アーチ屋根の下のコンクリート浴場

北大東島、旧会社集落の中心近くに、変わった輪郭の小さなコンクリート建築が立っている。旧東洋製糖社員浴場の風呂場、会社の社員のために設けられた浴場だ。正面は約8.7メートル、奥行きは5.9メートル、面積はおよそ51平方メートルと小さい。それでもその設計は、周りの石灰岩造の建物とは一線を画している。

建物は全体が鉄筋コンクリート造。1920年代初め、船でしか行けない離島にあって、これは驚くほど近代的な素材だった。屋根がこの建物の見どころである。欠円アーチ形のスラブ、つまり浅く湾曲したコンクリートのヴォールトが、ずんぐりした箱に思いがけない浮揚感を与える。内部は均等な3室に分かれ、それぞれに独立した入口を設ける。この整然とした三分割は、社員浴場の使い方をうかがわせる。大広間を共有するのではなく、並んだ部屋へ入浴者を振り分けていたのだろう。

遠い島で近代の素材を使う意味

この風呂場は登録有形文化財である。この区分には意味がある。登録は、国宝や重要文化財が帯びる厳しめの「指定」に対する、より軽く広い対の制度だ。指定が選ばれた少数の作品を厳格な規則で守るのに対し、登録は地域の性格を形づくる近代の建物を広く守りつつ、所有者が使い、手を加える余地を残す。この浴場は2007年7月、国土の歴史的景観への寄与を理由に登録された。

面白さは、日常と技術的な先進性の出会いにある。鉄筋コンクリートと湾曲した構造スラブは、船でしか着けない島の小さな社員浴場にしては、洗練された選択だった。この工法で建てるには、セメントも技術も発想も、長い海路を越えて運ばねばならない。結果として、この慎ましい施設は、燐鉱の会社が日本でもっとも隔絶した共同体の一つに近代建築を持ち込んだ様子を、社員が一日を終えた風呂場のレベルまで含めて、静かに記録している。

現地で目を引くもの

まず屋根のラインが収まるくらい、少し離れて立ってみたい。欠円アーチは控えめで、劇的なドームというより、ゆるやかな膨らみに近い。けれども一度気づくと、建物全体が違って見えてくる。ただの小屋ではなく、考え抜かれた設計として読めるのだ。近づけば、正面に並ぶ三つの入口を探したい。それぞれが独立した部屋へ通じている。むき出しのコンクリートは、いまは汚れ風化しているが、その分だけ年輪を正直に見せ、構造を素直に読ませてくれる。

この浴場は、北東に少し行った登録有形文化財の貯水タンクと自然に対になる。供給を担った円形の石造貯水槽だ。まず二つをあわせて見て、それから出張所や、より大きな下阪浴場とその水取場へ歩けば、集落のひろがりがつかめる。他の遺構と同じく、ここも保護された港地区の中の屋外の場所で、係員はいない。凹凸のある面を慎重に歩き、現地の案内を尊重しながら見て回りたい。

Q&A

Qこの浴場の建築的に珍しい点は何ですか。
A全体が鉄筋コンクリート造で、屋根は欠円アーチ形のスラブ、つまり浅く湾曲したコンクリートのヴォールトです。どちらも1920年代初めの離島の小さな浴場としては先進的な選択でした。
Qなぜ入口の別な3室があるのですか。
A内部は均等な3室に分かれ、それぞれ個別に出入りします。小さな建物の中で入浴者を分けるための構成ですが、各室をどう割り当てたかまでは記録に明示されていません。
Q誰が使えた浴場ですか。
A会社の本部施設のそばに置かれた社員用の浴場です。鉱山の労働者や一般の住民は、港地区の別の場所にある、より大きな下阪浴場を利用しました。
Q水はどう確保したのですか。
A北東すぐの円形の石造貯水槽から得ていました。こちらも登録有形文化財です。残された高架タンクの基部が、ためた水を高く上げて浴場へ送った仕組みを示しています。
Q遠い北大東島まで行く価値はありますか。
A産業遺産や静かな辺境に心惹かれるなら、燐鉱時代の建物群は労を報いてくれます。島へは那覇からの短い空路か長いフェリーのみ。余裕のある柔軟な日程を組んでください。

基本情報

名称旧東洋製糖社員浴場風呂場(きゅうとうようせいとうしゃいんよくじょうふろば)
所在地沖縄県島尻郡北大東村字港24-1
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 47-0048
登録年月日2007年(平成19年)7月31日
時代大正後期(1919〜1926年ごろ)
構造鉄筋コンクリート造平屋建、建築面積約51平方メートル、正面8.7メートル・奥行5.9メートル、欠円アーチ形スラブ屋根、1棟
所有者北大東村
見学北大東島西北部の港地区、旧本部施設の近く(屋外の遺構として外観見学)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)「旧東洋製糖社員浴場風呂場」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006255
文化遺産オンライン「北大東島燐鉱山遺跡」
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/449130
北大東村 公式ウェブサイト
https://vill.kitadaito.okinawa.jp/
北大東島 観光情報サイト
https://www.kitadaito.jp/

最終更新日: 2026.06.25