窯から出てきた鳥居
由加神社大鳥居(ゆがじんじゃおおとりい、通称「備前焼大鳥居」)は、岡山県倉敷市児島由加の由加神社本宮境内に建つ備前焼製の鳥居で、明治27年(1894年)の建立、令和6年(2024年)8月15日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
鳥居の材は木か石、近代以降は鉄やコンクリートというのが通例である。この一基は焼物でできている。備前市伊部の窯で成形・焼成された部材を山上へ運び上げ、柱間約3.2メートル、高さ約4.7メートルの規模に組み上げた。柱の最大径は約0.4メートルに達する。
備前焼は釉薬をかけない。発色は胎土の性質と焼成時間、そして窯のなかで炎と降灰にどう当たったかで決まる。茶入や水指であれば掌に収まる範囲の景色だが、ここでは同じ原理が二階建て相当の構造物の表面に及んでいる。参拝者が目にする赤みを帯びた光沢は塗装ではなく、焼き上がりそのものである。
柱には「明治廿七年」「一月建立」の刻銘がある。年紀の明確な近代工作物として、この点は登録評価の前提になっている。なお神社の近年の告知には明治24年建立とするものがあるが、柱の刻銘、文化庁データベース、岡山県の調査報告はいずれも明治27年で一致する。
登録の理由と技術的評価
登録有形文化財は、平成8年(1996年)の文化財保護法改正で設けられた保護制度である。重要文化財の指定が許可制の強い規制を伴うのに対し、登録は現状変更の際に届出を求める緩やかな仕組みで、届出制ゆえに活用しながら守るという方向に適する。本件は第107回登録、登録番号33-0369、登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。
岡山県の調査報告が価値として挙げるのは、まず製作技術の水準である。粘土は乾燥時にも焼成時にも収縮する。大きな部材に接合部を含ませれば、冷却の過程で亀裂の入る危険が跳ね上がる。それにもかかわらず本鳥居では、柱と貫の交差部、および島木・笠木の一部に一体焼成の部材が用いられている。焼成後に小部材を継いだのではなく、はじめから一体として焼き通しているわけで、明治期の伊部の窯業技術がどこまで到達していたかを測る指標になる。
もう一つは地域性である。備前焼は備前を代表する産業であり、これだけの規模の作品を神社の入口に据えるという発想自体が、地元の土と火に対する矜持の表明として読める。備前焼製の鳥居としては日本最大とする紹介が一般的で、神社側もそのように案内している。倉敷市の観光情報は製作者として伊部村の窯元・大饗千代松の名を挙げるが、これは二次資料に拠るもので、文化庁データベースには記載がない。
形式を読む
形式としては春日鳥居である。明神鳥居系のうち島木を備え、笠木・島木の反りがほとんど付かない一類で、上端の線が水平に近く見えるのが特徴になる。
ただし一般的な木造の春日鳥居と並べると、比例が明らかに違う。柱の太さに対して貫、島木、笠木の寸法がいずれも大きい。岡山県の報告書もこの点を明記している。理由は材料の側にあると考えるのが自然だろう。焼物は歪みや割れの余裕を見込んで太めに作らざるを得ず、施工後の欠損に対しても断面が大きいほど有利である。結果として、木割の感覚からはずれた、どっしりと据わった立ち姿になった。
両脇には備前焼の獅子が据えられている。神社は文政12年(1829年)、岡山藩池田家の一族である備前天城領主・池田氏の奉納と伝えており、台座には家紋が刻まれる。本来は子連れ獅子であったが、昭和期に子獅子のみが盗難に遭ったと地元では伝えられ、現在は親獅子だけが残る。
訪問を計画する方には、現況をお伝えしておきたい。本鳥居は令和7年(2025年)12月より解体修理に入っており、令和8年(2026年)6月8日付の告知で完成予定が令和9年(2027年)7月頃に変更された。工事期間中は鳥居を見ることができない。神社の説明によれば、建立以来の適宜の補修はあったものの解体修理は今回が初めてで、備前焼という特殊な構造物であることから詳細な調査を並行させながら慎重に進めているという。県指定重要文化財の本殿、同日登録の拝殿及び幣殿、三宝荒神社本殿は通常どおり参拝できる。
