反対したものを名に掲げた建物
岡山禁酒会館は、岡山県岡山市北区丸の内1-1-157にある大正12年(1923年)竣工の木造3階建の建物で、平成14年(2002年)6月25日に国の登録有形文化財となった(登録告示は同年7月16日)。
正面の壁には「禁酒会館」の四文字が金色で掲げられている。その名の通り、酒に反対する運動の拠点として建てられた建物であり、戦前の禁酒運動から引き継がれた施設として全国で唯一現存する。
日本の禁酒運動は19世紀後半のキリスト教伝道と結びついて広がった。明治8年(1875年)に横浜禁酒会が設立され、当時の日本人キリスト教徒の多くがこの運動に関わったとされる。岡山と倉敷でそれぞれ禁酒会が組織されたのは明治41年(1908年)である。大正10年頃になると事情が切迫してくる。景気の悪化と社会不安から酒に逃れる人が増えていた。これを憂えた禁酒運動家の成瀬才吉と河本正二が拠点建設に動き、資産家の綱島長次郎を設立委員長に迎えた。会館は大正12年、岡山県禁酒同盟の宣伝機関として開館し、昭和8年(1933年)には運営主体として財団法人岡山禁酒会館が設立された。
運動が実際に動かしたものの一例を挙げれば、未成年者飲酒禁止法の制定が大正11年(1922年)、この建物が開く前年である。
木造でありながら組積造に見える
適用された登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。その理由ははっきりしている。岡山市中心部で昭和20年(1945年)6月の空襲を免れた数少ない建物のひとつだからである。
構造は木造3階建、建築面積145平方メートル。屋根は寄棟造でスレート葺、一部に鉄板を用い、3階部分で腰折れ風に折れるマンサード状の処理をとる。この折れによって、外見上の高さを増やさずに使える容積を確保している。
面白いのは正面の意匠である。外壁はドイツ壁と呼ばれる技法で、モルタルをササラで吹き付けて粗い粒状の肌をつくる。そこに白タイル張の面が組み合わされる。二種類の仕上げが縦方向の帯として配されるため、間口の狭い敷地に建つ木造の小さな建物が、実際よりも高く堅固に見える。造形の系譜はセセッションで、大正期に日本へ入ってきたウィーン由来の様式である。公共的な性格を持つこの種の施設によく合った。
窓枠と内装の一部はその後改修されている。外観と構造は建築当初の状態をよく残しており、登録の記載もその点を押さえている。
敷地は岡山城西の丸西手櫓に隣接する縦長の一画である。この隣人は国の重要文化財であり、二つが並ぶ光景には岡山の建築史が三世紀分ほど圧縮されている。
使われ続けていること
1970年代、会館は苦境にあった。客足が減って食堂は閉鎖され、老朽化が進み、取り壊しが公然と語られるようになる。転機は平成12年(2000年)で、NPO法人「ミーツ」が再生に取り組み、裏庭に多目的ステージを設け、旧食堂を改装して喫茶店を開いた。
登録有形文化財となったのは平成14年。令和3年(2021年)5月にはキリスト教系書店「Le Livre 街の灯」が館内に開店し、運動の出自につながる糸が今も残っている。
現在は1階にカフェや店舗が入り、上階の部屋は教室・会議・集会の場として貸し出され、屋外広場ではライブや演劇が開かれる。予定を立てずに訪れた人が目にするのは、展示物としての建築ではなく、現に働いている小さな建物である。それがこの建物を残してきた。
見学と交通
入館は無料で、建物にはおおむね午前8時から午後10時まで立ち入ることができる。ただし営業時間と定休日は入居している店舗ごとに異なり、月曜を休みとする例が多い。1階や外観を見るだけなら予約も入館料も不要である。上階は貸室であるため、公開展示ではなく使用中の空間として扱いたい。
正面の意匠は写真の被写体として優れており、路上からの撮影に制限はない。館内では、カフェの利用者が写り込む場合など、店のスタッフに一声かけてから撮るのが望ましい。
専用駐車場はない。JR岡山駅からは東山行きの路面電車で城下電停付近まで、あるいは徒歩でも行ける距離である。車の場合は山陽自動車道の岡山インターチェンジから約20分で、周辺のコインパーキングを利用することになる。
徒歩5分の位置には、同じ空襲を耐えた旧日本銀行岡山支店本館(現ルネスホール)が建つ。こちらも登録有形文化財である。その先には岡山城と後楽園があり、岡山シンフォニーホールも近い。この建物単体を目的地にするより、市の文化施設が集まる一帯を歩くなかに組み込むほうが自然である。
Q&A
- 岡山禁酒会館はどこにあり、どう行けばよいですか?
- 岡山県岡山市北区丸の内1-1-157、岡山城西の丸西手櫓の隣に建っています。JR岡山駅から東山行きの路面電車で城下電停付近が最寄りです。車では山陽自動車道の岡山インターチェンジから約20分。専用駐車場はないため周辺のコインパーキングを利用してください。
- 岡山禁酒会館には入れますか。入館料はかかりますか?
- 入館は無料です。建物にはおおむね午前8時から午後10時まで立ち入れますが、営業時間と定休日は入居店舗ごとに異なり、月曜休みが多く見られます。1階と外観は見学でき、上階は貸室です。
- 岡山禁酒会館は何のために建てられたのですか?
- 岡山県禁酒同盟の宣伝機関として、大正12年(1923年)に建てられました。禁酒運動家の成瀬才吉と河本正二が建設を主導し、資産家の綱島長次郎が設立委員長を務めています。
- 岡山禁酒会館の文化財としての区分は何ですか?
- 国の登録有形文化財(建造物)です。登録番号33-0056、登録年月日は平成14年(2002年)6月25日、告示は同年7月16日。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」です。
- 岡山禁酒会館は岡山空襲で焼けなかったのですか?
- 焼失を免れました。昭和20年(1945年)6月の空襲で市中心部の大半が焼けるなか、この木造建築は残った少数のひとつです。登録の理由の大きな部分がここにあります。
基本情報
| 名称 | 岡山禁酒会館(おかやまきんしゅかいかん) |
|---|---|
| 所在地 | 岡山県岡山市北区丸の内1-1-157 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 33-0056/登録基準「国土の歴史的景観に寄与しているもの」 |
| 指定年 | 平成14年(2002年)6月25日登録(告示 同年7月16日) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造3階建、スレート葺(一部鉄板葺)、建築面積145平方メートル |
| 所有者 | 財団法人岡山禁酒会館 |
| 公開状況 | 入館無料、おおむね午前8時から午後10時。営業時間・定休日は入居店舗により異なる(月曜休みが多い)。上階は貸室 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「岡山禁酒会館」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00002813
- 岡山市観光情報サイト OKAYAMA KANKO .net「岡山禁酒会館」
- https://okayama-kanko.net/sightseeing/spot/494/
- 岡山県観光連盟 岡山観光WEB「岡山禁酒会館」
- https://www.okayama-kanko.jp/spot/10033
- 岡山県 文化財課 登録文化財解説資料(PDF)
- https://www.pref.okayama.jp/uploaded/attachment/260970.pdf
最終更新日: 2026.08.06