奥津川西の河岸に続く花崗岩

奥津発電所本館擁壁は、岡山県苫田郡鏡野町奥津川西に築かれた昭和7年(1932年)の石造及び鉄筋コンクリート造の擁壁で、平成18年(2006年)10月18日に登録有形文化財(建造物)に登録された。登録番号は33-0126。

登録の対象は一つの壁ではない。本館の西側には斜面を受け止める擁壁があり、吉井川との境界には河岸を固める護岸擁壁がある。二つを合わせた延長は約185mで、文化庁はこれを別個の構造物ではなく1所として記載している。

石材は花崗岩。四角に加工した石を斜めに向けて据える谷積で積まれている。石を45度振ると目地が斜めに走り、勾配の変わる法面にも段差を目立たせずに壁を沿わせられる。目地はモルタルで固めた練積で、空積ではない。山の雨で急に水位を上げる川に接する壁として、水を通さない積み方が選ばれている。

高欄と、壁が開く一箇所

長く続く護岸擁壁に、二つの見どころがある。

一つは天端である。高さ0.85mの鉄筋コンクリート造高欄が壁の上端を締めており、離れて見ると手すりのように読める。花崗岩の石積の上にコンクリートを意匠として載せる組み合わせ自体が、この時代の刻印になっている。

もう一つは、壁のほぼ中央に開く余水路隧道の坑口である。水路が水車の呑み込める量を超える水を運んできたとき、余った分はどこかへ逃がさなければならない。その水はこの坑口を通って吉井川へ戻る。壁が外に向けて開いているのはここだけだ。奥津発電所本館擁壁が景観の飾りではないことは、この一点によく表れている。人工の水系と自然の川が接する縁であり、行きと戻りの両方の流れを設計に織り込む必要があった。

擁壁が登録された理由

登録有形文化財の制度は平成8年(1996年)に建設後50年を過ぎてなお使われている建造物を対象として設けられ、岡山県文化財課は3つの登録基準を示している。奥津発電所の諸施設はその第一の「国土の歴史的景観に寄与しているもの」により、平成18年(2006年)10月にまとめて登録された。

本件について文化庁は理由を明快に書いている。この擁壁は本館とともに近代発電所の歴史的景観を形成する、というものだ。壁を単独の物体として評価したのではなく、場の成り立ちを評価している。切土の裸地に建つ発電所であれば、20世紀の工場建屋と区別がつかない。花崗岩の段とコンクリートの高欄があることで、この場所は昭和初期の姿を保っている。

奥津発電所は吉井川上流の水路式発電所で、中国電力の示す出力は7,500kW。登録された構成施設は山中の取水堰堤に始まり、この地点で終わる。

一連の施設のなかで最も見やすい

奥津発電所の登録施設の多くは林のなかにあり、道路から見える位置にない。この擁壁は事情が違う。奥津発電所本館擁壁は発電所そのものに付属して奥津川西にあり、国道179号が通る奥津温泉一帯からも近く、川沿いの公共の場所から石積を確かめられる。

車なら中国自動車道の院庄インターチェンジから国道179号を倉吉方面へ約25分。JR津山駅からは中鉄北部バスで奥津温泉方面へ約1時間だが便数が少ないため、時刻は事前に確認しておきたい。

発電所構内への立入はできず、見学設備の類も一切ない。壁の内側は管理地である。公道や河岸からの撮影に制限はない。斜めに走る目地の陰影は、夏の高い日差しより冬の低い光のほうがよく出る。以上のアクセス情報は2026年9月に確認した。

Q&A

Q奥津発電所本館擁壁とは具体的に何を指しますか。
A本館西側の擁壁と、吉井川との境界に築かれた護岸擁壁の二つを、1所としてまとめて登録したものです。合わせた延長は約185mになります。
Q奥津発電所本館擁壁はどのように積まれていますか。
A花崗岩を斜めに据える谷積の練積擁壁で、鉄筋コンクリートを併用しています。護岸側の天端には高さ0.85mの鉄筋コンクリート造高欄が付きます。
Q奥津発電所本館擁壁の中央にある開口は何ですか。
A余水路隧道の坑口です。水路が水車の使える量を超える水を運んできたとき、余剰分をここから吉井川へ戻します。
Q奥津発電所本館擁壁はいつ登録されましたか。
A平成18年(2006年)10月18日に登録有形文化財(建造物)となりました。登録番号は33-0126で、擁壁自体は昭和7年(1932年)の築造です。
Q奥津発電所本館擁壁は許可なしで見学できますか。
A外側からであれば見学できます。奥津川西の国道179号沿いから、公道や河岸を通して壁を確認できます。発電所構内には立入できませんが、公共の場所からの見学と撮影に制限はありません。

基本情報

名称奥津発電所本館擁壁(おくつはつでんしょほんかんようへき)
所在地岡山県苫田郡鏡野町奥津川西字神田560
指定区分登録有形文化財(建造物)登録番号 33-0126
指定年平成18年(2006年)10月18日 登録
員数1所
寸法延長 約185m、護岸側天端に鉄筋コンクリート造高欄 高さ0.85m
所有者中国電力株式会社
公開状況稼働中の発電施設。構内立入不可。公道・河岸から見学可。

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「奥津発電所本館擁壁」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00005916
岡山県文化財課「文化財登録制度とは」
https://www.pref.okayama.jp/page/505223.html
中国電力株式会社「水力発電所一覧」
https://www.energia.co.jp/energy/general/water/water_all.html
鏡野町公式ホームページ
https://www.town.kagamino.lg.jp/

最終更新日: 2026.09.09