交通は自動車が前提になる。由加山は倉敷市街地から南東へ約13キロメートル。神社はカーナビ検索の際に「岡山県倉敷市児島由加3335」を入力するよう案内しており、これで表参道第一駐車場前に着く。駐車場は無料、境内の参拝も無料で、開門は8時から17時、年中無休である。境内での撮影に制限は設けられていないが、拝殿内や祈祷中は職員の指示に従いたい。
Q&A
- 由加神社大鳥居は今見ることができますか。
- できません。令和7年(2025年)12月から解体修理中で、令和8年(2026年)6月8日付の神社告知により完成予定は令和9年(2027年)7月頃に変更されています。境内そのものは通常どおり開いており、本殿、拝殿及び幣殿、三宝荒神社本殿は参拝・見学できます。
- 由加神社大鳥居はほかの鳥居とどこが違うのですか。
- 材料が焼物である点です。備前市伊部で焼かれた無釉の炻器(備前焼)の部材を組み上げており、高さ約4.7メートルの構造物として成立させています。茶陶や壺の素材として知られる備前焼を、荷重のかかる建造物に用いた例は多くありません。柱と貫の交差部などには一体焼成の部材が使われています。
- 由加神社大鳥居の寸法はどれくらいですか。
- 文化庁の国指定文化財等データベースは間口3.2メートルと記載し、岡山県の調査報告はこれに高さ約4.7メートル、柱の最大径約0.4メートルを加えています。観光系の記事には高さ・幅とも約5メートルとするものがありますが、公的資料の数値は上記のとおりです。
- 由加神社大鳥居はいつ登録され、登録有形文化財とは何ですか。
- 令和6年(2024年)8月15日の登録、登録番号は33-0369です。登録有形文化財は重要文化財より緩やかな保護制度で、所有者は現状変更にあたって届出を行い、技術的な指導や修理設計費の一部補助などを受けられます。歴史的景観への寄与を理由とする登録が本件にあたります。
- 由加神社大鳥居へのアクセスと拝観料を教えてください。
- 自動車またはタクシーでの来訪になります。神社はカーナビに「岡山県倉敷市児島由加3335」と入力するよう案内しており、表参道第一駐車場前に着きます。駐車場・参拝とも無料、開門は8時から17時で年中無休です。ご祈祷は別途受付となり、時間ごとに執り行われています。
基本情報
| 名称 | 由加神社大鳥居(ゆがじんじゃおおとりい) |
|---|---|
| 所在地 | 岡山県倉敷市児島由加字瑜伽2852 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号33-0369 第107回登録 |
| 指定年 | 令和6年(2024年)8月15日登録 |
| 員数 | 1基 |
| 寸法 | 炻器製、間口3.2メートル、高さ約4.7メートル、柱最大径約0.4メートル |
| 所有者 | 由加神社(宗教法人) |
| 公開状況 | 境内に建ち、開門時間内は常時見学可。開門8時から17時、年中無休、参拝・駐車場とも無料。ただし令和7年12月より解体修理中で、完成予定は令和9年7月頃。工事期間中は見学できない。 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「由加神社大鳥居」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00015089
- 文化遺産オンライン「由加神社大鳥居」
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/541457
- 岡山県「登録有形文化財(建造物)由加神社拝殿及び幣殿、由加神社三宝荒神社本殿、由加神社大鳥居」(PDF)
- https://www.pref.okayama.jp/uploaded/attachment/374735.pdf
- 由加神社本宮「境内の文化財」
- https://yugasan.or.jp/precincts/cultural-property/
- 由加神社本宮「令和8年備前焼大鳥居の解体修理について(続き)」
- https://yugasan.or.jp/post-70167/
- 倉敷観光WEB「由加山 由加神社本宮」
- https://www.kurashiki-tabi.jp/rm_see/rm-see206/
最終更新日: 2026.08.06