令和6年(2024年)にはさらに改修が行われている。
県庁舎群は平成28年(2016年)にDOCOMOMO Japanの選定を受けた。選定基準には「装飾を用いるのではなく、線や面の構成による美学が適用されている」「技術の成果がデザインに反映されている」といった項目が並ぶ。西庁舎は昭和46年の型枠によって、そして平成16年に足元へ据えられた装置によって、この二つをそれぞれ満たしている。
県が登録にあたってまとめた説明資料は、3棟からなる県庁舎を戦後民主主義の建築化と大規模庁舎におけるモダニズム建築の実現という観点から評価している。西庁舎が担うのはその連続性の部分である。先行する建物を模倣せずに、意匠の調和を保った増築棟という位置づけになる。
訪ねるときに
県庁舎の敷地は門で仕切られておらず、西庁舎の外観はいつでも眺められる。コンクリートの格子がはっきり読み取れる西正面は、主要な来庁動線から外れた側にある。多くの来訪者はここを見ずに帰る。回り込む価値がある。地上階のピロティに入って張り出した壁の裏側を見上げるのも、覚えておきたい視点である。
内部は執務室が入るため、立ち入りは限られる。敷地内や周囲の道路からの撮影に支障はないが、館内については受付で確認したい。
県が実施する県庁舎見学ツアーは参加費無料、所要約90分、定員10名程度。前川國男と庁舎の概要を紹介する座学ののち現地を歩く構成である。申込みは岡山県電子申請サービスから、毎月1日(休日の場合は翌日)に受付が始まり、開催日の7日前が締切。10名以上の団体は建築指導課(電話086-226-7504)が別途受け付けている。公開されている行程は本庁舎を中心としているため、対象となる棟は事前に確認しておきたい。
庁舎は土曜・日曜・祝日が閉庁日にあたる。JR岡山駅から旭川荘行きバスで約10分、「県庁前」下車。徒歩なら約25分。外来駐車場は1時間100円である。すぐ近くの本館1階には、平日であれば無料で入れる前川建築の展示コーナーと一般利用可能な食堂がある。
徒歩圏内には同じ前川の設計による林原美術館と、昭和37年(1962年)竣工の岡山県天神山文化プラザがある。昭和32年、昭和37年、昭和46年という順に3件を見て歩けば、前川のコンクリートの扱いの変化が、書物で読むよりもはっきりと分かる。
Q&A
- 岡山県庁西庁舎はいつ、誰の設計で建てられましたか。
- 昭和46年(1971年)2月に竣工しました。設計は前川國男で、同じ設計者による本庁舎本館・議会棟旧館の竣工(昭和32年)から14年後の建物です。令和6年(2024年)12月3日に国の登録有形文化財に登録され、登録番号は33-0372です。
- 岡山県庁西庁舎は本庁舎本館とどこが違いますか。
- 本館は上層を黒色枠のカーテンウォールで覆いますが、西庁舎はコンクリート打放しの外壁で構造美を見せます。三階以上で外壁が張り出し、その奥に彫りの深いバルコニーが通り、西正面は方立と手摺による格子状の割付となります。二棟の対比は意図されたものです。
- 岡山県庁西庁舎の内部は見学できますか。
- 執務室が入るため内部への立ち入りは限られます。外観は門のない県庁舎敷地内からいつでも眺められ、地上階のピロティも通り抜けられます。県が実施する無料の見学ツアーは事前申込制で、公開行程は本庁舎を中心としています。
- 岡山県庁西庁舎の構造上の特色は何ですか。
- 平成16年(2004年)7月に完了した耐震化工事で免震工法が採用された点です。建物と基礎の間に据えた装置が地盤の揺れを吸収するため、立面に補強材を加えずに済み、当初のコンクリートの意匠が保たれました。令和6年(2024年)にも改修が行われています。
- 岡山県庁西庁舎はどこにあり、どう行けばよいですか。
- 岡山市北区内山下二丁目4-101の県庁舎敷地の西側に建ちます。JR岡山駅から旭川荘行きバスで約10分の「県庁前」下車すぐ、徒歩でも約25分です。車では山陽自動車道岡山ICから約20分、外来駐車場は1時間100円です。
基本情報
| 名称 | 岡山県庁西庁舎(おかやまけんちょうにしちょうしゃ) |
|---|---|
| 所在地 | 岡山県岡山市北区内山下二丁目4-101 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号33-0372 |
| 指定年 | 令和6年(2024年)12月3日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 鉄筋コンクリート造地上5階地下1階建、建築面積702平方メートル、塔屋付 |
| 所有者 | 岡山県 |
| 公開状況 | 外観は県庁舎敷地内からいつでも見学可。内部は執務室のため立ち入り制限あり。県の事前申込制見学ツアーあり |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「岡山県庁西庁舎」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00015230
- 文化遺産オンライン「岡山県庁西庁舎」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/542544
- 岡山県「県庁舎の沿革」
- https://www.pref.okayama.jp/page/detail-4023.html
- 岡山県 登録有形文化財(建造物)説明資料(PDF)
- https://www.pref.okayama.jp/uploaded/attachment/383672.pdf
- 岡山県「岡山県庁舎見学ツアー」
- https://www.pref.okayama.jp/page/902754.html
- 岡山観光WEB「岡山県庁舎」
- https://www.okayama-kanko.jp/spot/detail_14801.html
最終更新日: 2026.08.06